あの花はどこに咲いていたっけ

サンビタリア(下)


歩きながら軽く自己紹介をする。彼の名前は有栖川帝統と言うらしい。やっぱり聞いたことはある気がするが、どこで知ったかは思い出せない。お互いにギャンブルが好きという共通点で話が弾む。

「汚い部屋だけど、どうぞ〜」

「普通だな」

「お世辞でも綺麗って言えよ」

帝統に会ったのはこれで二回目、というかほぼ初対面だがツッコミを入れられる位には仲良くなった。

「そういえば帝統っていくつなの?」

「20だぜ」

「え、同い年じゃん酒飲む?」

「イエーーーイ」

「じゃあご飯とおつまみ作っておくから先風呂入ってきて」

そう言えば嬉しそうに風呂場へ向かって行った。

「超良い匂いじゃん〜!名前って料理上手いの?」

「普通だと思う」

待ちきれないのか元気よく挨拶して料理に手をつける。合格点だったようで美味い、美味いと言いながらどんどん減る料理をみて作った甲斐があったと思う。私は先程まで呑んでいたのでビール片手にちまちまとつまみを食べる。一通り食べ終わった帝統にもビールを渡すと手を合わせて感謝された。日付が変わる位には二人ともベロベロになっていた。何を話していたか記憶がない。

「やってしまった…」

幸い二日酔いにはならなかったがベッドの下には脱ぎ捨てられた服が散乱し、横には裸で眠る帝統。状況的に致してしまったのかと悟る。生娘でもあるまいし、ぶっちゃけ彼の顔面はドタイプストレートなので良しとする。貞操観念ガバガバか。その日の講義は3限目からだったので今から支度しても間に合う。気持ちよく寝ている彼を起こすのは可哀想だと思い、昼飯と携帯番号を記載したメモを残して出かけた。

家に帰ると彼の姿はなくて一晩の関係だったと気づく。胸が痛い気もするが完全に惚れる前で良かったと思う。本気で好きになった人と友達以上恋人未満の関係ほど辛いものはない。それから数日経ったある日、知らない番号が携帯に表示される。授業中だったので講義が終わった後掛け直すと帝統だった。

「よう、元気だったか」

「元気だったよー、帝統は?」

「この前のバトルで満身創痍だっつーの、まあ勝ったけどな!」

「バトル?ギャンブルの話?」

「ちげーよ!ディビジョンバトル」

「ディビジョンバトルゥ?帝統ヒプノシスマイク持ってんの?」

「これでも一応渋谷で有名なんだぜ」

「へー渋谷で有名って言ったらポッセじゃん」

「いや、俺ポッセな」

「馬鹿言うなよ、帝統がポッセなわけ……」

ブチッと電話を切って急いで渋谷ディビジョンで検索をかけると飴村乱数、夢野幻太郎、最後に有栖川帝統と名前があった。ずっと見たことあると思っていたがまさかの有名ディビジョンのメンバー。そりゃ聞いたことも見たこともあるわけだ。驚いていると先程かかってきた物と同じ番号。

「なんでいきなり電話切るんだよ」

「あまりに吃驚しすぎて本当かどうか調べてた、もっと早く言ってくれてもいいじゃん」

「いや聞かれねーし、言う必要ねーかなって」

彼が有名なディビジョンメンバーと知っていたとしても態度は変えなかったと思う。それから彼は時々家に来るようになっていたが男女の関係は続いていた。私はと言うとバトル中の真面目な顔や普段見せてくれる可愛い帝統のギャップにやられ、恋に落ちてしまっていた。あれほどセフレにはなりたくなかったのに都合の良い女だ。彼と並んでテレビを見ているとポッセの特集がされていた。そこで帝統が最近ハマっている物の質問をされていた時に女と答えていた。

「なに帝統、女ってもしかして私のことぉ〜?」

「おう」

肘で帝統の脇腹を冗談まじりに突きながら、尋ねてみれば予想外な返事が返ってきた。

「おうって…、そんな真面目に答えられちゃうと反応困るんですけど」

「実際名前の事好きだし」

「what?………何て?」

「名前が好きだから、ハマってるって答えた」

「トモダチイジョウ?コイビトミマン?」

「何でカタコトなんだよ」

「あまりに衝撃的すぎて」

「友達飛んで恋人以上だっての」

「でも帝統はご飯くれる人なら誰にでもなつくじゃん」

「……あながち間違えではない」

「でしょ?そりゃ私のこと好きだってわからないわ」

「好きって言ったことねぇっけ?」

「ねぇわ」

「好き」

「もっと気持ちを込めて言って下さい」

いつの間にか私はギャンブルではなく帝統に狂っていたようだ。

prev next
Back to main nobel