06
今日は朝から上機嫌だった。
朝ごはん、昼ごはん、晩ごはん全て日本食の日なのだ。
これはフィービーにおねだりをしまくり、まだ小さいからと料理を作らせてくれなったがためにフィービーの背後についてそーじゃない、甘すぎる、調味料が足りない!!などとあーだこーだ口を出しまくった成果である。

そう、前世のことを思い出してからというもの、日本食が恋しくなってしまったのだ。
もちろん、今世の生まれはイギリスだから、朝ごはんがパンから始まり…といった生活には慣れていた。
慣れていたというか、母国の料理の味が舌に馴染んでいるためその料理に飽きずにすむというか。
しかし、いくら慣れたと言っても心の中での私は謙虚で繊細なジャパニーズ。
朝はツヤツヤでふっくらホカホカした、あのなんとも言えない食欲をそそる香りのする炊き立て白米とじんわりとお腹に広がる懐かしい味噌汁の味がたまには食べたくなるもの。
それに加えてシャキシャキの野菜(お浸しでも、漬物でも歯ごたえたっぷりの野菜ならなんでもオッケー!)と、大根おろしにポン酢がかけられたこんがりと焼けた秋刀魚があれば文句ない。

だからついに我慢の限界を超えた数年前の私はフィービーに突撃したのだった。

*****

「フィービー!!!」

いつもとは違う形相で叫び呼ぶアルトにフィービーはぎょっとしつつ、すぐさま現れた。

「いかがなさいましたか。アルト様?」

そう、食欲爆発事件(別名:アルトお嬢様の人格ぽーい事件)より前は今世のアルト・ブルストロード本人の性格を尊重しようと、大人しく両親の言うことをよくきく所謂"いい子"を装っていた。

だからこそフィービーはぎょっとしたし、何か重大なことが起きたのでは?!と大焦りしていた。
今思うとあの時のフィービーの顔ウケる。

「うっうっ…もう我慢できない…うう…日本食が!!食 べ た い!!食べたいんだよー!」

うわーんと涙が決壊した。
前世の私はソコソコのグルメで、美味しいものをレストランで食べては、使われてる材料・調味料を探し当てるため通い続け、家でも同じものが作れるよう試作のトライ&アゲインをしまくっていた。

「イギリス料理もぎらいじゃないげど、ウッ…日本食が食べたいよおおお…醤油、味噌、色んな顆粒調味料のあの味が食べたいんだよおお」
「お嬢様?フィービーめが至急で日本食をお作りしますので!」

あわあわしながら必死に泣き止ませようと私の周りをうろちょろうろちょろするフィービー。

「ほんと…?」
「ええ!何のお料理をお作りしましょう?」
「…豚カツたべたい、ツヤツヤのご飯と味噌汁もいっしょに」

フィービーが頭の上に??を浮かべているのがわかるものの、豚カツのことで頭がいっぱいだった私はコロッと機嫌を変え「わたしがつくりかた教えるからはやくいくよー!」とキッチンに引っ張っていった。
今思うとあの??顔は作り方分からないからどうしようという戸惑い顔というよりは、アンタなんでそんな東の島国の料理知ってんの、ていう疑惑顔だった。間違いない。

いざ、作ろうと思ってもここはイギリス。
豚カツを作るための材料などブルストロード邸にはなかった。
ロース肉はあるにしても、あの懐かしのとんかつソースはありやしない。
なんてったってここは1960年代のイギリス。
日本でないだけでなく私がいた時代よりも更に50年以上昔。
日本食なんて世界に当たり前に普及してる時代でもなく、マグルの世界でもない。
マグルの世界なら高度経済成長を迎えてる日本の食についてちょっとは知識があったかもしれない。
しかし、ここは閉鎖的な魔法界。
日本、はて、マホウトコロとかいう学校があったような…?
こんな認識である。
どう考えても絶望的だった。

