店内が騒然とする。お客様はレストランから逃げるように停泊させた自分たちの船に乗り込む。裏口に向かって次々と逃げ出していくお客様の喧騒の音が鳴り止んでもまだクリークの目の前で座り込むわたしは、一歩も動くことが出来ずにいた。

(どうしよう……、どうすればいいの……ッ)

「言わんこっちゃねェ!!これがクリークなんだ!!!この船をもらうだと!!?」

カルネの戸惑いとも怒りとも聞こえる叫び声は、きっとバラティエのみんなが同じ気持ちのはずだ。こんな事になるなんて…。今までのなにとも比べられない。タダじゃ済まないと警鐘はなり続けている。ニヤッと笑った首領ドン・クリークは、きっと最初から“ここ”を奪う算段をたてて来たのだ。

「ウチの船はボロボロになっちまってな。新しいのが欲しかったんだ。お前らには用が済んだら“ここ”を下りてもらう。今、船に“息のある”部下どもが約百人。空腹と重症でくたばってる。あいつらの水と食料を百食分、“まず”用意してもらう。すでに餓死者もでてる。早急に出せ。」



Order 【 5 】



「この船を襲うとわかってる海賊を、あと百人おれ達の手で増やせってのか…!?断る!!!」
「断る…?勘違いしてもらっちゃ困る。おれは別に注文してるわけじゃねェ。命令してるんだ。誰もおれに逆らうな!!!」

頭が真っ白になっていく。カルネの抵抗も虚しく、首領ドン・クリークの迫力は一瞬にして場を凍りつかせる。

「サンジさん、すまねェ…。おれは…。こんなつもりじゃ……ッ。」

肩を押さえたギンは泣き崩れている。苦しむ彼の表情が、少なからずこの状況が望んだものじゃないことは伝わってくる。敵側のはずなのに、ギンからは心が、優しさが見えた。

「てめェは…!!何て取り返しのつかねェことをしてくれたんだ、…………!おい、どこへ行く サンジ!!」

いつの間にか身を起こしていたパティの声が響く。急いで後ろを振り返ると、サンジは口元の血を拭って歩き出すところだった。

「厨房さ。あと百人分、メシを用意しなきゃならねェ。」
「なにィ!!?」

その瞬間店内中が響めく。サンジの行動を各々が注視して見つめている、店内の異質な緊張感の中で、それでもサンジの背中はいつもと変わらずに見えた。
特に気にした様子も見せず歩き出したサンジを、コックのみんながすぐに取り囲む。その手には拳銃が握られ、みんなが真っ直ぐにその銃口をサンジへ向けた。

『……ッ!!まって!!みんな!!』

「てめェはクリークの回し者かよ、サンジ。厨房に入らせるわけにはいかねェ。お前のイカレた行動には もうつき合いきれねェ!!」

カチャリと弾丸を装填させる音が鳴る。
これはなんだ。目の前の出来事は現実か?
みんなきっと本気でサンジを撃つ気なんてない。無いはずだ。でも言いようのない不安が、わたしの中の、言葉にできない何かをゆっくりと壊していく。
今までだって、散々サンジとコックの誰かの喧嘩を見てきた。双方の意見の食い違いがあっても、ただ不器用なだけで、なんだかんだいつだって、お互いを信頼しあってると思ってた。


そうーーー
………思ってたのは、わたしだけなの?


「いいぜ。おれを止めたきゃ 撃て。」

そう言ってサンジは両手をひろげる。

「わかってるよ…。相手が救いようもねェ悪党だってことくらい…。」

静かに…サンジの声だけが店内に響く。

「でも おれには関係ねェことだ。食わせて その先どうなるかなんて、考えるのも面倒くせェ………。」

誰もが、キミを見ている。

「食いてェ奴には食わせてやる!!!コックってのは、それでいいんじゃねェのか!!!」

その瞬間、拳銃を握るコックの手が微かに震えた。

『ーーーサンジくん………。』

サンジの言葉にみんなの動揺が見てわかる。でもサンジは変わらず、最初から最後まで芯の通ったキミのまま。
コックの1人が拳銃を下ろそうとした時、わたしの視界でゆらりと動く人影を見つけた。

(………パティ……?…いったいなにを、)

人影の正体は、パティで。パティはサンジの背後に立ち、両腕を大きく振り上げた。そこまでされればもうこの後なにが起きるのかなんて、わたしにだって想像がつく。このままじゃ、パティがサンジを殴ってしまう…っ。

気がつけばわたしの身体は動いていた。さっきまで恐怖で動けなかった身体がまるでウソのように、一直線に迷いもなくわたしはパティとサンジの間に立った。

『ダメだよ!!パティ!!!』
「なっ!!!馬鹿!どけ!なまえっ、」

突然割って入ってきたわたしにパティは一瞬動揺を見せたけど、振り上げた拳は止められず、わたしの頭に振り落とされた。

『ッぅあ!!!』

ドゴッ!!と衝撃音とともにわたしはそのままサンジの背中にぶつかる。

「…………なまえ………?…おい!!!」

ずるずると倒れゆくわたしをサンジの手が受け止めた。

「なまえ!!!……てめェ…どういうつもりだ!! ああ″!!!」

サンジの怒った声が聞こえる。今にもパティに掴みかかる勢いで声を荒げたサンジに、わたしは『大丈夫だよ』と言葉をだすことも出来そうにない。
…一体何をやってるんだか。自分の行動の意味すら分かってないのに、ただただ止めなければと思った。パティの拳を真正面から受けて、言葉じゃ言い表せないほどに頭が痛いけど、わたしは必死に声を絞り出す。

『…………みんな、やめて……ッ』

「…なまえ!!おい!しっかりしろ!!なまえ!!!」

サンジの何度もわたしの名前を呼ぶ声が聞こえる。でももう意識を保っていられそうになかった。だから代わりに、わたしはサンジのスーツの裾を、ギュッと握りしめた。
どうかお願い。誰かが誰かを傷つけるところなんて見たくない。大好きな人達が睨み合いすれ違う姿を、見たくない。わたしの我儘だとわかってる。だけど、どうかお願い…ッ。





See you in the next story………

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