心拾いのすすめ


 ヘイムダルから帝都近郊にかけて、観測史上稀に見る大寒波が襲来していた。


 ので、リーヴスには雪がこんもりと積もっていた。さすがにたった一晩で雪景色に様変わりすることもなく、足元ではしとどに濡れた石畳が馴染み深く顔を覗かせているが、それでも路肩に寄せられた雪は珍妙なオブジェのように存在感を漂わせている。子供達は見たことも無い積雪に心を躍らせてわいのわいのとはしゃいでおり、一方その後ろでは大人達が覚束ない足取りで店先の雪を取り除いていた。

 しかし悲しいことに、想定外の環境に置かれ、例え発着時刻に厳しいとされる帝国鉄道が軒並み運休と遅延まみれになったとしても、職場や学校は止まってはくれないのが世の常だ。多少登校時間が繰り下げられただけで変わらない通常授業に肩を落とす生徒たちをよそに、リィンは一足先に寮を出て分校へ続く道を歩いていた。

 冬は雪に閉ざされるユミルで育ったせいか、こういう道の歩き方には多少心得がある。視界に映る中でどこに足を置けば転ばないかなどは、長年で培った直感が物を言っていた。要は凍結路面以外、靴との摩擦が正常に生まれる場所を歩きさえすればとりあえず問題はない。ざっと見た限り凍っている箇所はゼロに等しいので心配はないだろう。

 ただ、生徒の中にはまだ雪に不慣れな者も多いから、そう簡単にはいかないだろう。誰かが怪我をする前にHRで注意しておかなければ。そう心に決めたリィンの耳に、後方からある足音が聞こえてきた。同時に自身の背からぴったりと離れない視線も受け取ったので、おそらく目当ては自分だ。一度立ち止まろうかとも考えたリィンだったが、それをかき消すように一層明るい声が寒空に響く。


「リィン教官〜!」


 トン、と背中に小さな衝撃が伝わる。少女に押された程度でたたらを踏む体幹ではなかったので少し前のめりになる程度で済んだが、雪道で不意打ちとは危険行為極まりない。幸い足元が凍っていなかったから良かったものの、もしも凍結路面でやられていたらいかに《剣聖》と言えども無様な姿をさらしていたかもしれなかった。


「おはようアスティ。元気なのはいいが、雪道でいきなり背中を押すのはあまり褒められたことじゃないな」
「あっはは〜テンション上がっちゃってつい」


 ごめんなさーい、と特に悪びれる様子のないアスティの首には、まだ真新しいマフラーが巻かれていた。それから、両の手には手袋も。どうやら事前に天気予報を聞き、前もって寒波に備えていたようだった。


「っていうか教官それ寒くないんです? 防寒具何もないじゃないですか」
「ああ……ユミルではもっと冷え込む日もざらにあったからな。これくらいの気温なら特に問題はないさ」
「さすが雪国出身。でもこの時期は寒暖差大きいですし、油断して風邪引いても知りませんよ〜?」
「ハハ、気をつけるよ。アスティこそまだ寒さに慣れきっていないようだし、十分暖かくして過ごしてくれ」
「……はーい、ご配慮痛み入りまーす」


 出たな、この気遣いの鬼め。少し前までなら鬼という単語は洒落にならなかったけれど、もうそろそれ時効だと勝手に思っているので脳内で遠慮なくぶちまけてやった。《黄昏》を終えて贄から解放されたのだとしても、この男の過保護っぷりは何ひとつ変わっていなかった。

 アスティは手元の時計で時間を確認すると、ぱたぱたとリィンの数歩先を歩く。


「それじゃ、私はお先に分校行ってますね! 教官、またグラウンドで!」
「ああ……グラウンド?」


 後半の台詞が引っかかったので聞き返そうとしたが、紅色の少女はチャーミングなウインクをひとつ飛ばすと持ち前の運動神経で器用に雪道を進み、あっという間に遠くまで言ってしまった。これでは聞けそうもない。

