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シオの話によると、街外れにある廃工場を《BLAZE》は本拠地にしているらしい。
今のアキヒロは、彼らの恩人である"カズマ"という男を死へ追いやった《ケイオス》というグループを憎み、打倒《ケイオス》と掲げて動いている。超人的な"力"を得ることができる《異界ドラッグ》――《HEAT》は、そのために開発されたものだ。
ならば、今夜はそれに備えて戦いの前の準備をしているところだろう。

九重神社を出ると、コウの祖父であるソウスケに、担任兼従姉のトワ、さらに先日《蓬莱町》で会ったヤクザの若頭、ゴトウまでもが集まってわざわざ見送りに来ていた。
不良であるシオとゴトウが知り合いなのは何となくわかるが、ソウスケとゴトウが知り合いということには孫であるコウでさえも驚いていた。ヤクザの若頭に「九重先生」と呼ばせるソウスケは、一体何者なのだろうか。


「……」


正直、《異界》に入るのはまだ怖い。
シオと共に《異界》へ堕とされたあの時、何故かはわからないがサクヤはシオに攻撃をしようとしていた。
その時に握った《ソウルデヴァイス》の冷たい感触が、今もまだ残っているのだ。




* * * * *





「――どうやら本当に見失っちまったみたいだな」


アキヒロは、《ケイオス》どころか《BLAZE》にも容赦はしなかった。明日の予定だった《ケイオス》侵攻を無理矢理今夜にずらし、従わない者は《異界》へ堕とす。
ただ目の前の、カズマの敵討ちしか頭にないのだ。


「……なんだか、可哀想な人ですよね」


ずっと、カズマのいう鎖に捕らわれ続けている。……いや、それは卯月も同じだ。生まれたときから、頭にあるのは卯月の「家」のことだけだった。今もそれは、続いているのだろう。
こんな男と共通点なんて、持ちたくないですけど。


「どうやら良いお仲間を手に入れたみてぇじゃねえか……アンタもようやく《BLAZE》を完全に捨てられたってわけだな……?」


そう言うとアキヒロは、自らの《HEAT》を取りだし、口へ運んだ。その量は、前回の数倍にも及ぶ。手のひらいっぱいのドラッグだ。


「やめろ――アキ!」
「その名でオレを呼ぶんじゃねえ!!」


赤く染まる《異界》の力。《BLAZE》のメンバーは、その気迫に耐えられずにただ恐れおののくだけ。


「何もかも、オレの"焔"で焼き尽くして、燃やし潰してやらあ……!」


だが、そうはいかなかった。アキヒロの背後に、突然空気を引き裂く赤いヒビが入ったのだ。それは、《異界》への《門》が現れる直前だという証。


「! あれは……」


そしてアキヒロは、自分が作り出した《異界》へ飲み込まれた。《HEAT》を過剰に摂取したことで、"特異点"と化してしまったのだろうとアスカは言う。
それを見た《BLAZE》メンバーは、「リーダーが消えた」と一目散に逃げ出す。一般人に《門》は見えないので、ただアキヒロが空中に消えたとしか見えていないのだろう。


「みんな――行くぞ!」


コウを先頭にして、一行は《異界》へと足を踏み入れた。
だが、


――鬼さんこちら。


サクヤにだけ聞こえたその声を、彼女は聞こえないふりをしていたのだ。この時は、まだ。


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