「じゃあ、行ってきます」
「家の中だからといって、油断するんじゃないよ」
両親の声のあとに、玄関の扉を閉める音と鍵のかかる音がする。私は無事に両親が行ったことに安心しながら、ホッとため息をついた。母の作ってくれた夕食を食べテレビをつけると、ちょうどニュースで特集がやっていた。
『へぇー、流星ってそういうものだったんですね。始めて知りました!』
綺麗に化粧をした女性アナウンサーが感心したように頷いている。どうやら流星群特集をやっているらしかった。今日は流星群が発生する日のそうだ。そういえば、昼間クラスメイトがそんなことを言っていた気がする。すっかり忘れてた。
その隣にいる専門家らしき中年男性が、真面目そうな表情で話し始める。
『今回の流星群は今夜8時ごろから、始まりますので、お見逃しのないようにしてください。また、一つ一つが一瞬のことですので、しっかりと頭上を見上げていてくださいね』
とても一瞬……か。まあ、こんな機会も滅多にはないし、見に行ってみるか。
私はテレビを消すと、上からパーカーをはおり、懐中電灯と財布を持って家を出た。しっかりと戸締りはしたし、問題はないと思う。
夏とは言え、涼しい風の吹く夜道を一人でてくてくと歩いて行く。たまに頭上をあおぐが、まだ流れ星がふっている様子はない。
10分ほど歩くと、住宅路からはずれ、田舎道へと出た。その少し先には小さな丘があり、私のお気に入りのスポットだ。丘を上り、草の上に寝転がる。程よい涼しさの風と、満天の……とまではいかなくても、あちこちにちりばめられている星を見ていると、なんだか眠気がやってきた。
こんなところで寝たらまずいとは思いつつも、重くなってきたまぶたに抗えきれず、目を閉じる直前、赤い流れ星のようなものが視界にうつるのが見えた。慌てて目を開けるが、既にその赤い流れ星はなくなっていた。
気のせいだろうかと思い、また目を閉じようとしたときだった。
「こんなところで寝ていたら危ないよ」
ハッと起きあがり、声の人物を探そうと顔を左右に振る。ただ、あんまりにも慌て過ぎて、頭が上手くついていかない。
「ここだよ」
ふっと笑うような言葉に、今度こそしっかりと声の主を見ると、そこに立っていたのは一人の少年の姿だった。
「え……っと。こんばんは?」
なんて言えばわからず、結局まぬけな挨拶をすると相手の少年に苦笑された。
「こんばんは。何をしているの?」
「あー、星を見にきてて……」
「寝ているように見えたけど」
やっぱり見られてたか。なんとなく気まずくて、あはは、と頬を指でかきながら笑うと、少年は「隣に座っていい?」と私に訊いてきた。別に断る理由もないので頷くと、少年は私の横に座る。
一気に近くなった相手の顔にギクッとしてしまうが、よくよく見てみるとなかなかの美形だ。住宅街からそんなに遠くないとはいえ、あまり明るくないこの場所でもよくわかるぐらいにイケメンだ。私のコンプレックスが刺激される。
「今日は流星群なんだってね」
私が一人でいじけているのに全く気付かず、少年は淡々と話し始める。
「……こんなに沢山降っているのに、結局中身はないなんてね。悲しいよね」
「え?」
目が伏せられて、低く呟かれた言葉に「?」となってしまうが、少年は私のそんな様子を気にも留めずに立ち上がった。
「俺もう行かないと。ごめんね、寝るの邪魔しちゃって」
にこっと微笑まれるその顔はやっぱりイケメンそのものだが、言っている内容は嫌みっぽく聞こえる。私がネガティブ過ぎるだけなのだが。
と、視界の隅にちらっと映った赤い光にまた意識を取られる。思わずそちらを見ると、一瞬だけ赤く薄い光が空を横切って消えていった。赤い流れ星なんてあるのだろうか。
「ねぇ、今の……」
見た? と言葉を続けようとして、振り返った私はそのまま口を閉ざした。もう先ほどの少年はいなかった。
まるで、最初からここにいなかったみたいに消えていた。