「……バレンタイン?」


バレンタイン。2月14日に女性が好意を寄せている男性にチョコレートを贈る、年に一度の特大イベント。毎年数多くの男がチョコレートを巡って火花を散らせ、女は誰が何を誰に送るのかという情報収集に勤しむ、もはや戦場と言っても過言ではないのかもしれない。


「そう! そのバレンタインのことで、みんなに相談したいことがあって」


エッヘン、と胸を張る宇佐美の前には、小南、千佳、御琴という玉狛女子メンバーが勢揃いしている。何故かホワイトボードまで準備してある始末だ。


「……まさか、そのためにあたしたちをここまで呼んだの?」
「正解! こなみ1ポイント!」
「いや、なんだよそのクイズ番組」


ちなみに今現在、玉狛支部に男子メンバーはいない。迅は本部へ呼び出し、烏丸とレイジは防衛任務、林藤支部長は陽太郎を連れて出掛けている。つまり、このようなイベントを企画するにはピッタリの時間なのだ。


「それでね、次のバレンタインの日に……みんなで玉狛男子にサプライズしようと思って」


「バレンタインドッキリ大作戦」と書かれたホワイトボードをバン、と叩いて、宇佐美は言う。丁度バレンタインの前日は、今ここにいる玉狛女子は全員非番だ。なのでその日に女子全員でチョコレートを作り当日に玉狛男子に渡すという、極めてシンプルな作戦。


「別に、いいんじゃねーの? あたしは異論はないぜ」
「あれ、意外。てっきり御琴ちゃんが最初に断るかと思ったんだけど」
「どーせ断っても、宇佐美さんのことだから何かしら理由つけて強制参加にでもするつもりだったんだろ?」
「あはは、バレちゃったか」


ちなみに、小南と千佳も異論はないようだ。


「でも……作る場所はどうするんですか? 玉狛の台所じゃ、前日にバレちゃいますよね?」
「それは大丈夫。この日だけ本部の調理室を女子限定で解放してくれるから、そこに行って作ろうか」


もっとも、これは「ぜひご慈悲を!」というバレンタインでも防衛任務漬けのボーダー男子、そして恋する乙女たちの苦情に対し、上層部が出した苦渋の決断なのだが。


「ちなみに少し多めに作るから、余った分は各自で好きな子にあげていいよ? 御琴ちゃんなんかは、特に」
「? なんであたし?」
「またまた〜陽介から聞いてるんだからね。最近御琴ちゃんと出水君って、仲良いんでしょ?」
「えっ、そうなの?」
「そうなんですか?」


にやけながら言う宇佐美の言葉に最初に反応したのは、御琴ではなく小南と千佳だった。なぜそれを宇佐美が知っているのだろう御琴はと思ったが、米屋と宇佐美は従兄弟同士だ。知っていてもおかしくはない。


「いや、別にそこまで……」


自分と出水公平との接点。席は斜め前、昼食は米屋陽介と共に三人で、防衛任務の場合はほぼ一緒に下校、そして任務後のランク戦……。


「……まあ、少なくはないな」
「おお〜」


確かに、出水にはかなり世話になっている。ここらで一度何かを送ってみても良いかもしれない。


「なら、そうと決まれば早速行動に移そう! まずは、何を作るか決めるところから!」


ドン、と机の上に大量の料理ブックを置く宇佐美と、我よ我よと夢中になって読み漁る小南と千佳。二人にも、誰か渡したい相手がいるのだろうか。


「……バレンタイン、かあ」


そもそもこんな会議をしている時点で、サイドエフェクトのある迅にはバレバレなのではないのだろうか。そう口に出してみたものの、返ってきたのは「大事なのは相手のために何かをするってことなんだよ。それがもしバレバレでもね」という宇佐美の言葉。


「……ふうん」


もしも故郷でバレンタインをやったら、一体どんなことになっていただろう。御琴と、あのくそムカつくエリートお嬢様と、あの裏切れなかった裏切り者と、あのひ弱なお姫様と。四人でぎゃあぎゃあ言い合いながらチョコを作って、不自然で歪なチョコを無理矢理男子メンバーに食べさせて。きっと、楽しかっただろう。

ただ、仲間と一緒にいる時間があまりにも短すぎて、考える暇すらないままそんな未来は閉ざされたのだけれど。


「……これは、頑張らねーとなあ」


自らも料理ブックの和に入るため、しばらくしてから御琴も席を立った。
2016年バレンタイン大作戦(前編)



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