ひとしきり絶望したあと、似たような素材を使ってそれっぽいものを作ろうと心に決めた。
豚カツだって元はと言えばフランスのカツレツがオリジナルだった気がするし…なんとかなるっしょ!精神を掲げた。
そこからの私は厳しかった。

「だぁかぁらー!豚カツの衣はもっとサクサクじゃないと!肉汁を中に閉じ込めつつ衣はサクサクにするには…」
「ちがぁーう!!!白米は最初に米を水に浸けるのも大事だし、最後に蒸らすのも大事なのー!!」

はじめて見・作る料理なのに食べたすぎる私はカリカリしていたのだ。フィービーすまなかった。

そして完成した豚カツ定食に私は目をキラキラさせながらかぶりついていたに違いない。
普段の食事の作法なんてなんのそのぽーい、とどこかに投げやってひたすらに久々の味に舌を打った。
じーんとしている最中にまだ優しかったフィービーは、「たまに日本食の日を作りましょう。私も日本食の勉強をいたしますので。ね?」と声を掛けてくれた。

フィービー!とうるうるしながら感謝した。
その日から、貴族の資金・人脈etc…を遺憾無く発揮して日本食の材料を入手するようになった。
アルト・ブルストロード完全勝利!

ここまで回想。
こうやって勝ち取った私へのご褒美は今でも続いているのだ。
しかも今日の晩餐にはシリウスも来るのだ。
こないだオリオンと共にブルストロード邸にやって来たシリウスになんだかウキウキしてんな?と言われたことがきっかけだ。
尋ねられたことをいいことに私はそれはもうベーラベラと1週間後の日本食デーが待ち遠しいこと、いかにして日本食デーを手に入れたかという武勇伝を語った。

これを聞いたシリウスは日本食に興味を持ったようで我が家のディナーに招待されることとなった。
実情を言うと、純血を誇りとする旧家の家々が集まる社交パーティーが6日後にあった。
お母様とぱぱうえ、ブラック夫妻はこれ幸いと「日本食デーを1日ずらして子供たちを一緒くたにしてしまえばいいんじゃない?」という考えのもと、シリウスだけでなく弟のレギュラスが我が家にやってくることとなった。

そう、期待たっぷりレギュラスにようやっと会えるのだ。
オリオン似かな?ストレートサラサラなキューティーボーイかな?でへへと想像を膨らましているのだ。
日本食も食べれて、美少年にも会える、なんて良いだろうね?心の中でSt. holy dayと名付けた。
え?名詞の意味が間違ってるって?重複しちゃうくらい素晴らしいってことだよ!!!

ブラック夫妻がパーティに行く前に我が家にシリウスとレギュラスの2人を連れてくる手筈と聞いている。
時間的にもうすぐかな?とワクワクしていると、下の階から声が聴こえた。
よっしゃ行くぜ!と意気揚々と階段を下り玄関へ向かい、出迎えていたぱぱうえに横目からの視線を受け、ぱぱうえの視線はそこからブラック夫人へと移った。

「お初にお目にかかります。Mrs.ブラック。私はアルト・ブルストロードと申します。お会いできて光栄です」
「まあ。ヴァルヴルガよ。今日は2人をよろしくね?」

貴族らしく優雅な微笑みを浮かべれば、挨拶100点満点おめでとう私!
私だってやれば出来る子なのよ!とぱぱうえに対して内心ドヤっとした。
ブラック夫妻の後ろにいるシリウスはお前そんなこと言えたんだな…とでも言いたげな表情を浮かべていた。

そして、そのシリウスの横にいたのはお待ちかねのレギュラスだった。
か、かわええ…!!期待を裏切らない可愛さ!!
これは将来好みの顔どストライク間違いなし眼福や…
しかし、ハッと自分の仕事を思い出し、顔がふやけるのを我慢してキリッとさせながらなんとか言葉を零した。

