01

六番街スラムの路地裏は、まぶしいネオンの光が差し込むだけで、夜は寒さと静寂が支配する場所だった。

わずか5歳の少女が、小さな体を丸めて廃材の山に身を潜める。茶色く汚れた髪と、泥だらけの頬。細い肩は震え、薄い布切れのような服では冷たい風を防ぎきれない。名前すら覚えていない両親に捨てられた記憶も曖昧で、彼女にとってこの世界は生まれた時から孤独だった。

その夜、彼女はどうにか食べ物と寝床を探して彷徨っていた。行き交う大人たちは誰一人として彼女に目もくれない。泣いても叫んでも助けは来ないことを、この年齢にして彼女は悟っていた。

「なにしてるんだい」

艶のある女性の声が、薄暗い路地に響いた。驚いて顔を上げると、そこには鮮やかな着物を身にまとった女性が立っていた。肌蹴た衣装と、絶妙にまとめられた髪。濃い目のメイクが、その存在感を際立たせている。スラムの住人には珍しいほど品のある佇まいを放つ彼女を、少女は目を見張りながら見つめた。

「こんなところで何してるんだい?」
「…あ、あの…おなか…すいて……」

途切れ途切れの声で答える少女を見て、女性――マダム=マムは片眉を上げた。

「ふぅん…親は?」

マムは軽くため息をつきながら腰をかがめると、少女の顔をじっくりと眺める。ラベンダー色の大きな瞳と右目の下にある小さな泣きぼくろが印象的だった。今は汚れに隠れているが、この子は磨けば確実に輝く。そうマムの勘が告げていた。

「アタシのところに来るかい?」

その一言に少女は目を丸くし、少し間を置いてから小さく頷いた。 その決断の速さにマムは驚く。

「安心しな、これからはあんた一人じゃない」

そう言いながら、マムは少女の小さな手を優しく包み込んだ。そして、鮮やかに赤い口紅の唇を微かに歪めて笑みを浮かべた。

「いいかい、あんたをスラム一……いや、ミッドガル一の女にしてやるよ」

その手の温もりに少女は驚きながらも、どこかほっとしたように、ぎゅっと握り返した。その夜、少女――後のみみは、初めて孤独ではない未来を感じたのだった。

こうして、みみはマダム=マムの元で育つことになる。彼女にとっての新たな人生が、この出会いから静かに始まった。


***


マダム=マムの目に狂いはなかった。スラムの片隅で拾った小さな少女は、彼女の手腕によって磨き上げられ、やがて誰もが振り返る存在へと成長していった。

まず、美容と体作りから始まった。マムは、みみの肌や髪を丹念にケアし、あらゆる化粧術を教え込んだ。泥や埃にまみれた肌は真っ白で、汚れと共に絡まっていた髪は洗って櫛を通すとすぐに艶のあるカシスブラウンが現れた。汚れに隠れていた美しさが日に日に際立っていくのを、マムは満足げに見守った。

だがマムは外見だけでは終わらせない。スラムという環境では、強さと自信も必要だった。

「いいかい、あんたが一番頼れるのは自分の身体だ」

そう言って、マムはみみを連れて男男男へ通わせた。ジーナンを始めとする元兵士や用心棒、果てはストリートファイター達と共に筋力づくりに励んだ。そして護身術や戦い方をみっちり叩き込まれたみみは、小柄ながらもしなやかで強靭な身体を作り上げていった。男たちは半ば呆れるほど、彼女の飲み込みは早かった。ジムの汗と叫び声の中で、みみは何度も倒れ、何度も立ち上がった。その努力は彼女のしなやかな筋肉と無駄のない動きに表れ、やがて「男にも引けを取らない女」へと成長した。

さらに、マムは教養にも目を向けた。手揉み屋の常連で、かつて教師だった老人にみみを預け、読み書きから歴史、経済、礼儀作法まで徹底的に学ばせた。スラムにいながらも、みみの知識と振る舞いはどんどん洗練されていった。

「頭が良くないと、生き残れないわよ。覚えておきな」
「はい、マム!」

そうして、年月が過ぎるうちに、みみは外見、身体、そして教養すべてを兼ね備えた女性へと成長していた。艶やかなカシスブラウンの髪を揺らし、紫の瞳で見つめられると、男たちは誰もが釘付けになる。細身ながらも女性らしい丸みを帯びた体型は見る者を魅了し、内面から滲み出る知性と強さがさらに彼女を輝かせた。 街を歩けば、男たちは思わず足を止め、女たちは振り返る。みみが手にするものは、すべて手に入るように見えた。そして、そんな彼女を見て、マムはいつも誇らしげに笑った。

「どうだい、アタシの目に狂いはなかったろう?」
「ふふ、マムのおかげだよ」
「違うね。自分でつかみ取ったんだよ。あんたは強いんだから」

みみの胸の中には、マムへの感謝と、自分自身への自信が刻まれていく。彼女はただスラムの片隅ですすり泣く弱い少女ではなく、どんな困難も自分の力で乗り越えるだけの力を備えた才色兼備な女性へと成長した。