01
ふと、いままで水底に沈んでいた意識が浮上したような気分だった。
なぜ忘れていたんだろう、と思うほどには懐かしい記憶たちがどこからともなく頭に流れ込んできた。
白昼夢のような映像を見たその瞬間"私"という自我が確立された。



はあい。今生ではブルストロードというファミリーネームをもらって誕生してきたアルトちゃんです!
3歳位までは本当に普通の子供だったはずなのに、ある日前世の記憶を取り戻しました。なぜ。
と言っても、死因なんて全然覚えてないし、前世の自分がホンモノの自分だ!っていう意識はなく、あ、これ前世や、と感慨深くなるくらいの気持ちだった。

そんなことより、意識を取り戻してからの生活は一変した。何がって、ここは魔法界だった。
前世は所謂マグルと呼ばれる立場の人間だったから、今まで3年間の間散々見てきた筈の魔法がキラキラ輝いて見えた。

きゅっきゅっささっとリズムよく勝手に動くモップや塵取りなどの掃除具に、家(元日本人の私からすると「家」なんて言葉じゃ役不足、もはや豪邸?)の地下には魔法薬をつくるための部屋がある。

前世の私が想像してた通りの緑色のねっとりした液体がグツグツ音を立ててたまにポッポと作りかけの魔法薬が空気を微爆発させるのすら楽しかった。
しもべ妖精のフィービーは指をパッチンとするだけで色々なことが出来た。
その時は私の中でいかにかっこよくパッチンするかという遊びが流行った。
もちろん被害者はフィービーだ。

何よりも私のお気に入りの部屋は父のコレクションルームだった。
この部屋には魔法の道具が所狭しと高い天井の上から下まで本と一緒に詰められていた。
それはそれはファンシーな見た目で(言うなればダンブルドア校長の校長室)、入った瞬間に聞こえてくるコチコチ、という振り子が鳴らす音が大好きだった。

天井近くからほられている窓は陽射しのある日だと、色々な魔法道具が反応して、守護霊の呪文みたいな白い気体でできたユニコーンや不死鳥が部屋中を飛び回りキラキラとした小さな結晶が降り注いでくる。
そんな父のコレクションルームは私にとって夢いっぱい詰まった宝のような存在だった。


「へっへっへ父さん!ここで会ったが100年目!杖を買ってはくださいませんでしょうかお願いしますぅ」


ずさあ、と音がつきそうな勢いでスライディング土下座からのごめん寝ポーズをしてやった。
何を威張ろう、魔法の力を発現させているのに8歳だからって杖を買ってくれないのだ。
魔法族なのに。魔法族なのに!!!


「……言葉遣いに気を付けろと何度言えば分かるんだ? ブルストロード家の一員たるもの、父上と呼べと何度、」
「ぱぱうえ」
「……」
「父様」
「……はあ。杖は11歳になるまで待て。幼すぎる子供に与えても禄なことにならん」


グチグチと杖を買わない理由を説明してくる父さんはやっぱり頭がコチコチだ。何度頼んでも買ってくれない。
こんな父さんなんてぱぱうえで十分だわ、ケッ。
とりあえずそのツルツルサラサラな透き通るような金茶の髪の毛が禿げるように念じた。


「ぱぱうえ〜」
「やめなさい」
「…じゃあ呪文についての本読む」
「それと、もう少ししたら客が来るから大人しくしてなさい」
「げえ」


私を一瞥して溜息をはあ、とつくとコートをはためかせて部屋を出て行った。
ついでにあっかんべーを見舞いしてやったぜ。

じゃあ、書斎に行くか、と横を振り向くと、目を細めて胡乱げに見つめてくるフィービーの姿が。


「……」
「……」
「……みてた?」
「……見てましたとも」


そこから、お説教第2弾が始まった。あーあー、うるさいでござるぅ。
まったく私の教育係気取りのフィービーは私がこういうことするといつもピーチクパーチク口を尖らせる。
いやん私ってば思われてる……。

大体あなたはいつも、ブルストロード家としての自覚が足りないんです!といい、フィービーがお得意の指パッチンをした。
すると、どこからともなく出現する黒板、ザマスが付けるチェーン付きの眼鏡に古びた本と机と椅子。
どう見ても学校スタイルですありがとうございました。

ホラ!早くお座りなさい!そう言って腰に手を当てながらチェーン付き眼鏡を掛けるフィービー。
実に偉そうである。


「……で、今日は何ページから?」
「231ページでございます」
「ずっと思ってたけど、なんで眼鏡かけるの? 目、いいよね?」
「…ゴホン。 形から入るというのはとても大事なことでしてね」


まあそれは追追、とモゴモゴ口を詰まらせながら本の内容に移ろうとした。
ちなみに、この教育係気取りのフィービー先生カッコ仮は私がブルストロードらしくない振る舞いをするといつもブルストロードの歴史についての授業を始める。
つまり、この授業は毎日開かれている。

ブルストロードは元より魔法についての知識量が他より多い一族のためウンヌンという言葉が右耳から左耳に抜ける。
そんなこと知ってて一体全体何に役に立つんだか。


「じゃあ今日はここまでといたしましょう」
「やった!」


再び指パッチンするフィービー。今日はいつもより短かった! と喜ぶ私。
そして、フィービーはやることがありますので、とさも忙しそうに姿あらわしで消えてしまった。

私も指パッチンで魔法使えるようになりたい。お?これいい考えじゃね??
杖なしでもある程度魔法使えたらハリポタ界で最強じゃね??
今生の目標が8歳にして決まったわ。


