05.

治崎さんが個性を少し取り戻し、腕も短時間のみ再現できるようになったことで、
私の気持ちは完全に明るくなっていた。

「〜〜♪」
「お、ご機嫌だな、お嬢」
「ん?ふふ、わかります?」

お屋敷で声をかけられても、ニコニコが止まらない。
何があったんだィ、と聞かれても、何とか誤魔化す。
危ない危ない、内緒にしなきゃいけないのに。

「ち、さ、き、さーん」
「・・・元気だな」

お部屋に入ると、治崎さんは片腕に義手を付けようとしている所だった。

「あ、それって今日届いた義手??」
「あァ、試しに着けようと思ったんだが・・・うまく行かない」
「手伝うよ」

さすがに片腕だけは手伝ってあげなきゃ、大変だよね。
冷たくて重い義手は、とても精巧な作りだ。
八斎會のツテで義手を注文したのは聞いていたけど、
実物を見るのは初めてだった。

2人で四苦八苦して装着した義手は、なかなかの威圧感だった。

「なんか・・・すごいね。」
「お前の語彙は何だ・・・。」
「うーん。すごく、強そう。ロボって感じ。」
「重くて動かしづらいな・・・」

原理はわからないけど、動きもするみたい。
治崎さんは確かめるように数回グーパーをする。

「義手を注文しておけば、個性復活のカモフラージュになる」
「そう、なの?」
「あァ、個性が戻りつつあることは、身内にも、警察にもまだ知られたくない。」

わかるな、と片眉を上げてこちらを見る。
黙ってろってことでしょ。
わかってます。

ひた、と頬に義手を添えられる。

「冷たい」
「・・・これじゃあ、面白くないな。やっぱり抱くときは普通の腕がいい」
「・・・まだ、朝なんですけど。」

ジト目で睨むと、意地悪そうな笑顔。
ちっとも聞いてないんだから。

「まァ、義手をベースに再構築してもいいが・・・」

鉄の腕を動かしながら、何かを考えこむ治崎さん。
個性を活用するために、元からたくさん勉強をしていた人だ。
きっとまた難しいことを考えていて、私にはそれはちんぷんかんぷんなんだろう。

「この腕でも、抱かれてみたいか?」
「きゃ」

急に私を抱きしめて、耳元でささやく。
もう、めちゃくちゃいい声だから、ほんとに・・・心臓に悪い。

「治崎さん、何か・・・前より、その。」
「ん?」
「強く、なってないですか。性欲・・・的な。」
「・・・ぷ、そうかもな」
「何で笑うの!」
「一度失ったから、怖くなったのかもな・・・。」

目元を緩めてそう言った治崎さんの言葉は、何よりも重く心に響いた。
失ったのは、腕だけじゃない。
個性は戻ってきてるけど・・・

治崎さんの思い、組を思って立てた計画。
組長さんへの恩。
プライドや自信が、一度は砕けてしまったのだから。

「・・・シズク、お前は」
「・・・?」
「いや、何でもない。」
「え、何・・・言って。」
「いい。それより、やっぱり試そう」
「あっ、ちょ!ブラ取らないで!」

なし崩しにされたけど、多分。
あの言葉の続きは、バカな私でも想像できる。

シズク、お前は。

いなくならないでくれ。

プライドの高いこの人が、続きを紡げるわけがない。

私は治崎さんに身ぐるみ剥がされながら、そんな事を考えていた。
それからもう一つの思考が浮かぶ。

・・・これは、誰にも言えない計画だ。
少し煮詰めてから、実行しよう。
一般人の私にしか、できないこと。
ヤクザとして警察に登録されている、死穢八斎會の人たちには、絶対にできないこと。

「・・・ふふ、」
「何だ。良すぎて壊れたか。」
「・・・違います・・・。」
「なら、もっと強くしていいな。」
「ちょっや、ああっ!」
「可愛いぞ、シズク・・・」




















そして数日後。





私は、敵連合の本拠地に赴いていた。














「・・・で?なんの用だ?」
「あの、仲間にしてもらいたくて。」

敵連合のトップ、死柄木弔。
対峙すると初めてわかる、ものすごく濃い負のオーラ・・・
飲み込まれそうになりながら、何とか言葉を返す。

「お前、一般人だろ?」
「はい」
「それに黒霧の情報じゃ・・・八斎會と繋がりがある。」
「・・・はい。」
「そんな女が、ウチに入りたい・・・ねぇ。」

じめじめとした感覚が、体中を這う。
ただ睨まれているだけなのに、強いプレッシャーだ。


私がなぜ、ここにいるかというと。

先日思いついた計画に関係してる。

ちなみに、ここにいることは、治崎さんは知らない。



「ウチは誰でも入れるわけじゃない・・・アンタの有用性を示せ。」
「・・・と、言いますと・・・」
「俺らがアンタを引き入れるメリットは、なんだ?」
「・・・えっと、」

私は戦闘員向きじゃない。
だけど、こいつらが欲しがる能力がある。

負けるな、畳みかけろ。
治崎さんの為に。

「顔が、割れてません。」
「・・・」

一般人のアドバンテージ。
顔も個性も、未知数のただの女。
警察にもヒーローにも、ばれずに接触・行動できる。
今敵連合は、全員といっていいほど顔、個性、本名などが割れてしまっている。
大所帯になって動きづらいのもあるはず。

オールマイトの引退、神野での事件。
それにこの間の八斎會での事件。
大きな事件に必ず敵連合が関わっている。

小さな工作や情報収集に、困っているはずだ。

「・・・アンタ、けっこう肝座ってるね。」
「そうでしょうか」
「俺の記憶が確かなら、オーバーホールには大事に隠してたオンナがいる・・・
 それ、アンタなんじゃないの?」

焦るな。顔に出すな。

「・・・いえ、私はただの、性処理奴隷です。
 ずっとひどい扱いを受けてきて、今回の事件を機に逃げ出してきました。」
「・・・へえ」

言いながら、少し傷つく。
確かに最初に抱かれたころは、ホントに奴隷みたいな扱いだったけど。

「腕を失ったオーバーホールにいつまでも虐げられる理由がありません。
 かといって、一度ヤクザの家に出入りした者が世間に戻るには苦労が避けられません。
 日陰で生きて来たので、日向には戻れないんです。」

死柄木が私を見る目が、にわかに色づく。
興味を持たせることに成功したようだ。

「・・・奴隷、ね」
「試しますか」

出来るだけ平静を装って、言う。
最悪これで汚されてもいい覚悟で来た。
治崎さんのためなら、汚れてもかまわない。
この後、彼に触れてもらえなくなったとしても。

「アンタはさ、オーバーホールに未練ないの?」
「ありません。」

即答すれば、不気味な手の奥にある目が光った。
かなり懐に入れた、はず。
死柄木は立ち上がり、私の目前で顔を覗き込んでくる。
そして、ぞっとするほど冷たい声で、

「まだ信用もできない女に手を出すほど、困ってない。思い上がるな」
「・・・」


少しまずったようだ。
どうする・・・
逡巡していると、死柄木の視線が外れた。

「まぁいい。しばらくここにいて、監視してやるよ。
 俺たちの仲間にふさわしいかどうか。」
「・・・ありがとう、ございます。」











そうして、私は敵連合に潜り込むことになった。