無事に週末を終えた私は、月曜日の朝、憂鬱な気分のまま学校へと向かっていた。言わずともわかるだろうが、水無月さんとあの佐野という少年の件でもう気分が悪いんだ。
「おは、よー……」
途中で合流した橋本に気だるげな挨拶をすると、同じくらい暗い気分で「おはよう……」と返された。別に理由は聞かなくてもわかる。塾の宿題が大変だったんだろう。
クラスに入ると、何人かの同級生から視線を向けられるが、全力でスルーする。そして、やっぱり窓側の自席に座っている水無月さんに、恐る恐る声をかけた。
「お、おはようございます」
「…………」
「えっと、佐野ミナト、さんからまた伝言をもらってきました。『何かあったら、いつでも言ってほしい』って」
ぼそぼそとそう伝えると、水無月さんは眉間にしわを寄せて、不機嫌そうな表情になった。あ、これ怒らせた感じ……?
「……本当に懲りない男だな。らちが明かない」
「そ、そうですね?」
「…………」
よくわからないことをぼそっと呟かれて、変な返事をしてしまう。どんだけ慌ててるんだ私は。硬直していると、水無月さんはそれ以上何も言わなかった。
もう何か言っても無駄だと思い、ぎこちない動作で彼女の前にある私の席に座ると、橋本からメモを渡された。
『今日は逃げないでね! 水無月さんとの関係を洗いざらい吐いてもらうよ!』
……なんていう物騒な言葉の横には、無駄に愛らしい顔文字がついている。うわぁ、本当に面倒なことになった。
「……という経緯がありまして」
「ほうほう。成程〜」
下校中に、しつこく迫ってきた橋本にとりあえずここ数日あったことを話してしまった。いや、あんまりにもしつこいから仕方なく。別に秘密にしといて、と言われたわけじゃないし、大丈夫だろう。
「伊織! これはチャンスだね!」
「……何が?」
「これから、伊織がそのイケメン君と水無月さんの2人を自分のモノにできるチャンスってことだよ!」
まったく意味がわからない上に、頭が痛くなってきた。きらきらとした目を向けてくる橋本を全力で無視すると、私は俯いてため息をついた。多分、今日も一応佐野に報告しないといけないんだろうなぁ。
「あ、やばい! 塾に行かないと!」
「はいはい。行ってらっしゃい」
「事後報告お願いね!」
事後報告ってなんだ。やだよ、そんなの。私が唖然としていると、走っていた橋本の姿が曲がり角へと消えていった。