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「…はぁ」
毎週やって来る業者に点検した資料を渡し
日曜日は定休日やから…
1日ゆっくり出来る時間になった
「…」
俺のもんになれよ…
広斗の切なげな目で…
でも真っ直ぐに見つめていて
…本心で言うてるってのは
アホな俺でも分かる
どんな意味をもって言ったかは…
…分かりたくない
「…あかん」
一人になると余計アイツの事を考えてしまう
ダメや、俺は…コブラが…
「…あ、もうこんな時間か…」
ふと時計を見れば8時を過ぎていた
アイツ待たしたらあかんな…行こう
今は、広斗の事は忘れよう…
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カランカランー…
「いらっしゃ…お、ダン」
「おはよーさん直美」
「来る頃だと思った」
毎週日曜日開店していないITOKANの扉を開ければいい匂いを漂わせた空気が鼻に入って胃を刺激する。一つに髪をまとめた直美が俺に気づいて中に促してくれた
「お待たせしやしたー…んで?今日はなんや?」
「ははっ、今日はガパオライス!しっかり食えよ!」
「…ガ、ガパ…?なんやそれ」
ドン!と置かれたソレ…ガパなんちゃらに怪しさしかない。この前のホットケーキ…あ、パンケーキって言った方がいいのか。あれは美味かったが…これはさっぱり分からん
「まぁとりあえず食べな!」
「お、おぅ…ほな」
とりあえず食うてみぃひんと分からんし…よし!
パクッ…
「…どう?」
「…美味い、これ美味いわ!!」
なんやこれ!!
こんな美味いもん初めて食った!!
「!そっか!」
いつもツンツンな顔してる直美も、俺の言葉に嬉しかったのか笑顔を向けてカウンターからこっちに移動して隣に座った
「これ香辛料効いてるな!」
「バジルとか入れてるからね」
「バジル?分からんけど…いやこれは美味い!朝から元気になるわ!直美どんどん料理上手なるなー!」
まぁオムライスには劣るけどな
あれは一番美味い!
でもこれも間違いなく美味いわ
「これくらい普通だっつーの」
普通なわけあるか!
こんなんそこらの女の子は作れへんって!
「これ店出すん?」
「うん、まー考えてる」
「出たらまた食うな!」
「!…おぅ」
嬉しいくせにそんな顔を見せないように頬杖をついたまま明後日の方向を向いた直美。可愛いとこあるなコイツ
ガツガツ食ってるとようやくこっちを向いた直美が俺をじっと見てくるから食いづらい…
「な、なんや直美…」
「…いつもありがとな、ダン」
「ん?何がや?」
珍しい…直美がありがとうなんて(←失礼)
俺が思ってることなんて気づくわけなく真剣な顔で喋り出した
「店の仕事だってあるのに…朝イチにいつも試食に付き合わせて」
これは2人だけの試食会
ずっと前に直美に頼まれてから
毎週日曜日の朝は直美の所に行き
新しいメニュー(仮)の料理を出してくれる
俺はその評価をするっていうやつ
「何言うてんねん、美味い飯食わしてもらってるんやし。むしろ俺の方が悪いな」
俺金払ってへんし…
と思ってると首を横に振った
「ダンは美味いも不味いもちゃんと言ってくれんじゃん」
「ヤマトとかコブラも言うやろ」
「アイツらじゃダメ、ヤマトは美味いしか言わねーし、コブラはなんも言わねーし」
「あー…そうやな」
確かに…評価っちゅー評価はしてへんな…
ある意味食えればなんでもいいヤマトに
無言に食べるコブラの意見は宛にならんやろう
「それに…」
「ん?なに?」
それに…なんや?
ジッ…と見つめる直美は大きく息を吐いて、何か意を決した表情を俺に向けた。こんな真剣な顔、初めて見る…直美?
「それに…っ」
そして…口を開いた
「…ダンだかピピピピピピッ「うわっ!ビックリした!なんやねん、って業者からや!すまん直美!…もしもしダン商店です!…はいはい、あー!…はい!それで大丈夫です!ありがとうございます!失礼しますー…よし!んで、なんて?」
急に業者から電話がきて慌てて対応してしまい直美の話を遮ってしまった…もう1回聞こうと顔を上げたら…
般若の顔をした直美がいた
「…何もねぇよ!!」
「うぉっ!?あかん!その鉄拳はあかん!!」
こ、殺される!!
俺が悪いけどそんな怒んなやぁっ!!
