03

残り時間35秒、泥門デビルバッツのボーナスゲームが行われる。
元々予定していたタッチダウン2本、はもう時間的に無理なのでボーナスゲームのタッチダウンで引き分けを取る事にしたヒル魔。
しかし相手は重量級ラインを誇るピラミッドラインだ。

「ゴール前では小細工は通用しねぇ。全員でド真ん中に突っ込むぞ」

ヒル魔の言葉に、泥門チームがゴクリと生唾を飲み込む。敵陣まで僅か2.7m。されどあのピラミッドライン相手に2.7mだ。
太陽チームも全員で中央を固めるという戦法らしく、コーナーバックである鎌車すら中央に入れるとのこと。これはまさに、泥門チーム全員vs太陽チーム全員のパワー勝負と言ったところだろうか。

「結局最後に勝負を決めんのは、パワーじゃにーか!」
「うわ、なんだアイツ!なんかおかしいと思ってたら上から鉄板落とされた河童みたい!」
「秋ちゃん!」

笠松新信。県立太陽高校3年生である。前半は大活躍であったが、秋は殆ど初見であったので新鮮なリアクションを取ってしまったのだ。まもりの愛の指導にて彼女は押し黙った。
最後のタッチダウン、セッティングが完了し皆が定位置に着くとヒル魔がアイシールド21を指差した。

「ボール持つのはテメーだ。いつもみてーにステップで横に逃げようとか考えんなよ」
「ちょっとでも避けたり躊躇ったりしたら、突撃のパワーが無くなっちゃうからね!」

真っ直ぐ思い切り突っ込んでくれ、と栗田。
そうしてヒル魔は続けて意味深な言葉を彼に投げた。

「デビルバットが前だけ見てりゃ、必ず勝てる」

デビルバット?前を見る?セナの頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。一体何のことを言っているのか、この局面でヒントだけ出された彼はひたすらに考えた。
そんな最中にも最後の瞬間は刻一刻と近付いて来ていた。と、栗田がみんなすごいよ、なんてボソリと声を漏らした。

「あの頃は、太陽と真剣勝負が出来るなんて思ってなかった」

中学の頃から栗田はひとりでラインを続けていた。同じくアメフトを愛す仲間はいたが、ラインマンは即席では中々担えない物だ。ずっと、ずっとひとりで立っていたフィールドに、栗田が求めて止まなかった5名のラインマンが揃ったのだ。

「HAT!」

掛け声と共に、栗田のフンヌラバ!が炸裂した。肉と肉がぶつかり合う音がフィールド上に響き渡り、ついに最後のボーナスゲームがスタートした。

「栗田くんが押してる!」
「3ヤード押し切れーー!!」
「やったれ泥門ー!」

先に押していた泥門ラインだったが、流石はピラミッドライン。すぐに押し返され、動かなくなってしまった。

「止まった!?え、いける?これいける!?」
「うわ〜〜!もうダメだ!」

観戦客の脳裏に浮かんだのは、泥門の敗北。このまま太陽チームに押し潰され、タッチダウンを取れずに敗れるだろう、と。

「いや、行ける」

ヒル魔がアイシールド21に告げた意味深な言葉。

"デビルバットが前だけ見てりゃ、必ず勝てる"

泥門デビルバッツのユニフォーム。両肩にプリントされた2体のデビルバットが前を向いていれば。
セナの、否、アイシールド21の脚ならば行けるとヒル魔は信じたのだ。

「跳べッ!!」

デビルバットダイブ。
40ヤード4秒2の人間砲弾だ。
アイシールド21はピラミッドラインの上を飛び越え、止めようと伸ばした番場の手をその人間砲弾で弾き飛ばし、敵陣へ着地した。

「タッチダーゥンー!!」

20-20。同点だ。


▪︎


残り30秒をなんとかやりきり、同点のまま試合終了。太陽スフィンクスvs泥門デビルバッツの日本代表決定戦はなんとか引き分けで幕引きとなった。

「引き分け…は、喜んでいいんですよね?」

なんだかスッキリしない展開の為か雪光がまもりに確認する。彼女の返答に激闘を繰り広げた泥門チーム全員が集中していた。そんな彼らの心配を他所に、まもりは全人類が喜ぶのではないかと言わんばかりのニッコリスマイルで返事した。

「当たり前でしょ!こんな強いチームに引き分けたんだから!」

刹那、どっせーい!と男たちが歓声を上げた。
引き分けなんざ負けと変わらない!なんてヒル魔が空気を読まない発言をしたが普通にスルーして喜びまくる皆の衆。

「三兄弟良くやったー!これでやっと地獄の強化訓練が終わるー!」

拳をぶつけ合って喜びを表現していた十文字たちへ歩み寄ると、秋はご機嫌に彼らに声を掛けた。

「お、遅刻マネ」
「お前ェ!遅刻して俺らの不良殺法見てねーだろ!」
「うるさーい!見て欲しかったらもっと活躍しろ!」

ベシリと黒木を叩く秋に、いってーな!と彼が小言を口走る。戸叶がカッカッカッと笑うと一言、理不尽だなと告げた。
そんなこんなしている間に横では泥門デビルバッツがNASAエイリアンズと対戦する権利を得ており、櫓によじ登り喜びを表現し大騒ぎするヒル魔とケルベロスの姿がやけに目立っていた。


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