「なまえー!!5番メインおまち!!」
『はーい、かしこまりです!』

東の海イーストブルーにある、ちょっと変わったレストラン。お客様は神様です!なんて心意気のコックが果たして何人いるのか。

『お待たせいたしました。サレント風タコとポテトのトマト煮込みでございます。白ワインと合わせてお召し上がりください。』

何処までも続く青い海に、突然姿を表すレストラン。ここで働くのはひと癖もふた癖もある厄介なコック達ばかり。人生の荒波を潜り抜けたコック達がもてなす海上のレストランには、今日も沢山の“お客様”が遠路遥々お越しになります。

『いらっしゃいませ、海上レストラン バラティエへようこそ。お席へご案内致します。』



Order 【 1 】



海上レストラン バラティエは常に満席状態だ。そこかしこからお客様の声が聞こえ、わたしは忙しなく厨房とダイニングを行き来する。
本日も団体客と個人客の予約が分刻みでのスケジューリング。売り上げ上場、商売繁盛、願ったり叶ったり。

「ウェイトレス!!注文だ!!」
「ウェイトレスさん、料理はまだかしら!」
「ウェイトレース!勘定だ!船を用意してくれ!」

『はーい!ただ今お伺い致します!!』

願ったり叶ったり………?
売り上げ上場、商売繁盛、願ったり叶ったり。なんて、我が身と置き換えたら嬉しくともなんとも無い。

残念なことに、登り坂経営にみえるこのレストランには問題点がある。それは、圧倒的な給仕人ウェイター不足ということ。
今このレストランには、実はわたしただ一人が唯一のウェイトレスだ。

『またのお越しをお待ちしております。お気をつけてお帰りくださいませ!』

海上レストラン バラティエの給仕人は雇っても長続きしない。原因はハッキリしてる。この大海賊時代。ガラの悪い“少々”パンチの効き過ぎた荒くれ者なコック達のせいで、給仕人達の純真でピュアなガラスハートが見事に粉々にされてしまうのだ。

(……………ふぅ。つぎ!)

この海上レストラン“バラティエ”は各々の信念は違えど、荒くれ者で集う最高のコックが最高の料理を振るまう場所。それを目当てに遠路遥々お客様が来店される。そんなお客様に必ず料理をお届けするのが、わたしの仕事だ。
…仕事なのだけど、騒々しい荒くれ者達が集う海上レストランは、時に己の信念を貫き過ぎたコック達によって“戦場”へと変わってしまうことがしばしばあって。
……そうして昨日、残っていたウェイターが全員逃げ出してしまった。


ーーーガシャンッ!!!!


(な、なにッ!?)

わたしがお客様のお見送りから店内に戻ってくると、窓際の席が騒がしくなっていた。

「きゃああああああっ!!!!」
「こっちは“金を払う”客だぞ!!!」

「金ってのは……“腹のたし”になるのかい?」

真っ二つに割れたテーブルと、落ちた料理。怒鳴り散らす男性客と、相対する金髪の黒いスーツの男。
その光景だけで、だいたい何が起きたのか予測がついた。

「おい!!やめるんだ副料理長!!!」

慌ただしく厨房から飛び出してきた数人のコック達が、黒いスーツの男 副料理長を止めようとしたが、その声も虚しく、怒鳴り散らしていた男性客は顎を掴まれ、あっという間に顔面が真っ赤に染まってしまった。

「海でコックに逆らうことは、自殺に等しい行為だってことをよく覚えとけ…。食いモンを粗末にすんじゃねェよ…。」

(あぁ…、あぁ…………。)
目の前の出来事にわたしは深くため息を吐いた。

この海上レストラン“バラティエ”は、各々の信念は違えど荒くれ者で集う最高のコックが最高の料理を振るまう場所だ。
…だけど、その信念からさも当たり前のようにお客様とぶつかり、船上を荒らしにくる海賊たちは完膚なきまでに打ちのめし、その噂が尾鰭をつけて、戦うコックを見物しにやってくる物好きなお客様まで呼び寄せてしまってる。
非合理的な宣伝効果のおかげでリピーターが続出して面白人気レストランと化してしまってる事実は、頭を悩ませるこのレストランの大きな問題点だった。

