02
あのシリウス・ブラックとの邂逅から数日、オリオン・ブラックショックが未だに抜けない。
……オリオン・ブラックショックってなんか韻踏んでない? YHEA! オリオン! ブラックショック! YO!的な。
ンン、話がズレた。

私はびっくりしたのだ、オリオンの美しさに。
ブラック家特有の黒髪に灰色の目が頭を離れないのだ。
白皙の肌に薄い唇が冷たさを感じさせるけれど、微笑んだ時にそれが崩れて表情が一気に柔和になる。
気品を持ち合わせるその容姿と振る舞いは正しく貴族のようだった。

そしてある事に気付いた。シリウスとオリオンってパーツしか似てなくね…? ということに。
シリウスはウェーブのかかった黒髪に灰色の目で、美形には変わりないのだが、顔や表情から苛烈さやワイルドさが滲み出ている。
つまるところ、気品は漂わせてはいるものの、逞しそうなのだ(この一言に尽きる)。
これで成長したらきっと色気ムンムンに漂う青年になることだろう。
一方オリオンはストレートな髪にとにかく怜悧で上品なイメージを抱かせる。清廉、という言葉が当てはまる。

まあ、つまり何が言いたいって、オリオンの容姿や雰囲気ひっくるめてどストライクだったということだ。
赤ちゃんやっててピュアに戻ってしまった自分の心臓が久々に楽しそうに動くのを感じた。

そういえば、ヴァルヴルガてどんな顔だったっけ?
兄弟にシグナスがいて、彼の子供にはウェービーな髪を持つベラトリックスがいたからこっちの血筋なのだろうか。

思い立ったら即行動! ということで、ブラック家の写真がないかを探しに行くことにした。
ぱぱうえはオリオンとは同じ頃に在籍していた的なこと言ってたからきっと学生時代のアルバム(さえ見つかれば)に載っているハズだ。

とりあえず、あるとは思えないが書斎に向かう。
図書館かと思うほどの量の蔵書にうへえと溜息を吐きながら、頭上に見える分類ラベルを頼りに探す。

探し始めて早20分。意外にも早くお目当てのものは見つかった。
1938~1945という金字が刻まれた分厚いアルバムは、ぱぱうえことランスロット・ブルストロードの学生時代の写真を収めたものだろう。

ワクワクした気持ちで表紙を開く。
そこにはぱぱうえと彼の両親(あったことないけど)が9と4分の3番線の前で撮ったであろう写真が。
それよりも、


「ぱ、ぱぱうえちっちゃ…!」


写真の中のぱぱうえは「ちっちゃ…!」という言葉に反応したのか、ニコニコと可愛い笑顔を浮かべていたのが一変、眉を釣り上げて顔を赤くしプンスコしながら地団駄を踏んでいる。

加えてこちらを指さしてきて何か言っている。
たまに後ろにいる両親を振り返りながら喋っているのからして、「なんかいきなり小さいって馬鹿にされたんだけど!」と両親に愚痴っているようだ。
それを母親が笑いながら頭を撫でて諌めている、普通の幸せな家族写真の1枚である。


「次々っと」


次の写真には黒髪で灰色の目を持つ美少年とぱぱうえは写真を撮っていた。
ぱぱうえはやんちゃ小僧よろしく楽しそうにはにかみ、美少年は緩く目を細めて笑っている。
…この美少年はオリオンだろうか? なんか雰囲気が違う気がする。
子供の頃と大人とじゃ纏う雰囲気も変わるものだろうがなにかティンと来ない。

ん〜ん〜と唸りついには通りかかった二フラーに「五月蝿い!」と言われ二フラーが運んでいたお金を数枚引っこ抜く(どうせこの家でお金を落とすのは私くらいだからこのお金は元は私のもの)という嫌がらせをしながら5分たったその時、ある可能性が思い浮かんだ。


「もしかして、この人って……」


ヴォルデモート卿…? きっと、そうだ。
ぱぱうえからヴォルデモート卿と仲が良かった、とかの話は聞いたことなかったけど、年齢を考えればピッタリだ。
だって彼が生まれたのは1926年12月31日、この日付と学年はピタリと重なる。

ぱぱうえはオリオンとは同時期に在学していたと言っただけで、同学年とは言っていなかったからそういうことなのだろう。

それよりも、ヴォルデモート卿の若き頃、クソかわ…!!
この天使が将来蛇みたいな顔になるとは思えない。
惜しいことをした……。
でも既にこのキュートな顔の裏であくどい事を小さいながらにやってたんだもんな、この方は、と思い直す。

