01.
「治崎さん」
「・・・ん。」
「おーい。若頭。」
「・・・んん」
「オーバーホールさーん」
「・・・煩いな、何だ」
「あの、いい加減膝から降りてください。」
「・・・・・・・・・・・嫌だ。」
「もう!何もできないんですけど!」
「しなくていいだろう、何も」
「・・・いや、ちょっと携帯だけ欲しいかな、なんて」
「不要だ。」
漫才のようなやり取りだけど、恰好がおかしい。
治崎さんは私の膝に頭を置いて、かれこれ一時間は動かない。
お喋りが好きなわけではないから、こういっては何だけど・・・退屈なんだ。
「俺が休んでる。邪魔するな。」
「・・・っもう、俺様なんだから!!」
ふてぶてしいにも程がある。
だいたい極度の潔癖の癖に、私の膝にどっかり陣取って、ブツブツのひとつも出ない。
ほんとに潔癖なの!?
「・・・治崎さん、たまに子供みたいになりますよね。」
「・・・あァ?」
「駄々こねちゃって、ほんと子供みたーい」
「・・・子供かどうか、確かめてみるか。」
むくり、と起き上がる。
やっと解放された膝は、いい加減痺れている。
「え、ちょ、」
「どれ、ちょっと試してみようか。」
「あっ、待って、動けない」
こういう時、大体すごく意地悪をされるってわかってる。
それも・・・性的な。
なんとか逃げようともがくけど、足は痺れて言うことをきかない。
「治崎、んん」
がぶり、と唇を食べられた。
もう反応してる、私の体。
手首を取られて、頭も捕まって。
1センチも動けない。
れろ、と舌が入ってくる。
「っふ、ん・・。口は、きたない・・・って、こないだ、自分で」
言ってたくせに!
そこまで言えずに、また舌を絡めとられる。
マスクなしの、破壊力抜群のイケメンが間近にいる。
それだけでも赤面ものなのに。
治崎さんは、2人のとき、どうしようもなく甘えん坊だ。
「っや、ちょっ!するって、言ってな・・・!」
「する。今したくなった。」
「暴君・・・!」
お屋敷の一室で、誰か入ってくるかもしれないのに・・・!
抵抗むなしく、私の衣服は次々と剥がされていく。
ホントに、こういう時の手際、なんなの。
するすると解くように、あっという間に半裸にされる。
トントン。
「っきゃーー!」
「喚くな。」
「若、入りーーー」
「入るな。」
「・・・へい」
危うく開きかけたドアを、一声で停止させた。
ドアの向こうにいる組の人、かわいそう・・・
だけど、今、半裸だから!
入ってこないでくれて、ありがとう!
「例の件で電話がきてやす」
あ、玄野さんだ。
話し方ですぐわかる。
「かけ直す。伝えろ」
「へい」
短い返事を残して、玄野さんはその場からいなくなったみたい。
よ、よかった・・・!
こんな状況なのに、治崎さんは私の胸をまさぐってるし!
見られなくてよかった、本当に。
「・・・っちょっと、治崎さん!」
「邪魔が入ったな。どれーーー」
「どれ、じゃない!」
どれだけ喚いても、結局は治崎さんのやりたい放題。
場所だけは寝室に移してもらったけど、
その後、私はとくと「大人」を感じる羽目になった。
そして、次の日。
「あいたた・・・。」
「お疲れでやすね、シズク」
「あ、玄野さん、おはよ」
「もう、ほんと、我儘すぎだよ・・・大変だったんだから!」
「お察ししやす。」
マスクで全く見えないけど、玄野さん、絶対笑ってるでしょ。
痛む体をひきずって、背の高い玄野さんを見上げる。
恨めしそうにしても、どこ吹く風。
死穢八斎會の、いつもの日常。
わりと和やかに過ごす私たちの、日常。
終わりが近づいてるなんて、この時は誰も思っていなかった。
「シズク、新しいシノギが始まる。」
「え」
組長さん、私の叔父さんに当たる人が謎の病気で倒れた。
組は荒れて、一時は散り散りになりかけた。
それを治崎さんがまとめることになって、経緯はわからないけどー
まだ、お屋敷の中も悲しい空気に包まれていた。
それなのに、治崎さんは見たこともないような冷たい目をしてそう言った。
「待って、治崎ー」
「忙しくなる。しばらく遠縁の家にでも行っていろ。」
「・・・!」
こちらを一度も見ない、治崎さん。
2人の時は絶対にしない、完全なお仕事モードの顔だ。
邪魔しちゃいけない、
これからこの人にかかる重圧を考えたらーーー
なのに。
「離れたくない」気持ちが強くて、無意識に治崎さんの袖に掴まっていた。
「治崎、さ」
「・・・聞こえなかったのか。」
「嫌、です」
「・・・はァ、聞き分けがないな。」
小さいけど、はっきりとした拒否を伝えた。
だけど、治崎さんはこっちを見ない。
袖を振り払われて、歩き出してしまう。
ふと、嫌な予感がよぎった。
いなくなって、しまう。
大好きな、この人が。
背中がぼやけて、見えなくなっていくビジョン。
「ま、って」
「・・・」
「傍に、置いてよ・・・治崎さん、行かないで」
「・・・駄目だ。行け。」
「お願い、邪魔・・・しないから!」
少しだけ足を止めてくれる。
もしかしたら、冗談だ、って、笑ってくれるの?
いつものように、優しい顔に、声に、戻ってくれる?
希望だけを込めて、治崎さんを見上げる。
「・・・屋敷にはいていい。
だが、地下には絶対に下りてくるな。」
「・・・!」
砕けて散った、私の微かな期待。
ちらりと振り返った治崎さんの目には、何も映っていなかった。
「オーバーホール、本当にいいんで・・・?」
「・・・何がだ」
「シズクに、本当の事・・・」
「クロノ。それは、俺に命令してるのか・・・?」
「・・・いえ、すいやせん。」
押し黙る玄野に一瞥をくれて、地下に下りる装置を起動する。
オヤジが沈黙した、させた今、
俺にはやることがある。
そして、それは。
(言えるわけがねェだろう・・・シズクにだけは、絶対に。)
あいつにだけは、知られるわけにいかなかった。