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あんなに白熱した日本代表決定戦だったが、なんと春大会である王城ホワイトナイツvs神龍寺ナーガの前座であったそうな。
春季関東大会準決勝が江ノ島フットボールフィールドで開催!ということで、試合終わりの泥門デビルバッツの面々も江ノ島に向かっていた。

「モノレールだ!」
「はしゃぐな、糞ガキども」

何かわからない、誰かの黒っぽい手帳の様な何かの力が作動したのかもしれないが湘南モノレールは貸し切り状態で運行していた。そのせいでセナたち無邪気組がモノレールではしゃいでいる。
そうして輩組であるが、こちらも別の意味ではしゃいでいた。

「はぁああ!?お前ゲーマー!?」
「RPG、格ゲー、アクション、大概やってる!」
「アチィ!!」

4人掛けの席にハァハァ三兄弟と秋が腰掛けていた。あの日からヤケに仲良くなっている4名であるが、ここでようやく趣味の話に花が咲いたらしい。
黒木とゲームで盛り上がりそうな瞬間を見計らい、戸叶がシュッとジャンプを取り出した。

「漫画は?」
「ジャンプ愛読!」
「アチィ」

ゲームも勿論だが、ジャンプもきちんと毎週買う程好きなのだ。万年金欠ガールでも手が止まらない、購買意欲が高まるすこぶる良い漫画である。
秋のもうひとつの武器である多趣味が、2名には見事にブッ刺さった様だ。ヒル魔は彼女の事を人たらしと呼ぶ。
そうしてこの流れだと人たらしが次に狙うターゲットは十文字である。

「アンタの趣味はー?」
「あ?特にねぇよ」
「趣味ない人っていんの?」
「そーいや十文字の趣味とか知らねぇな」

黒木はゲーム、戸叶は漫画が趣味であるが、昔からつるんでいる2名でも十文字の趣味はあまりパッと出て来ない様だ。秋に話を振られた黒木が考える動きをすると、戸叶がジャンプを十文字に差し出した。

「強いて言うなら、十文字は漫画だな」
「いや、読みはするけどな」
「つったらコイツ、ゲームもするけどな」
「お前ほどはやんねぇけどな」
「えー!多趣味ってことー?被るんだけどー!」
「別に被んねーだろ」

強いて言うなら小説なのだが、態々ゲームだ漫画だと盛り上がっている3名にそんな盛り上がらなさそうな話題を持ち込むのもめんどくさそうなので、十文字は趣味を言わないという事を貫いたのだった。


▪︎


モノレールを降りて歩いて数分。モン太がご機嫌に江ノ島の歌を歌っているが、別に遊びに来た訳ではないのだ。
江ノ島フットボールフィールドへ向かう人数は数え切れない程おり、先ほどの日本代表決定戦が如何に前座であるかを思い知らされる。なんだったら病院を抜け出した車椅子爆走少年すらいた。

「お〜…」
「なんか同じ"お客いっぱい"でも、前の王城戦とは雰囲気が違うみたい」

フィールドに到着すると、客席は既にほぼ埋まり欠けていた。何と言うか、圧巻である。まもりの独り言めいた感想にヒル魔が口を出した。

「たりめーだ。今日来てんのはあんなミーハー共とは訳が違う」

関東全域のアメフト部、高校から大学生、更には社会人。月刊アメフトなどのスポーツ新聞各紙がこぞってこの江ノ島フットボールフィールドに集まっているのだ。
大会8連覇の"神"と呼ばれる神龍寺ナーガと、神にだけ破れ続けて来た無冠の"王"である王城ホワイトナイツ。その王が再び神に挑む、というのだからそりゃあここまでスポットライトが当たるのも頷ける。
アメフト好きなら、であるが。

「せっかく江ノ島来たのに、結局アメフトかよー」
「水族館行きたいー」
「洞窟探検に1票」

十文字の横に座る黒木がうんざりした様子で文句を垂れると、秋や戸叶が自分の欲を垂れ流し始めた。この4名はアメフトに興味が無いので、今から歴史的な試合が始まるというのに緊張感が一切ないのだ。なんだったら十文字は洞窟探検のが気になった。

「洞窟探検いいな」
「男のロマン、だな」
「女ですらロマン感じるわ」
「そーいやお前元王城生だろ?知り合いいんの?」

あゝ…俺たちにヒル魔に握られた手綱が無ければ、今すぐここから抜け出して江ノ島観光に精を出すのに。そんな思考で頭がいっぱいになっていると、思い出した風に黒木が秋に尋ねた。
そういえばつい最近まで彼女は王城学園高等部に在籍していたのだ。

「アメフト部のマネージャーは友達。だから気まずいんだよねー」
「今泥門いること知ってんのか?」
「知ってんだけど…アメフト部にいる事言ってない…」

黒木の問いに返事した秋は、どこか後ろめたさそうであった。
ヒル魔との条件で得た夢の高校ライフ。その条件で必要だったのが王城ホワイトナイツの情報だ。1ヶ月と少しだけだったが、秋は持ち前の人たらしスキルでアメフト部マネージャーとして入部した若菜小春と仲良くなり優秀な選手がいるか等の情報をちょこちょこ頂いていたのである。

「しかも、密偵の為に近付いたから罪悪感だし…」
「お前そーいう感情あんだな」
「ふつーに仲良くなった後にさぁ、転校してよそのアメフト部入るとかクソ性格悪いじゃんー…」
「クソ性格悪ィな」

黒木の一才気を使わない返答に、戸叶がカッカッカッと笑った。


2025/05/22

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