 仕方ないので、グラウンドの件はひとまず頭の片隅に追いやることにする。ふう、とひと息吐くと、普段太刀を握っている手を自身の背に回し、軽い接着力でくっついた紙をぺりっと剥がした。

 アスティが最初にリィンの背を押したのは、現在リィンの手にある封を彼の背中に貼るためだ。そして《剣聖》の名を授かった者が、それに気付かないはずもない。十中八九悪戯目的だろう。彼女の考えそうなことだった。

 さて、一体何が書かれているのか。あまりにも過激な内容でさえなければ、見なかったことにしても良いのだが。そう思って封をひっくり返し、書かれていた文字を読み上げる。

「……果たし状?」









 分校のグラウンドで、《Z組》の生徒六名がせっせと雪を運んでいた。


「教官来てくれるかな〜」
「アスティ、結局何て書いて渡したのよ?」
「果たし状」
「……それ、意味違くない?」


 渋面を作るユウナと多少的に、アスティはきょとんと元々大きな目をさらに大きくして見上げた。

 人を呼び出して戦うにはこれ、と確かに本で読んだのだけど。残念な事にアスティには書で身に着けた中途半端な知識しか持っていなかったため、本来の使用目的を全く理解していなかった。


「まああの人のことだし、教室に僕たちがいないと知れば大体察しはつくと思うが……」
「あ、来た来た。きょうかーん! こっちこっちー!」


 グラウンドのスロープを下ってこちらに向かってくる白い外套に向けて、アスティが手を振った。いつもの凛々しさを残しながらも、その顔は困惑で満ちている。手には今朝アスティが押しつけた果たし状がご丁寧に挟まれており、本当に律儀な人だなとクルトは陰ながら思った。


「えっと、これは一体……」


 混乱するのも無理はなかった。朝から謎の決闘状が送られ、教室に行けば揃っている筈の顔ぶれがことごとく消えている。何かが起こっていると気づきはしたが、具体的にどんな事態に陥っているのかはさっぱり分からない。誰もいない教室で呆然と立ち尽くしていてもキリがないので、唯一の手掛かりである果たし状に従ってグラウンドに来た……と、そんな経緯だった。


「ふふ、私たちから教官への、ちょっとしたサプライズのつもりだったんですけど」
「とりあえず何かの事件に巻き込まれたようじゃなくて安心したが……アスティ、もちろん説明してくれるよな?」
「げ、私〜?」
「招待したのはアスティさんですから、必然的にそうなるかと」


 ついでに言うなら主催もアスティだ。だから説明責任はアスティにあると、《Z組》の総意だった。


「なんて言うか〜……教官、雪合戦しません?」
「雪合戦?」


 重要なところの大部分をぼかして伝えられていることはリィンにも分かっていたが、なぜ、雪合戦。理由を聞き返してもアスティはうーんと誤魔化すばかりで答えようとはしなかった。


「雪が降って気がはやるのは分かるが、学生なんだから授業が最優先だ。俺はともかくオーレリア分校長の許可を……」
「あ、分校長にはもう許可貰ってまーす」
「…………」


 どうしてそういう時だけ異様に行動が早いんだ。教え子の成長は喜ばしいことだがこうやって稀に出し抜かれることもあるので、ちょっとした爆弾を抱えたような気になった。


「分かった。今日は始業時間が繰り下げになったから多少なら問題ないだろう。だが、せめてHRだけでも先に……」


 そのとき、リィンの視界に突如白い軌跡が流れた。雪玉だ。真っ直ぐにリィンの頭部目掛けて飛んできたそれは、一般人からすれば剛速球に近い速度だっただろう。だがリィンはそれを難なく避けると、雪玉の飛来した場所をじろりと見つめる。こういう時、真っ先に顔面を狙ってくるのは《Z組》悪ガキコンビのどちらかだ。