(……さて、)

わたしはサロンエプロンのリボンを背中で結び直して、今まさに副料理長に顎を掴まれて顔面血だらけなお客様と、血だらけにした犯人のもとに歩き出す。
海上レストラン バラティエ副料理長。名前をサンジというこの男を、一体どうやってこの場から退場させようか。
面白レストランといってもギャラリーとなるお客様は現状、ドン引きなさっている。いくら名物の一つだとしても現場に居あわせてしまえば、声も出ない程の恐怖を味わわされて当然。今日ご来店のお客様はこんなスパイス誰も求めていなかったでしょうね。

「なにーーっ!!お…お客様ァーっ!!!?またかてめェサンジ!!お客様に何してやがるっ!!よりによって、その人は海軍大尉じゃねェか!!!」
「何だてめェか、くそコック。おれの名を気安く呼ぶんじゃねェよ。」
「くそコックにくそコックと呼ばれる筋合いはねェぜ!!」

大声でダイニングに姿を表したのは、頭にねじり鉢巻きをしたレストランバラティエ コックのパティ。

(はぁ……。また一人、荒々しいコックが増えちゃった…。)

よりにもよって、なんでこのタイミングでパティが出てくるのか。
口を開けば喧嘩ばかり。口が悪いサンジとパティの相性は水と油なみに反発し合っている。
……あぁ。事態の収拾が遠のいていく。

「おいおい、なまえ!オーナー呼んでこい!」
『え?!な、ちょっと……!』
「相手は海軍大尉だ。こりゃ収まりが悪ィぜ!なるだけ早く頼むぞ!!」

どうしようか考えていたわたしのところに一人のコックが近づいてきた。そしてまさかのコックに背中を押されて、わたしは店外へと追い出されてしまった。グッと親指を立てたコックは、よろしくな!!と苦々しい笑顔で異様な雰囲気の店内に戻っていく。

(……いやいや。勝手に、待ってよ…、)

ガチャリと閉じた扉を虚しく眺める。
さて、いよいよどうしたものか。たしかに副料理長を止めるのならばオーナーに助けを求めるのは間違いではないけれど…。

(……事情を説明した所で、お客様も含めて蹴っ飛ばしちゃいそうなんだよな……。)

……その光景はありありと目にうかんだ。
きっと今日にもバラティエの存続は危ぶまれるに違いない。いや、今までよく持ち堪えたと思うべきなのだろうか。

『はぁーーーーー。』

もういろんな気持ちがこもった長ーい溜め息を吐いて、わたしは海を眺める。海は広いなぁ、大きいなぁ、なんて現実逃避をしている間にバラティエの問題が全部解決してくれたらいいのに…。

………うん。そんなわたしの願いはすぐに打ち砕かれる。それは、今さっき追い出された店内からサンジの大声が聞こえてきたからだ。

「頭に血が上るんだよ!!てめェみてェなつけ上がったカン違い野郎を見るとよォ!!」

『あーもっ!いつか死人が出ても知らないんだからね!』

いくら日常茶飯事なことだからって、こんな事でわたしの大好きで大切な場所が潰れるなんて絶対に御免だ!
わたしも、腐っても此処のウェイトレス。レストラン バラティエが大切なのは言うまでもなく勿論だけど、ここで働くみんなはわたしにとって家族も同然。中でもオーナーとサンジは沢山の時間を共有してきたから、その思いは群を抜いて飛び抜けている。

わたしはオーナーの部屋を目指して走り出した。後で絶対、とびきり美味しい苺パフェをサンジに作ってもらうんだからーーーっ!





See you in the next story………

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