05.
「こんばんは。」
できるだけ感情を殺した声で、男に声をかける。
玄野の情報によれば、シズクの同僚で木下という名だ。
「え?あ、こんばんは。」
「突然すみません。人を待っているのですが。」
男は急に声をかけたにも関わらず、きちんと視線を合わせて応えてきた。
ふむ、今どきの若者というには、少し礼儀を知っているようだ。
「はあ・・・俺にわかる人でしょうか?」
営業マン然とした木下は、染み付いた愛想の良さで協力姿勢を見せる。
お人よしの、平和ボケ。
こんな男がシズクを守れるわけがない。
俺は確信をもって、言葉を続ける。
「シズクさん、という方なのですが。伺っていた退社時間がもう過ぎていて・・・」
「シズク?あ・・・」
シズクの名前を出せば、分かりやすく木下の感情が揺らいだ。
もしかすれば、もう俺の話をシズクの口から聞いているのかもしれない。
「えーっと・・・まだ、残業してるんかな?見てきましょうか?」
「あァ、いえ。そこまでは。すれ違っていなければ、待てますので。」
踵を返しそうになっている木下を制して、にっこりと笑顔を張り付ける。
「あ、じゃあ、ちょっと待っててください。」
木下はエントランスにある受付で、スタッフに何かを聞いてきた。
シズクが退社していないことを確認してくれているのだろう。
まぁ、実はまだ自分のデスクで何やら残業しているのは報告されている。
これは牽制だ。
「すいません。まだ、仕事してるみたいっす。」
「わざわざありがとうございます。時間を割かせてしまって、申し訳ない。」
「いえ・・・あの、失礼ですけど、」
「はい?」
「お友達、ですか・・・?」
目に浮かぶのは、探るような色。
木下はシズクに多少気があるようだ。
俺を隈なく観察して、値踏みしている。
「はい、最近知合いまして・・・仲良くさせていただいているんです。」
「・・・そう、ですか。」
木下の顔が曇るのが、なんとも嬉しい。
さて、これくらいでいいだろう。
「では、邪魔にならないように待たせていただきますね。」
「あっ」
礼もそこそこに、車へと取って返す。
背中に奴の視線を感じるが、俺はあえて悠々と歩いた。