「……アッシュ」
「ハッ、御託はいいんだよ。それとも、教官殿は生徒相手に負けるのが怖くてやってらんねえってか?」
「あはは、アッシュ煽るね〜」


 これはもう、彼ら彼女らが満足するまで付き合わないと解放してくれそうになかった。足元から手のひら分の雪をひょいとすくい上げる。


「……雪合戦にも、いくつかマナーがある。中に石を入れないのは当然として、注意するべきは雪玉の硬さだな。当たった瞬間に崩れるくらいがベストだ」


 芸術点の高い投球フォームで投げられた雪玉が、アッシュの足元で割れた。当てる気のない、威嚇目的のそれであると一目で分かる。

 その一球を見て、アスティはしてやったりと笑った。

 この教官、案外ノリが良かったりする。









 そういうわけだから、アスティたちは再起不能までに叩きのめされた。


「負けたー! ボロ負け!」
「あくまで手は抜かないってわけね……」


 体力の切れたアスティとユウナがほぼ同時に倒れ込む。仰向けになって地面に寝転べば、白と青の比率が半々くらいの冬空がぱっと視界を覆った。そこから少し顔を横に向けると男子二人組が最後まで粘っている様子が見えるが、状況を見るにあの二人が白旗を上げるのも時間の問題だろう。


「いやー、フラッグ戦とかにしなくて良かったー! 本当! ほぼ訓練だよこれ!」
「お二人とも、お疲れ様です」
「あれ、アルにミュゼ。クルトくんとアッシュの方はもういいの?」
「教官の勇姿は、それはもう堪能させてもらいましたから。それに、私も少しだけ疲れてしまいましたし」
「いや、ミュゼは雪玉作るくらいしかしてなくない?」


 ゲーム中、彼女が投げるところは一度も見ていなかった。同じくアルティナも雪玉制作係として後方にいたが、彼女が彼女で《クラウ=ソラス》での壁役という大役も同時に担っていたので、一度も前に出ていないのはミュゼだけだ。もっとも、彼女がパワータイプでないことなど最初から分かり切っていたので、文句なんてひとつもないのだが。


「あ、終わった」


 起き上がったユウナが残った男子チームの方を見てぽろっと呟いた。見れば、クルトとアッシュの双方が膝をつく一方で、リィンは手袋に付いた雪を払いながら涼しい顔を浮かべている。


「クソ、本当にガチで来やがった……」
「遊びとはいえ、生徒からの挑戦状だからな。手を抜く理由がないさ」


 それが戦闘であれ勉学であれ雪合戦であれ、教え子からの宣戦布告には必ず全力を賭して応えてやるのがリィンの信条だ。彼を呼び出すのに果たし状なんて使ってしまったのが間違いだったとも言えるが、社会人としての規範を重んじる彼に“HRサボって雪合戦やろうよ!”などと言ったところで付き合ってくれるかどうかは微妙なラインだった。


「それで、どうしていきなり雪合戦を?」


 アスティの元までやってきたリィンが手を差し伸べる。アスティはばつが悪そうにくちびると尖らせると、


「……だって、教官がやったことないって言ったから」


 と、自供するようにその手を取った。









 話が上がったのは、つい一週間ほど前のことだった。


「えっリィン教官の誕生日って5月なんですか!?」
「ああ、そのように聞いているが」


 ユウナの声が《Z組》の教室に響く。それは、別件で分校を外しているリィンの代わりにミハイルがHRに来ていた時のことだった。

 少し早めに号令も済ませたため、HRと言ってもほぼ放課後のようなものだった。生徒同士で雑談をしている最中に偶然誕生日の話題になり、そういえばリィン教官の誕生日を知らないぞと思い悩んでいた時にミハイルから告げられた。少し前の彼ならば絶対に混ざらないであろう会話であったが、分校に就任して多少は生徒たちに絆されたようだ。

 驚きの声が上がる中で、アスティが重々しく口を開く。


「私たちさあ……リィン教官の誕生日お祝いしてなくない?」
沈黙。記憶を遡ってみるが、やはりそんな記憶は欠片もない。


 だって、思い返してみても仕方のないことだ。5月と言えばアスティたちが分校に入学してまだ少ししか経っていない。サザーラントでの演習を終えてやっとリーヴスに戻ってきたと思ったら、今度は実習で進まなかった分の教科書の範囲を詰め込むに詰め込まれた。さらにそれを過ぎれば、次はクロスベルでの演習だ。そうなるともう誕生日なんて思い浮かびもしなかったし、たとえそれが自分の誕生日であったとしても頭から抜けるくらいに忙しかった。おそらくリィン本人も忘れていただろう。

