.
あの日…
こうなる予定じゃなかった
「…」
目が覚めて隣にいる温もりを感じ、顔だけ横に向けると…俺の腕に頭を乗せた一八が静かに眠っていた。常に寄せていた眉間のシワがなくて、もしかしたら本来の表情はこんな感じなのかもしれないな…
「…」
いつの間にか仰向けになっていた体を横向きにして一八の顔を眺めるように見つめた…
俺が嫌だと言って下ろした髪、雰囲気が幼く感じる…でもきっと歳上だ。それくらいは分かる…けど、それ以外何も知らない
あの日…たまたま出会って
喧嘩して…レイプして…
それで終わるはずだった
でも、あの日…
名前を呼んだアイツの顔が…
これまでにない感情を抱かせたのは確かだ
『広斗…っ』
兄貴たちよりも
女にも、そこら辺の男よりも
名前で呼ばれることに喜びを感じた
胸が熱くなった
生まれて初めて欲しいと思った
山王がどうとか
兄貴がどうとか…どうでもいい
欲しい…
ただその感情だけが芽生えた
でもコイツは俺のものにならない
「…一八」
コイツは山王の…コブラの仲間だ
コブラの所有物…
ただの仲間としての関係だろうけど
コブラに忠実なのは確かだ
そして…
一八はコブラに好意を寄せている
まず、俺のものには簡単にはならないだろう
でも…奪う
俺は一八が欲しい…
この感情が…
一八がコブラに対する好意と同じなら…
俺は、一八の事が…
ブー、ブー、ブー…
「…チッ」
ピッ…
「…なに?」
『なに、じゃねぇよ!どこいんだ広斗!』
電話の相手は兄貴だった
なんか怒ってるし…めんどくせぇ
「別に…んで、なに?」
『あーもう!…はぁー…広斗、今すぐ隠れ家に戻ってこい』
「…なんで?」
『兄貴のことだ』
「!…分かった」
兄貴、か…仕方ねぇ、行くしかねぇか
俺らにはもう1人…兄貴がいる
その兄貴を探す為に俺達はこの街に戻って来た
見つかったらこの場所に用はない
その時は…
「…んっ」
「!…一八」
一八…目、覚ましたか…
「…ん…っ、ひ、ろと…?」
「…はよ」
俺が声をかければまだボーッとしてるのか反応が鈍いな…頬を撫でるとビクッと体が揺れたが、止めようとしない…一先ずは触らせてくれるみたいだ
『おい広斗、誰かいんのか?』
「兄貴に関係ない」
『か、関係ないって、お、お前なぁー!』
「、え…あ、…兄貴!?」
兄貴という単語にようやく覚醒して
勢いよく起き上がって俺に顔を寄せてきた
「あ、兄貴ってどういうことやねん!」
『大体いつもそうだ!広斗は全然お兄ちゃんを労る気持ちがない!俺がどんだけ苦労してるか…っ!』
「お前雅貴と連絡取ってるんか!?俺のこと言うたんか!?」
『というかお前だけズルイ!なんで俺だけナンパ失敗すんだよ!俺だってかわい子ちゃんとイチャイチャしたいってのに…!』
「聞いとるんか広斗!」
『おい聞いてるのか広斗!』
…うっせぇ
「とりあえず行くから…じゃ」
『ちょっ!お兄ちゃんに対する態度じゃないっ!つかまだ話がおわっ』
ピッ、ツー、ツー、ツー…
あー…うっさかった…
んで、あとこっち…
「広斗おい!聞いて、んっ!」
黙らすように口を塞いで布団に押し倒した。朝ってこともあるのかすげぇビクビクしてるし、腰揺れてる…エロ
「んっ、んん…っ、ぁ、はぁー…はぁー…っ」
「…、…フッ…黙った?」
「く、くぅ…っ、」
顔真っ赤にして睨んでも怖くねぇって
「俺、行くわ」
「、え…っ、?」
「兄貴に呼ばれたし…」
「そ、そっか…」
「…寂しい?」
「さ、寂しくなんか…っ」
「…ふーん」
そういうわりには
手を強く握られてんだけど
…気づいてねぇな
「…いつなら夜ここにいる?」
「え…?」
「いつ?」
「…毎週土曜は…いる」
「昨日ってことか…分かった」
他の曜日だと都合が悪いんだろう
俺も兄貴のことで色々あるが
一八にも山王の奴らがいる
…しょうがねぇ
「…また来週来る」
「、もう…来んくて、…っ」
「来る。だから…待ってろ」
「…っ」
抱きしめて触れるだけのキスすると…
一瞬見開いた目が、ゆっくり閉じた
あぁ…初めてだ
こんな…離したくないと思ったのは
ずっと…ずっと俺のものにしたい
でも、まだダメだ
やらなきゃいけねぇこと…終わらせねぇと
「…じゃあな」
「…広斗」
俺は起き上がって着ていた服を脱ぎ元の着てきた服に袖を通す。服は少し湿っていたが帰ってから着替えればいい…
店の方に向かおうとすると一八が…腕を掴んできた
「…なに?」
「…そっちからじゃ、あかん。バレる可能性がある」
「じゃあどうすればいい…?」
「…裏口、ある」
「…そ」
「…あと」
そう言って反対の腕が伸びてきて
手に…パンを持たせた
「…食え」
「…」
なんで、コイツは俺にこんな事をするんだ
俺は…自分で言うのもあれだけど
レイプしたし、殴ったし…
昨日だって抱いたのに…
心臓が痛え…
「…またな」
「…」
触れたかったけど
これ以上居たらまた抱きたくなる
また今度にとっておこう
裏口から出て店の前を通らず、知らねぇ道をダラダラ進めば知ってる道に出ることができた
もう会いたくなった…
なんだよこの感情…
笑っちまう
貰ったパンの袋を開け1口食べる
ただのピーナッツ味のパンなのに
すごく…美味かった
「…雨宮…?」
「…!」
誰かに呼ばれた気がしたが
周りは活動し始めた人間に
バイクとか車の音で分からなかった
「…」
…まぁいい、早く兄貴のところに行こう
「…」
俺は顔を上げた
雲一つない快晴の空
昨日あんなに降ってたのに
「…一八」
早く俺と同じ気持ちになればいい
そう思いながら空を見つめ…
また1口かじり…前へ進んだ
「…違ったか」
「あ?何がだよコブラ」
「…いや、何でもねぇ」
「?まぁいいか、あー腹減ったー!」
「…」
そこに山王の奴らがいたことに
俺は気づかなかった
next
→