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放課後、サクヤは一人で商店街に来ていた。人が多くも少なくもないこの商店街は、駅前や七星モールに比べると非常に歩きやすい。
せっかく学校が早く終わったのだ。すぐに帰っては勿体ない、とサクヤは先ほど買ったコロッケをかじる。

さて、蓬莱町のゲームセンターか、駅前のスターカメラか、七星モールのアニメイトか。
そんなことを考えていると、人気のない路地裏に、何か変だ、という違和感があった。
何が変なのかはサクヤにもわからない。見たところ変わったところもないし、普段と変わらない、コンクリートと錆びた鉄に囲まれた路地裏だ。


「………?」


疑問を抱きつつも、サクヤはその場を後にする。
サクヤの足音が小さくなると、路地裏の空気が渦を巻いた。




* * * * *





「やっぱりゲームは最高ですねー! 流石は日本のエンターテイメント」


ゲームセンターを出たサクヤは、嬉しそうに笑いながら家へ向かった。
時刻はもう深夜で、街灯や店の明かりだけが頼りとなっている。


「あれは……時坂洸先輩? 今日も変わらず深夜までアルバイトって、完っ璧校則違反じゃないですか……」
「…………卯月?」
「あ、時坂先輩。今日も校則違反お疲れ様です」
「……それを言ったら卯月も、こんな時間にゲームセンターで遊んでたなんて、校則違反じゃねえか」
「あは、よくわかりましたね、先輩」


杜宮学園二年、時坂洸。彼とサクヤには、面識があった。
サクヤは、かなりの頻度でゲームセンターがあるここ、蓬莱町に来ている。コウも蓬莱町にあるバーでバイトをしていることがあり、顔を合わせることが多いのだ。

と、その時、蓬莱町を照らす明かりがすべて消えた。店の電気から街灯まですべてが消え、辺りがざわめく。
それに加えて、今日は月が見えない。そのため月明かりも頼りにならず、周辺は真っ暗だ。かろうじて、目の前にいるコウがぼんやりと見えるくらいか。


「停電? 雷も何もなかったと思うんですが……」
「くそっ! なんなんだよ!」


サクヤとコウの隣で、一人の男性が声をあげた。
携帯電話だろうか。男性はずっと手元を見つめ、どこか焦ったようにしている。


「…………っ!? マズイ、卯月。離れるぞ!」
「え、時坂先輩!? ………っ、きゃああ!?」


急にコウがサクヤの手を掴んで走り出したかと思えば、サクヤの体はそれとは反対方向に引っ張られる。その力が強すぎて、コウとは手を離してしまった。


「卯月っ!」


そして、一瞬のうちにサクヤは赤い扉に吸い込まれてしまったのだ。


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