 そして季節を二つ通り過ぎて、今は厳冬の季節だ。今更プレゼントを贈ったところで、あまりにも遅すぎる。次の誕生日を待つ方が賢明なのは明らかだった。

 かといって何もしないのも、それはそれで申し訳なかった。彼がいなければ成し得なかったことがいくつもある。捧げるべき感謝の言葉も、両手の数じゃ全然足りないのに。

 よって、季節外れにも程がある誕生日祝いを執り行うことにした。

 そういうわけだから、翌日、リィンの元にアスティが派遣された。


「リィン教官、何か欲しいものとかないんです?」


 職員室でリィンのデスクに寄りかかる姿は、新人教師にウザ絡みする女学生のそれとそっくりだった。


「……特には思いつかないな。急いで必要なものも今はないし」
「じゃあ、やりたい事とかは?」
「それも特には。強いて言えば、君たちの卒業を見届けられたらそれで満足だな」


 とんでもなく重かった。

 誕生日プレゼントが教え子の門出だなんて、重いにもほどがある。まさか自分の誕生日プレゼントの要望を聞かれているとは微塵も思っていないリィンは、ただ正直に聞かれたことを答えただけだったのだが。


「教官って、無欲ですよねえ」
「? そうか?」
「そうですよ。じゃなきゃ……」


 帝国の呪いを背負って大気圏外に飛ぼうなんて思わない。

 未練っていうのは大半が欲望から来るものだ。何を成し遂げられなかった、身内が心配で離れられない、怨敵に復讐しなければ気が済まない……形は違えど、どれも立派な欲望だ。そうした欲望が足を引っ張って、人は生を手放せずにいる。欲に繋ぎ止められている、と言ってもいい。

 だけどこの教官は、その鎖がすこぶる脆かった。目の前に自分の命と引き換えに自分以外の全員が最大限の幸せを手に入れるボタンがあったとしたら迷わず押すような、そんな危うさを含んでいる。もはや自己犠牲が癖になっていた。本人が無自覚な分、尚更タチが悪い。


「はあ、教官と一緒に育つと色々大変そう。エリゼさんにちょっと同情しちゃった」
「えっと、今の話の流れでそうなるのがよく分からないんだが……」
「そういうとこですよ。教官の幼少期を一度見てみたいかも。ちゃんと近所の子と馴染めてました?」


 えらく失礼なことを言われた気がするが、これまで散々“朴念仁”“初恋泥棒”“今一番爆発してほしいタラシ野郎優勝者”などの評価を一切隠すことなく投げられてきた身としては、背中をちょっと小突かれる程度の印象でしかなかった。感受性が完全にバグっていた。


「幼少期か……特別変わった子供でもなかったような気はするが。他の子供たちともよく遊んでいたな。冬になれば毎年のように雪合戦をやっていたし」
「雪合戦? って、あの相手に雪玉ぶつけて叩きのめした方が勝ちみたいなスポーツですよね?」
「……表現に語弊はあるが、まあ大体はそんなかんじだな」


 エリゼとも打ち解けて、他の子供たちとも交流が生まれた頃には、自然と雪合戦にも参加していたような気がする。ユミルのスポーツと言えばスノーボードが有名だが、あれは子供が保護者なしで気軽にできるようなものではない。したがって子供たちが冬に行う外遊びは、雪合戦か雪だるま作りが定番だった。


「へえ。たしか教官って、子供の頃から《八葉一刀流》習ってたんですよね? 雪合戦で無双しちゃったりしました?」
「《八葉一刀流》を何だと思っているのか聞いてみたくもあるが……まあ、それはまずないな」


