「・・・気分はどう?」

「・・・」

ベスの澄んだ瞳が、拘束され椅子に座る女を見つめている。
努めて明るく振舞おうとしているベスとは裏腹に、彼女の態度は固く閉ざされている。
目線を合わせてくれる気遣いも、優しい声色も、
彼女の奥に座るダリルの無言の圧力でほぼ帳消しの様相だった。

「え、っと・・・せめて、名前くらいは聞いてもいいよね?」



それでも態度を崩さずに問いかけてくるベスに、彼女は乾いて重たい口を、ほんの少しだけ動かすことにした。



「・・・シズク」

「・・・!シズク、私はベスよ!彼はダリル。」

ほんの一言の返事でも、とても嬉しそうな様子のベスは、自分とむっつりと黙りこくった男とを指して言った。
ダリルは相変わらず話さない。

久しぶりに発した声は嗄れていて、口の中が乾いて気持ち悪い。名前を言っただけで、彼女は少し咳き込んだ。

「お水、どうぞ。」

すぐにベスは口許に水筒を近づけ、水を飲ませてくれた。久しぶりのきれいな水は、温くてもとても美味しく感じた。

「・・・ひとりでここに隠れていたのか?」

水を飲み終わったところで、ダリルが口を開いた。
彼女は返事がわりに、こくんと頷く。

「周囲に人の気配はなかった。」

当然だった。
彼女はずっとひとりだ。

「敵意はなさそうだが、念のため拘束は解かない。」

「・・・離して、くれたら、去ります。」

「だめよ、シズク、あなたは栄養失調になってる。体に傷もいっぱいあるの。手当てしなくちゃ」

ベスが先ほどあちこちに触れていたのを思い出す。
彼女は医療関係者なのだろうか。
たくさん喋ることもできないので、シズクはベスに首をふるだけで、手当てはいらないと伝えてみた。

傷だらけで当たり前だ。
ずっとひとりで、あちこちを彷徨ってきた。

「とにかく、消毒しなきゃ。まずはきれいに拭かないとね」

ベスは水筒と床に転がる密造酒を拾い上げ、布に染み込ませてシズクの体を拭き、傷を消毒し始めた。

「気休めだけどね。」

しっかり消毒するにはアルコール濃度が足りないとか何とか言いながら、ベスはどんどん作業を進めていく。
やがて顔や腕などの見えている部分がきれいになると、その作業は一段落したようだった。

「よし、ひとまずこれでOK。あとは布や替えの服が欲しいところだけど…」

そこまで言うと、ちらりとダリルを見る。