あの花はどこに咲いていたっけ
サンビタリア(上)
彼と初めて会ったのは渋谷の娯楽店だった。私の好きな新台が入荷されるということで大学をサボって朝から入場列に並んでいた。新台ということもあり、お目当ての台で空いていたのは残り一台。ひとまず座れて安心した。今日の私には幸運の女神が微笑んでくれていたようですぐ当たった。それから順調にメダルを増やしていく。そろそろ一服しようと席を立つと同時に隣から話しかけられた。
「いきなりで申し訳ないんだけど、リーチ目出たのに無一文になっちまってビッグ揃えるまでメダル貸してくんねーか」
「ぁあ良いですよ、これで足ります?」
パチスロあるあるで当たりは確定しているのに演出のせいでメダルが足りなくなる。流石に無一文になって続けられなくなったことはないが。普段ならメダルとはいえ金銭のやり取りなので初対面の相手にこんな親切ではないが勝っているのと、声をかけてきた男の顔がタイプだったから特別だ。片手で掴めるほどのメダルを渡してから最初の目的通り煙草を吸う為に席かから離れる。そういえば隣にいた男はどこかで見たことがあるような気がするが、あんなにタイプな男と何処かで会っていたら忘れるはずがない。思い出せそうで思い出せない。まあ今後関わることはないだろうと気にすることは辞めて席に戻った。
「これサンキューな」
席に戻ると無事当てられたようで先程貸したメダルより多く渡してきた。
「あれぐらいなら気にしなくていいですよ」
「いやそれはわりーし」
「じゃあそれで何か飲みますか」
「え、いいのか」
「好きなの頼んで下さい」
彼に返して貰ったメダルを元に飲み物と交換する。交換した飲み物を渡すと子供のように喜んでくれて私まで嬉しくなった。彼の台はやっと波に乗ったようでまだまだ当たりは終わらなそうだ。私は随分勝たせて貰ったし、そろそろ帰ろうと支度する。何だか無言で帰るのも気が引けた為軽く挨拶をした。もう二度と会うことはないと思っていたが自然に「またね」と口にしていた。一月後、友達と呑みに行って程よくお酒も入って上機嫌に歩いていると道端に男が寝ていた。寝ている男に見覚えがあったがどこで会ったか、うーんと頭を捻るとあの時の彼だと思い出す。
「ねえ、ねえ、君、生きてる?」
彼の側へ近づき何度か話しかけるが反応がない。
「返事がない、ただの屍のようだ」
知らんぷりして帰ることもできないし警察でも呼ぶかと悩んでいると小さな声が聞こえた。
「………腹減った」
「食い倒れてるだけかーーい!昼に買ったおにぎりならあるけど食べる?」
「食う」
ゆっくり身体を起こして私の前に手を伸ばす。
「あれ、お前どっかで会ったことなかったけ」
「先月くらいにパチスロで会った」
「……?あーー!あん時飲み物くれた奴か!」
「そうだよ」
「あん時もそうだし、今回もサンキューな」
「これぐらい気にしないで良いって」
「お前良いだな」
「ちょっと食べ物あげただけで良い奴って単純すぎん?」
「食べ物くれる奴に悪い奴はいねーよ」
「ちょろちょろ過ぎて心配だわ、それより何でこんな所で食い倒れてたの?」
「有り金全部磨っちまって腹減って死んでた」
「馬鹿じゃないの」
「ギャンブル無しの人生なんて死んでるのと変わんねーからな」
「まあ確かにギャンブルは楽しいけど」
「お前わかってんじゃん」
「程度ってもんを考えなよ、行くとこないの?」
「無いわけじゃねーんだけど、忙しいみてーで連絡つかねーんだよ」
「家は?」
「ガス電気止められた」
「本気もんの馬鹿じゃん…、行くとこないなら家来る?」
名前も知らない男を家に誘ったのはきっとお酒のせいだ。
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