ページを捲り次の写真を見る。
これまた満面の笑みを浮かべて手をブンブンと降りながら若き日のヴォルデモート、正しくはトム・リドルと無理やり肩を組むぱぱうえが。
トム・リドルは嫌そうにその組まれた肩を見るものの諦めて溜息を吐いてしょうがないとでもいうように薄く笑みを浮かべていた。

ページを捲っても捲っても出てくるのはぱぱうえとトム・リドルばかり。仲良すぎか。
今度ぱぱうえに関係性を尋ねてみたいところだけど、今のぱぱうえはこの少年時代と違ってちょっと怖い雰囲気を持っている。
教えてくれるかどうか。

頭を切り替えて、再びペラペラとページを進める。
たまに同室と思しき少年達とへんちくりんなポーズをしながら写真をとっている。
魔法界の写真のためその時の写真を撮った時のプロセスが映し出され笑ってしまった。
これただのバカやってる少年の写真じゃん、と。
スリザリンなんていうからもっと陰湿で嫌味や賞賛の応報ばかりしている寮かと思ったら、ぱぱうえはそうではなかったらしい。
この写真を表現するならば、
「俺センター! 早いモン勝ちー!」
「はあっ? お前なんて端の横で充分! おいお前はそこどけ!」
「成り上がりのお前はせいぜいセンター横のモブがお似合いだよ!」
「つーことで? 何様俺様純血一家のランスロット・ブルストロード様がセンター決まり〜」
といったところだろうか。
バカス。

そしてぱぱうえが4年生になった位だろうか、オリオンと思しき黒髪灰色の目の小さな少年と、豊かなウェーブな髪を広げて口元を釣り上げて笑う少女の姿が。
オリオンはまだ入学したて、という雰囲気を醸し出している。
一方この少女は大人に一歩踏み出したような年齢である。
この人が恐らくヴァルヴルガだろう、と検討をつける。
このヴァルヴルガ、表情や雰囲気が非常にシリウスと似ている。
苛烈さを秘めたような強い瞳に自信に満ち溢れた振る舞いが女版シリウスといっても過言ではなかった。

やはり、シリウスの容姿はヴァルヴルガから色濃く遺伝されたものらしい。
これは、レギュラスに期待である。
ぜひともオリオン似のかわい子ちゃんだと嬉しい。私が。
きっと日々のホグワーツ生活で潤いを与えてくれるだろう。

オリオンとヴァルヴルガにばかり視線が向いていたがぱぱうえを見てみると、今までの写真とは違い、貴族然とした立ち振る舞いに、破顔していた笑みは形を潜め、口元だけ三日月を浮かべていた。すごい変わりようである。
先程の同室らしき少年たちと撮られた写真はいわばグリフィンドールのような雰囲気をだしていたが、この写真は正にスリザリンといった育ちの良さを伺わせる。
……あの写真たちを見たあとに育ちの良さとか、(笑)が付きそうだけれども、我が父ながら同一人物とは思えなかった。

再びアルバムをめくり始め最後のページとなった時、思いがけない写真が目に入った。
というのも、トム・リドルが机の上で伏せながら寝ている写真である。
こんな人に隙を見せることがなさそうな人の居眠り姿とかレアすぎる…!
写真の中で声を掛けられたから起きたのか、眠そうに目を擦ってから写真を撮っていたであろう人物(おそらくぱぱうえ)と目が合ったのだろう。
闇の帝王になる人物とは思えないほど彼は頬を赤く染めて蕩けたような表情になり目尻を下げて微笑んだ。
非常に穏やかで甘い顔である。
……この超が付きそうなほど甘ったるい顔は恋人に見せるような笑顔じゃ、ないの…?
ちょっとぱぱうえとトム・リドルの関係が気になった。

最後の衝撃的な写真を見終わり、パタン、とアルバムを閉じる。
…まず一言、こんなアルバムここに置いといていいの?! ということである。
もちろん、普通原作の知識がない人がこのアルバムを見ても、この黒髪美少年がヴォルデモートだと気付く人はほぼいないだろうけども、、、ぱぱうえウッカリさんなのか、それほど気に止めてないのか……。
きっとこのアルバムを将来の闇の帝王が見たら発狂するだろうな。
というか、本人この写真の存在を知らなそうだ、と思った。

このご時世、闇の帝王ことヴォルデモートが支配する闇の時代だけれど、このアルバムのせいでなんだか恐怖が薄れてしまった。
きっと写真は探せばまだまだ出てきそうだ。
それこそ前世ポッタリアンだった私にとってはお宝級の。
生まれて初めて、というよりは、前世の記憶を思い出してから初めて、このブルストロードに生まれてよかったと思った瞬間であった。
とりあえず、今度ぱぱうえには学生時代の話をそれとなく聞いてみよう。
そう心に固く決めて、私は書斎を出るのであった。


backnext
[ back to top ]

ALICE+