「目指せ杖なしウィッチ魔法界ナンバーワン!」


その場でクルッとターンを決めて最後に右腕を頭上に伸ばし人差し指で1を作り左手を腰に当てた。
アルト選手決まりました!10点9点10点!と自画自賛してると感じる視線。
その視線を辿ると、黒髪のかわいこちゃんが。


「……」
「……」


あれ?これデジャヴ??本日2回目、しかも今回は初対面の人。
初印象は大事っていうよね!てことで、


「ンン、やあ、私はアルト・ブルストロード、以後お見知りおきを。…してあなたはどなたです?なぜここに?」
「……や、あんた取り繕っても遅いぜ」


声上擦ったけどブルストロードらしい挨拶だと思ったんだけどなあ。
彼には不評らしい。


「俺はシリウス・ブラック」
「! やや、あなたさまがかの有名な!シリウス・ブラックさまでしたか!ははあ、なるほどなるほど」
「なんだよそれ!」


そう言ってケラケラ笑う彼はなるほど、ちっちゃい頃から顔が整っている。
10年もしないうちに女の子をしこたま誑し込むとんでもないイケメンになっていることだろう。


「父さんが、Mr.ブルストロードと話すから、お前と遊んでこいってさ」


ま、わざわざ父さんに付いてくるの面倒だったけど、来てみてよかったわ! そう言ってニカッと笑う。


「で、お前はあの妙なポーズ何をやってたんだ?」
「アー、あれは、私の決意の現れというか人生の目標…的な? ところで、シリウスくん、きみ、杖、持ってます? 私父さんに頼んでも買ってくれないんですよ!! 私たち魔法族でしょう? なのに杖を買ってくれないんです!! つまり!何もできない!」


ダン、と地団駄を踏んだ。


「そういや俺もまだ持ってないわ。まあホグワーツに入学する時に買ってもらえるだろ」
「それじゃあ遅いんだよォ! ホグワーツ入学まで何年あると思ってるんですか?! あと3年!! 一日千秋というでしょう? 何十万の秋を私は越さなきゃいけないんだ!」


意味分かんねえとぼやくシリウスに、私もあんな事やこんな事したいでござるぅ、と言って唸る。


「てかホグワーツまであと2年だろ?」
「ナニいってんですか。あと3年だよ」
「あ? ……じゃあお前一個下なのか」


………………。親世代と一緒だと思ってたのに一個下だったのか。
これはちょっとザンネン、一緒にグリフィンドールに入って行動を共にしたかっ、、、ていうか私スリザリンしか許されないか。のーん…。


「俺一個下に弟いるぜ」
「ほう」
「まあアイツは正しくブラック、て感じの奴だけど」


俺のこと慕ってきて可愛いんだぜ、とはにかむシリウス。
「ひゅ〜ハニカミ王子! ヨッ!」と茶化す。うっせ!と返してくる奴は放置して考える。
このシリウスまだそこまで原作の時ほど純血主義に対して反発してなくないか?
……まだ? そうだ、まだ、だ。
いつから決定的になるんだっけ? グリフィンドールに入ってから…? お、思い出せない。


「そういえばね、シリウスくん、私ホグワーツとはまだ決まってないんだよ。なんか父さんが淑女らしさを身につけさせるためにボーバトンに行かせたいって。もちろん駄々こねましたけど」
「まじかよ! おいおい一緒にホグワーツ行こーぜ!!」
「行きたいですよ!」


そう、マイ・ファザーはさっき言った通りフランスの女子校であるボーバトンに行かせようとしている。
前世を思い出しはっちゃけた私の行動はぱぱうえから見ても貴族のお嬢様らしくない行動らしい。
しっかし、女子校に通えば品性が身につくとでも思ってるのか。
もちろん、上品にうふふ、と微笑むようになる人もいるだろう。
しかし、人によっては更にはっちゃけてひと皮もふた皮も向けてしまう人もいる。
私は確実に後者だと思っている。ぱぱうえもまだまだだね?
まあ、これはなんとしてでもぱぱうえを説得せねば。


「私が入学したら学年違くても仲良くしてくれますか?」


ニヤッと笑いながら尋ねるとシリウスもまたニヤッと悪い顔を作って言った。


「当たり前だろ。セ、ン、パ、イとして、ホグワーツでの歩き方、教えてやるよ!」


キザったらしい表情が似合う奴め、とその美貌を羨む。
でもまあ、前世に比べれば今の私だって…!西洋の血バンザイと手を挙げたくなるような、くるんと上がったマツゲちゃんに冷たい海の底を思わせる色のぱっちりオメメ、極めつけは子供の体型でも分かるスタイルの良さ。
今世はお洒落が本当に楽しそうだ(マグル界に限る。魔法界のお洒落はようわからん)。

新しい話題を出そうとしたその時、階段から上がってきた人物によってそれは遮られた。


「ブルストロードのお嬢さん、アルトだったかな名前。私はシリウスの父、オリオン・ブラックという。シリウスが世話になったね感謝する。今日はこれで失礼するよ」


私に向かって薄く微笑むと、視線をシリウスに移し「用件が終わった。シリウス帰るぞ」といって、再び階段を下っていった。
シリウスもまたな、と手を振って階段を降りて行った。
とりあえず、一言言わせてほしい。
…オ、オリオン・ブラックやべえ…!

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