05
軽やかに、羽根がついてるかのように跳ぶ。
上からの眺めはなんと心地よいものか。


今世の私には3つ下の弟がいる。
名前はオーランド。
家族は愛称でオーリーと呼ぶ。
5歳になる彼は、最近熱心に魔法の練習をしては爆発を起こす私への愚痴を聞いたらしく(最近フィービーはブツブツと私の愚痴を言っている)しつこく後をついてくるのだ。
彼なりの正義感を持って私を見張っているらしい。
ヤツは小さいながらに腕を組み目を細めてこちらを見ている。実にエラそうである。
「これだからねーねはぼくがみておかないと」といつかのぱぱうえの真似をするオーリーに貴様何様や?!と私がついイラッとしてしまうのも道理なのだ。
あれ、精神年齢低くない?という言葉は聞こえないふりをする。

なんせ、前世の私には下の兄弟というものがいなかった。
大人になった後も子供が好きというわけではなかった。
だから飲食店でのバイト中小さい子にも"お客様"として敬語を使わなきゃいけないのか、それともべろべろばぁーと遊び相手になればいいのかわからず狼狽えていた。
お子様からのじーっとこちらを見つめる視線にはフルシカト。
もちろん、内心冷や汗ダラダラていうオプションつきでね!

だからそう、これは仕方がないんだ、と言い訳をする。
大人気ないということはわかってる。
けれども、ヤツの悔しそうな顔を見るとスッとなるのだ。
人様のお子様なら泣かせられないけど、今じゃ血の繋がった弟だ。
ちょっといじめるくらいヤツの成長にもきっといいはずだ。
うん。将来役に立つよ、たぶん。
だから、やめられない。

ルンタ♪ルンタ♪ルンタッター♪と効果音が聴こえてくるスキップで歩みを進め、時たま振り返っては斜め下を見て二マリと嗤う。

そう、ゴチャゴチャといいたてたが後を追ってくるオーリー(5)を軽やかなスキップで置いていき悔しそうな顔を見てはニンマリと笑っているのだ。
ヤツも3つ年上の脚には追いつけまい。
hahaha!今の私はきっとあくどい顔をしていることだろう。


完全に密告者(ヤツ)を撒き、ふう、と一息つく。
気分はひと仕事した時の達成感。
最後に見たオーリーのうるうると涙を堪えて見上げていたのは傑作だった。

さて、と。
私が頻繁に屋敷を破壊するようになってヤレヤレとぱぱうえが与えてくれたこの部屋。
なんと、プロテゴやらなんやら沢山の保護呪文が施されているから私が呪文を放っても壊れないのだ。
なんとスグレモノ。

気合を入れ直して、右腕を真上に掲げて手のひらに魔力を集める。
だんだんと手が重さを感じるようなひんやりするような熱いような感覚を宿す。

これは上手く手の中で魔力が留まっている状態だ。
今では魔法の眼鏡を使わなくたって感覚でわかる。
練習を始めて1ヶ月でこれはできるようになった。
ゆくゆくは、5本もの指一本一本にそれぞれ魔力を集めて、5本の杖を使用しているのと変わらないようなコントロールを身につけたい。
そしたら強くね??単純に5倍の数の魔法を繰り出せる。
例えば、五本の指それぞれからステューピファイみたいな。
ウホッなんて便利な。
威力はどうだか分からないが。
まあ、そんなの今のところ夢のまた夢。

今のところ殆ど失敗しないのはただ魔力を集めることだけ。

ブン、と真上に掲げていた右腕を野球のボールを投げる要領で魔力を放つ。
案の定手から離れたもののしゅるしゅると魔力が霧散していってしまう。
そうならなかった時は大抵勢いよく飛んだかと思うとすぐに爆発する。
何がいけないんだろうか?

記憶の中からヒントを探る。
大抵の魔法は繰り出す時、「杖を構え」「呪文を詠唱し」「杖を振る」この3段階のステップを踏む。
杖を構える、杖は魔力を増幅・コントロールしやすくするためのアイテムだから今は関係なさそうだ。
呪文を詠唱する、これは無言呪文ていう高等技があるくらいだから、呪文発動の補助の役割を果たしているのだと推測できる。
杖を振る、これはなんだろうか…。
むむ、わからん。

でもでも、よく考えれば姿あらわしとか杖を使わないわけだし、杖はあまり関係ないのかもしれない。
……。
…………。
ハッとした。
そうじゃん、姿あらわしには「どこへ」「どうしても」「どういう意図で」の3Dの意識を持つことが必要だとあった。
つまり、頭の中で具体的にイメージすることが大切。
しかも守護霊の呪文も幸せな記憶が必要とかいう描写もあった。
魔法を繰り出す時、具体的なイメージを持つことはすごく重要なファクターなのかもしれない。
「よし」
頭の中で、圧縮された魔力の球がぐるぐる回りながら手のひらに留まっていることを想像する。
それは、3m離れた離れた白い窓の格子の真ん中に当たって爆発する、と強くイメージする。
爆発の仕方は、爆弾のようにボン、と。大きさは大体直径1メートル位で、赤い火花と黒い煙がもくもくするような爆発だ。
前世21世紀で現代人だった身からすると、科学とは、という疑問が浮かんでしまう。
想像できたら何でもできちゃうんか?それってアリなのか?想像だけじゃできないこともあるのか?錬金術でも等価交換は必須っていうやろ!!脳内でそう叫ぶ。
今度調べる必要がありそうだ。とりあえず、ふう、と息を吐いて集中し、

えいや!と投げた。

それは今までとは打って変わって、私の頭の中の映像と寸分も違わなかった。

刹那、家中が揺れた。
壁に掛けていた絵画の1人である林檎売りの少女・アディは腕に持っていたバスケットから林檎が零れたことにも気付かず目をぱちぱちさせている。
一方隣の絵画である眠った木こり・ホプキンスはスヤスヤと眠り続けている。流石、誰も起きているところを見たことがない絵画なだけある。
これくらいじゃあ起きないらしい。
だけれども、我が家の小姑的存在フィービーのキーキーした叫び声が聞こえる。

部屋はぱぱうえの保護呪文のおかげで一切壊れていないが、そんなことお構いなしにフィービーは襲来する気がする。
私の長年の経験が警鐘を鳴らしている。

―逃げねば。私は脱兎のごとく駆け出した。
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