あの花はどこに咲いていたっけ
マリーゴールド
寒い。目が覚めて初めに感じたのはこの凍てつく寒さだった。そして暗くて狭い。ボンヤリと目を開けてみるが私の視界には暗い闇が広がっている。狭いと言ったのは比喩ではなく箱か何かに閉じ込められているようだ。
「ここどこ?」
ここに来る前、私は何をしていた?起きたばかりの頭を働かせるが一向に思い出せそうにない。家で寝ていたのか?将又、仕事中だったのか?ここがどこだかわからないが、ひとまずこの寒さをどうにかしなければ死んでしまう。出ようと肌にぶつかる壁を押したり蹴ったりしてみるがびくともしない。詰んだわこれ。享年28とは短い人生だったと思う、実際にはまだ27だけど。誘拐を疑ってみるが特別可愛いわけでもなければ、誰かに恨まれるようなことをした覚えはない。それから何度か壁を叩いたり、助けを呼んでみるが変化なし。こんなわけのわからないところで死にたくない。最期には美味しいものをお腹いっぱい食べて、家族や愛した人に看取られて死にたい。
実際の時間はわからないが、体感的には数時間過ごした気がした。何も見えない何も聞こえない暗闇の中、寒さと孤独に立ち向かうがそろそろ限界のようだ。
「さよなら、パトラッシュ…迎えが来たようだ」
意識が途切れる寸前、某アニメの名シーンを思い出してしまう我ながら残念な脳味噌に自嘲気味に笑った。
これは夢だろうか。空も陸もない。右も左もわからない。ただ薄暗い空間に漂っている気がする。意識がはっきりせず、高熱が出た時にふわふわする感覚と同じだ。ふと足元をみると鉄鎖が巻きついた。鉄鎖を解こうとするが雁字搦めになっていて中々解けない。暗闇の中伸びる鎖の先がどこに繋がっているか気になり引っ張って見るものの何もない。いくら引っ張れどもジャラジャラと長い鎖は足元に貯まるだけだった。それから何をするでもなく、ただぼうっとしていると声が聞こえた気がした。振り返るとポツンと微かに光っている。
「誰?何て言ってるの?聞こえないよ」
何か言っているが遠いせいで聞こえない。光の方へ向かって行けば足に巻き付いた鎖がジャラジャラと音を立てた。ああ、鬱陶しい。
パチッと目を開けると天井にある大きなライトが見えた。私は仰向けに寝ていたようだ。先程まで箱のようなものに閉じ込められていたがいつの間に出られたのだろうか。地に手をつき上半身を起こして周りを見渡す。ここはどうやら体育館で、ちらほらと何人かずつに固まって集まっているようだ。それにしてもかなりの人数がいる気がする。私が起きたことに何人か気づいたようで三人の女の子が走って近寄ってきた。
「ねえ、あなた大丈夫?」
「目が覚めたみたいで良かった〜!」
「どこか痛いところない?平気?」
三人から一気に安否を尋ねられるが一人ずつにして欲しい。しかもハイクオリティなコスプレイヤーまでいる。合わせでもしているのだろうか。とりあえず何か返事をしなくては、と口を開こうとすると遅れて一人やってきた。
「三人とも心配していたのはわかるが、彼女は起きたばかりだからもう少し落ち着いて聞いてあげてくれないか」
そう諭すのは赤司征十郎だった。
人間は驚きすぎると固まって何も出来なくなるのはご存知だろうか。もしくはそんな場面に出会したことはあるだろうか。いや、私はない。こんな赤司征十郎にそっくりなレイヤーを見たことがないし、今後もこれ以上に勝るレイヤーを見ることはないと断言できるほど似ている。心なしか声まで似ている気がする。とりあえず名前が知りたい、写真が撮りたい。あわよくば一緒に撮りたい。あまりの驚きに声を失って彼を見つめていると、蹲み込んで優しく大丈夫かい?と訊ねてきた。
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