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春。桜も散り際になる頃。
ある者は新たな出会いを求め、またある者は別れを惜しむ季節。
卯月桜夜にとっての春は、前者だった。
といっても、対象となるものは常人とはややかけ離れているのだが。


「クロウ先輩かっこいいなー」
「ちょっと、ゲームしてる横で敵をかっこいいとか止めてよ。倒しづらいじゃん」


キラキラと目を輝かせて見つめるのは、ここ杜宮市駅周辺にあるスターカメラに一角。テレビに写し出された男性を、サクヤはうっとりとした目で眺めていた。


「倒さなくてもいいわよ! むしろ卯月が倒されたい!」
「え、お姉ちゃんMだったの!?」


サクヤを見て、隣にいた少年はコントローラを動かすのをやめた。
もちろん、二人に血の繋がりはない。サクヤにとって少年は、ただの通りすがりの少年Aでしかないのだ。


「もう少しクロウ先輩の姿を見ていたいけど、卯月はそろそろ出席日数をとりに学園へ行かなければならないんです。……あ、そこ紅葉切り使って」
「わかった。じゃあね、お姉ちゃん」
「はいはーい。……あ、今のうちにSクラフトを使った方が」


そう言い残すと、サクヤはスターカメラを出た。
今日も昨日と変わらない晴天が、杜宮市の上空に広がっている。


「あーあ、晴れちゃった。卯月は、曇りが好きなんですけどー」


文句を言いながら、サクヤは学園へと足を進める。
とっくに登校時間は過ぎているが、全く気にしない。サクヤにとって、登校は通常通りだろうが遅刻だろうがたいして変わらないのだ。


「おはよーございます、と……」


サクヤが教室のドアを開けると、生徒の視線は、サクヤへと注がれた。
興味本意で見る者、少しの怒りを交えて見る者、本当にどうでもいい者。なかには、隣の席の生徒と小声で話す者もいる。

だが、そんなことはサクヤは慣れっこだ。教師にいたっては、何も言わずに好きなようにさせている。
この学園で、サクヤにとやかく言う人物はいないのだ。
それもそうか、とサクヤは一人で納得してみる。みんな、卯月の後ろが"面倒"なんだ。
クラスメイトなどまるでいないかのように、サクヤは自分の席に座る。
隣のの席が一つだけ、空いていた。


「あーあ、つまらないなあ」


休み時間になっても、サクヤに話しかける者などいない。
ちょっぴり。ほんのちょっぴりだけ、それが寂しかったのは内緒。


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