 リィンにとってそれは、力を得るものではなく自身を律するためのものだ。だから修行以外で使ったことはないし、ましてや遊びでだなんてもっての他だった。

 けれど、根本的な理由はまた別にあった。

 恐れていたのだ。自身の内に潜む“鬼”の存在を。首を絞めつけるような呪いの手を。

 《八葉一刀》はそれを押さえ込む鍵だ。もしもいたずらに錠前をもてあそんで、ふと扉が開いてしまったら。友人を、エリゼを傷つけてしまったらと考えたら、とても怖くて、逃げ出したくなった。

 思えば、鬼の力が発現してからはあまり雪合戦にも参加しなくなった気がする。稀に行ってもそれは友人付き合いの範疇で、子供らしくはしゃいだりだとか、そういう無邪気で無垢なものとは一度も遭遇したことはなかった。

 それを聞いて、なるほど、と思った。

 自身の内側に得体の知れないものを飼っているという点で、アスティは間違いなく理解者だった。この教官は、きっとそうやって我慢し続けてきたのだろう。友人のため、家族のためと押さえに押さえ込んで、いつしかそれが自分自身の幸福だと錯覚してしまうまでに至った、悲しい怪物だ。

 でも、なんだかそれはもったいない気がした。

 失ったものを取り戻そうとアスティに手を差し伸べたのは他でもないリィンだ。その彼が、腐り落ちた童心に気付くことなく歩いて行ってしまうだなんて、ちょっと寂しすぎやしないか。

 その時から、アスティの脳内にはある計画が描かれていた。









「教官はさ、落としたものに気付けないタイプなんですよ。たぶん自覚すらないんだろうけど」


 スカートの雪を払って、アスティはそう言った。


「《黄昏》も終わって、贄からも解放されて、いろんな厄介事も終わらせたんなら、あとは落としてきたもの拾ってあげなきゃ可哀想ですよ。とりあえず第一弾は、全力雪遊びチャレンジってことで」


 向日葵のような笑顔を見せる彼女が、リィンにぐい、と手を伸ばしてピースサインを作る。このお調子者め、とユウナからの視線が刺さったが、それをひとしきり無視した上での笑い顔だった。


「そうか……ありがとう、みんな。よ」


 一対六という圧倒的に不利な状況下なものだから、胸に吹き荒れる悩みや心配事なんて考えている暇もなかった。幼い子供というのは、こうも晴れ晴れとした気持ちで息を吸えるものだっただろうか。だとしたら、それはとても、良いことだ。


「ともあれ、これでリィン教官のお誕生日のミッションは完了ですね」
「ああ、誕生……え、誕生日?」
「いえ、教官の誕生日が5月というのは僕たちも存じていますが……その、何もしていなかったなと思って」
「それなら、こう考えられてはいかがでしょう。今回は少し早い誕生日前夜祭ということで……」
「あっミュゼそれナイス〜!」
「本祭は、教官と二人で夜景デートなんてどうでしょうか?」
「全然ナイスじゃなかった〜!」


 アスティの長い自白が終わると、一気にグラウンドが騒がしくなった。生徒の陽気な声に積もった雪も溶けてしまうのではと思うほどに。

 いつか彼ら彼女らが卒業をして、この暖かい場所にリィン一人だけが残るのかと考えると、少しだけ心寂しさを感じてしまう。


「でもまあ分かりづらかったのはあるし、特別サービスでもういっこ要望聞いちゃいますよ。私たちでできることなら、何でもやりますし!」
「……そうだな」


 腕を組み、瞼を下ろして思い耽る。再び目を開けた時、ちらりと視界の端に映ったものたちを見て、リィンはやっと口を開いた。


「……とりあえず、HRをさせてくれないか」


 グラウンドの外では、《Z組》以外の生徒たちがこぞって雪合戦を見に来ていた。皆、『何《Z組》だけ面白そうなことやってるんだ』という若干の不満を背景に掲げながら。

 その後、分校長の鶴の一声で繰り下げ登校どころか授業が軒並み雪合戦に塗り替えられるのを聞きながら、リィンは言おうとしていた要望は次の誕生日でもいいかだなんて考え始めていた。





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