「お、ダン!オーッス!!」
「…何やってんだお前ら」
「!!ヤマト!コブラ!!見れば分かるやろ!シバかれそうになってんねん!!」
この時間に来るなんて珍しい2人がやって来たけど助かる!なんとかしてくれ!!ヤマトは直美を見た後はぁ…とため息を吐いた
「ったく暴力女はこれだから…」
「ぁあ!?」
「いっ、いってぇえええ!!」
「…アホや」
けど矛先が変わった…
ありがとうヤマト
「…で?何でアイツ怒ってんだ?」
「あー…多分話遮ったから?」
「…ふーん」
…興味あるなら変な反応すんなよな…はぁ…心の中でため息を吐いてたらコブラは突然1点を集中的に見つめていてた
「…それ」
「ん?…あぁこれか」
「お!なんだよソレ!美味そう!」
「ガパオライス…やっけ?」
「…そう」
ヤマトも輪に入って2人は食い入るようにガパオライスを見つめだした
「うまそうな匂い…」
「いや、コレ美味かったわ!オムライスに次ぐ美味さやったぞ直美!」
「!そっか…」
そのまま思ったことを口にすれば
直美は顔を伏せながら…でも口元は笑ってた
「おい直美ー!俺もこれ食いてぇ!」
ヤマトがそう言うと
「ダメ、まだ試作品だから」
…そうキッパリと言った直美の雰囲気が
少し怖くて…俺らも様子が
変わったことに察したけど
何でそうなったか意味が分からず
気にしないそぶりでヤマトは
俺の前にあるガパオライスに目を向けた
「んだよケチケチすんなっつーの!じゃあダン!これくれよ」
「それはダンのだからダメ」
俺は別にええのに…
チラッと見たら直美は俺を見ていた
え?なんで?
「…直美」
すると今度はコブラが動いた
「…食いたい」
「…これ以外な!オムライスでいいだろ!」
「…」
あのコブラの頼みでさえ断った…
どうしたんや直美
別にたかが試食で作ったガパオライスやろ?
「…ダン」
「、ん?」
「それよこせ」
「!」
「俺が食う」
「…あ、えっと」
え、えーと…これは俺
どうしたらええんや…
また直美に目を向ければ、やるなよ…と言わんばかりの鋭い目で俺を見てて、こ、怖いねんて、マジで…ひ、一先ず直美の味方するか…
「…な、直美があかんて…」
バン!
「ダン」
「う…っ」
テーブル叩くなや
でもその顔をカッコイイとかズルい…
じゃなくて!…怖い
「…はぁー…ダン、オムライス用意するな?」
きゅ、救世主!
「お、おぅ!すまんな直美!コブラ…ほら」
「…」
スッ…とコブラの前にずらすしたらそれを持ち上げて奥のテーブル腰掛けてゆっくり時間をかけて食いやがった。そう言えば2度目の関節キスやった…でもそれを忘れさせるヤマトの一言に胸が傷んだ
「…ったくアイツ、分かりやすい態度とんなよな?」
「…まぁ、な」
コソッと俺にしか聞こえない声でヤマトはそう言った。俺は…それ以上の言葉が浮かばなくて目線をコブラから背けた
俺たちに何も言わへんけど
コブラは直美が好きなんや
直美の事で嫉妬したりキレたりするし、ヤマトくらいやと幼なじみもあってかそんな当たらんけど…俺が直美と話すとどんな内容やったとか聞かれるし、今みたいに俺だけとかテッツやチハルだけ…とかは許さないみたいや。やから試食会の事は直美に言ったわけではないが秘密裏にやってんねん…今度はもっと早く来んとな…
「ま、俺達は美味いオムライスでも食うか!」
「ははっ、そやなー!直美頼むわ!」
「はいはい」
ようやくいつもの雰囲気になった…
直美が俺らにオムライスを用意してくれた
俺のは少しサイズ小さめ
少しだけどガパオライス食ってたから
これくらいのサイズの方が助かる
…やっぱ美味い
堪能しながら食べていたら
ヤマトが思い出したかのように
俺に声かけた
「そうだ、昨日大丈夫だったか?」
!…昨日…か
ある意味大丈夫じゃなかったが
言えるわけもなく
はぐらかすしかない
「…昨日?」
「あー…ほら、雨…降っててさ…もしかしたら…アイツ…雨宮弟が来たんじゃないかって」
「「!」」
さすがヤマトや…
でも…すまん
俺…嘘つくわ…
「…来てへんよ。昨日は検品作業で頭いっぱいやったし、大丈夫やったで。ありがとうなヤマト」
「…そっか!大丈夫ならいいんだ!」
大きく頷いたヤマトに
ホッと一安心したけど
「…ダン」
コブラが名前を呼んだ時
ぞくりと背中が震えた
「…雨宮弟が来たらすぐ言え」
…すまんコブラ
もう来たんや昨日
そしてきっと…来週も来る
けど、言えない
…言いたくない
「…おぉ、そうする」
そう答えるとコブラは空になった更にスプーンを置いてタバコに火をつけ…重い口を開けた
「…今朝、雨宮弟に似たヤツを見かけた」
「!?」
ま、まさか…見られたか…、?
「はぁ!?マジかよ…!」
「…多分見間違いだ。だが念の為用心しとけ」
「…お、おぅ」
見間違い…いや、きっと違う
でもそんなこと言えないから
また頷くことしか出来なかった…
俺は…
初めて仲間に
嘘をついてしまった
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