―――時は西暦二二〇五年。
歴史の改変を目論む"歴史修正主義者"によって、過去への攻撃が始まった。

時の政府は、それを阻止するため、"審神者"なる者を各時代へと送り出す。

審神者とは、眠っている物の心を目覚めさせ、自ら戦う力を与える技を持つ者。

その技によって生み出された付喪神、"刀剣男士"。

刀剣乱舞より顕現せし"刀剣男士"と共に歴史を守るため、今日もまた、新たな審神者が一人、就任する事になった────────



睦月、音の無い世界



遡ること一ヶ月程前、自分宛で郵便が届いた。送り主は政府からという事で、慌てて開封してみると、内容は途方もなく現実味の無いものだった。

過去を変えんとする"歴史修正主義者"。それを阻止すべく生み出されるのは、"審神者"の力を受けた、実際の日本刀の付喪神である"刀剣男士"。

その"審神者"として、歴史改変を阻止するよう願う。と、記されていた。

どこかタチの悪い悪戯だろう、とその時は思っていた。


それから数日後のある日、誰かが家に訪ねて来たようだ。

母親が出てしばらくすると、私も出るようにと伝えられた。

玄関先では、黒いスーツをきっちり着こなした男性が、母親と話しているようだった。

私が来た事に気付いた男性は、自分の名刺を母親に渡した。それを見た母親は、その男性を家に上げ、客間へと通した。

そして、私にこの前送られてきた郵便物を持ってくるよう伝えられたが、悪戯だと思っていた物が要るとも思わなかったため、少し皺が目立つ状態になっていた。

郵便物を母親に見せると、一瞬男性に見えないように睨まれたが、すぐに表情を戻すと、自分の部屋で待つように伝えられた。

どうやらあれは、悪戯などではなく、本当に政府からのものなのかと、ようやく悟った。


約二時間後、また再び客間に来るよう伝えられ、客間に入ると、珍しく少し興奮した母親が隣に座るよう促した。

こんなに嬉しそうな母親を見るのは初めてで、同時にかすかな希望の糸が切れるような気がしていた。


◇ ・ ◆ ・ ◇



産まれた時から、私はいらない子だった。


家は、由緒ある神社で、私の家系は代々宮司を務めてきた。

宮司は男性である事が望ましく、この家の長女として産まれた私は、早くも邪魔な存在でしかなかったのだろう。


そして、私は生まれつき耳が聴こえなかった。


その事実が、更に邪魔な存在にさせていた。
だが、耳が聴こえない事で、自分が弱い存在だと認めたくなかった。
そのために、様々な努力をしてきた。

手話は勿論だが、口の動きだけで相手の言葉が理解出来るように読唇術もマスターした。
声も、少しなら出せる程度になっているが、そんなにはっきりとはまだ話せない。

それでも、私を確実に邪魔な存在としてしまう出来事が起こる。


弟の誕生である。


四つ離れた弟は五体満足で産まれ、文句無しの跡取り。

親の愛情は、それまで一度も私には向かなかったが、弟には溢れんばかりの愛情が注がれていた。

月日は流れ、私が十八、弟が十四歳にもなれば、その差は歴然だった。

弟はすっかり跡取りとしての自覚が芽生える一方、自分はというと、大人しくただただ静かに毎日を送るだけ。
いつしか、母親に認めてもらえるよう頑張る事はあまりしなくなった。
もう、何をしても無駄だという事が分かったから。
唯一の救いは、弟までもが、私を邪険に扱う事が無かった事。
彼はただ、真面目で優しく育ってくれていた。

私が望むものがあるとすれば、家族として、必要とされたかった。一度でも認めて欲しかった。

そう、思っていただけなのに。



"やっとこれで、面倒を見なくて済む"


そう言って唇が動いたのを、見てしまった。

政府の人が、焦っているのが見てとれる。

私が、もうこの家に戻れる日は来ない。
ようやくそう確信し、男性に"この私で良ければ、この話お受け致します。"と、筆談で伝えると、少し戸惑いながらも、受け取ってくれた。






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