「それではサロンにご案内しますね」

ブラック兄弟を連れてサロンへと向かった。

「しっかし、お前あんな風に振る舞えたんだなー」
「ハン、朝飯前ですよ」
「何枚猫かぶってんだよ、っとこいつ弟のレギュラスな」

そう言ってシリウスはレギュラスの肩をポンと叩き紹介してくれた。

「レギュラス・ブラックです。お邪魔してしまいすみません。よろしくお願いします」

と礼儀正しく自己紹介してくれた。
しかし、レギュラスはあれ?この人かたい感じこ人じゃないの?え?猫かぶってた?とどういう風に付き合えばいいのか迷っているようだった。

「レギュラスね!んもうかたくなくていいよう。私は君と仲良くなりたいなあ!シリウスよりよっぽど!!」

ニコニコしながらレギュラスに近寄り握手を求める。
なんだと?!とプリプリ怒るシリウスは無視無視。
私は目の前のキューティーボーイを目に焼き付けるので精一杯だ。

黒いまっすぐなサラサラの髪に白皙の真っ白い肌。
翳ったようなグレーの瞳は幼いながらに儚さを滲ませている。
今はまだふくふくしたほっぺたにこれは将来父似の美形になることが私の中で確定した。
ブラック家の遺伝子ありがとう。

私がでへでへとそりゃあもう品のない笑顔を見せればレギュラスも緊張を解いたのかはにかんで握手に応えてくれた。

これこそアルトが後世大事に大事にニヨニヨと頬をゆるゆるにしながら眺めることになる"レギュラス成長アルバムwithシリウス"の製作決定の瞬間であった。


「あっ!そうそう!次シリウスが来た時に自慢しようと思ってたんだよね!」

ちょっとこっち来て!といつもの私の修行部屋へシリウスとレギュラスを連れていく。
見てろよ〜!と気合を込める。
「ぬんっ」
某かめ〇め波のポーズをとり魔力を集中させる。

あんなに失敗していたのに、1度コツを掴んでしまえばなんのそのだったのだ。
魔法とはつまり、想像力と魔力の変換だったのだ。
想像力はどれだけ具体的に細部まで想像できるか。魔力の変換とは空気中に漂う五大エネルギーを必要な分だけ自分の魔力に練り込ませる作業のことだ。

本当はちょっぴり違うみたいだけど、前世科学の文明で生きた私には等価交換で考えた方がイメージしやすかったのだ。

例えばアグアメンティ。砂漠でアグアメンティをやるにはめちゃめちゃ大変。だけど、近くに水源・最悪自分の涙でもいいからその中に含まれる水エネルギー即ちアクワも魔力に混ぜて増大させなければならない。

今私がやってるかめは〇波は単純に自分の魔力をコントロールするだけの初歩技だ。
けれど、現代の魔法使いが杖無しで魔法をちょぴっとでも扱えるってかっこよくない?
しかもまだ就学前の子供が!

いい感じに魔力を増幅させ今にも手の中から飛び出していきそうなのを大砲が発砲される時をイメージして放つ。
ドオオォンとけたたましい音が広がり天井のシャンデリアが揺れている。

「は…なんだ、いまの」

唖然としているシリウスは〇めはめ波が飛んで行った方向から私の顔を見る。

私は得意げに右手の人差し指の背で鼻下を数回擦ったあととびきりの笑顔でサムズアップした。

「すごいでしょ!」

その瞬間目をキラキラとさせこちらに近寄ってくるシリウス。

「っおい!!すっげええええな!!お前!どうやったんだよ?!」

掴みはバッチリだったらしい。

「ん!企業秘密!!」

興奮して肩を掴んで前後に揺さぶってくるシリウスにいい笑顔で言い放つ。

「レギュラスもどーだった?」

いまだにポカンとしているレギュラスに可愛ええなあと声をかけるとようやくパチクリと目を動かした。

「…え?…今のはなんですか?」
「修行の成果!」

ポカンとしたまま、部屋が壊れてない?なんで?と不思議そうにしているレギュラスに可愛いなあとふくふくなほっぺをつついた。

先程心に決めたレギュラス成長アルバムの記念すべき1枚目の写真の横につらつらと書き残す。
Today what I got is…
deep respect from Sirius and adorable face of Regulus.
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