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「テメーがしょーもねー理由で他校行くからだろーが」
「しょーもなくない!あたしには野望があるんですよ!よくもやってくれたな!今度ばかりは許すまじ!!」
「おーおー、許さねぇとどうなんだ?糞ビンボー?」
「ビンボー言うな!!」

ヒル魔と栗田が月刊アメフト編集部から戻って来てからカーン!とゴングが鳴り、そして始まった謎の客人と悪魔の揉め事。部室で行われている為全く事態を把握していない部員たちは黙ってこの闘いが終わるのを待つしかないのだが、ヒル魔の後輩ということは栗田も彼女と面識があると言うこと。なんとかしてくれ、と助けを乞う眼差しが栗田へと向かうが、彼もどうしたら良いかわからず2人の間でワタワタしているだけだった。

「ふつーに考えて、あたしに許可なく勝手に転校させる!?」

ここでヒル魔以外の部員たちから、えええ!?と驚きの声が上がった。どうやらこの客人、ヒル魔の手によって許可なく問答無用で泥門高校へ転校させられたらしい。これにはセナたちもあり得ないと顔を見合わせる。揉め事は続き、栗田も変わらず口を挟もうとするもワタワタするのみ。

「アメフトの為にあたしの人生計画ぐちゃぐちゃにしやがって!転校したって絶対にアメフト部入らないですからね!」
「テメーに選択肢はねぇんだよ。いくら俺に借金してると思ってやがる」
「だーかーらー!お金返す為に金持ちと結婚して先輩の魔の手から逃れようとしてんのにー!」
「バカも大概にしやがれ」

高校生で既に借金しているとは何事か、という意見が部員たちの脳裏に駆け巡る。しかし相手はヒル魔だ。お得意の手帳ひとつでまんまと借金という理由を作り上げ労働力として使われていたのかもしれない、と喚き散らかす彼女を哀れに思うしかない。ここでやっと栗田が会話に参入。

「ひ、ヒル魔ぁ…、流石に秋ちゃんが可哀想だよ…!」
「そうだ!可哀想と思わないのか!」
「条件付きで暫く遊ばせてやったんだ。ありがたく思え下僕1」
「誰が下僕1!」
「太陽スフィンクスとの日本代表決定戦が決まった。アメリカ戦に向けて使える駒準備しねぇとなんだよ」

そこで部員たちは太陽スフィンクスとの対戦が決まったことを初めて知った。驚きのあまり日本代表決定戦!?と声を張り上げる部員たちにヒル魔は淡々と話を進めてしまう。

「敵チームの模型もできてんぞ」
「え、あたしの事駒って言いました?」
「こっちもラインを上手く使わねーとな」
「無視!?」
「連携プレーだ」

ある意味連携が取れているそのやりとりに、セナたちは気まずさ、そして栗田は罪悪感と懐かしさという複雑な感情を同時に抱いた。



▪︎


まもりからの提案で、まず一体何が起こっているのか。そして彼女は誰なのかをヒル魔たちに一旦解説をして貰う事になった。

「ええっと、彼女は加賀秋ちゃん。僕らの中学時代の後輩でね…」
「お騒がせしました。私立王城高等学校1年、加賀秋です」
「元な」

ヒル魔の付け加えた一言で秋はうわああと静かに崩れ落ちたが、セナたちは聞き慣れた高校の名前に驚くしかなかった。そういえば見覚えがあると思ったら、彼女が着ているのは王城の制服だ。
全く悪ぶれる素振りを見せず、ヒル魔はツラツラと一方的な説明を続けた。

「来週には泥門高校1年だ。ちなみに王城っつってもコイツは奴らのアメフト部には一切カンケーねぇ」
「関係ないのにどうして秋…ちゃん?を泥門に転校なんてさせたの?可哀想じゃない!」
「そうですよね!可笑しいですよね!」

ヒル魔の納得いかない説明にみんなのママンであるまもりが口を挟んだ。床でしょげていた秋は味方が現れた事で一気に元気になった為、ヒル魔はついにブチブチとブチギレた。

「テメー、定期報告はどうした」

途端、秋の勢いが止まる。
え?と栗田が静かになった彼女へ視線を向けると、あからさまに焦った様子であった。口を開けば文句しか出なかった秋が何も言わなくなったところで、どこから出したのか毎度不明である機関銃をヒル魔が乱射し始めた。ぎゃあああ!と悲痛な悲鳴が響き渡る。

「王城アメフト部の偵察報告が滞ってんだよ!テメーが王城行く条件だったろーが!」
「ごめんなさいー!だって連絡ないからもういいのかと思ってー!」
「んなワケねぇだろーが!どんだけ都合のいい脳みそしてんだテメーは!」

ひたすらにごめんなさい!と泣きながら言い続けてヒル魔の乱射から逃げ惑う秋に、そろそろ許してあげてと栗田とまもりが介入した事により一件落着。でもないが、彼女の怒りは一旦治ったらしく半泣きで優しめな暴言を吐き捨て、泥門アメフト部の部室から逃げ出して行ったのだった。
数日後にはアメフト部の仲間になるであろうお騒がせな彼女が部室を去ると、ベンチプレスやるぞとヒル魔も部屋を後にしてしまった。残された部員たちはやっと肩の荷が降りた。

「もう、女の子に乱射なんて」
「中学の頃からなんだよ、ヒル魔と秋ちゃん。懐かしいや」
「すげー変な奴だったな」
「フゴ!」
「う、うん…。なんか、凄かったね」

まもり、栗田、モン太、大吉、セナが思いの丈をそれぞれ口にする中、雪光が不思議そうに呟いた。

「ヒル魔くん、どうしてあそこまでして彼女を泥門に引き入れたんだろう?」

彼の疑問に、セナたちも確かにと思った。
ヒル魔の強引さは知ってはいるが、それは利用価値があるからする事である。下僕だ借金だと人権が無い扱いを受けていた秋には、ヒル魔が手元に置いておきたい利用価値が何かあるのでは無いか?と雪光は思ったのだ。
それにはベンチプレスへ向かおうと準備をしていた栗田が答えた。

「秋ちゃんはね、ものすごく眼がいいんだよ。なんて言ったっけ。カメラアイだったかなぁ?」
「カメラアイ?」

栗田が放ったその聞き慣れない単語に、セナとモン太、大吉は顔を見合わせて首を傾げたが、まもりと雪光はさぞかし驚いた顔を見せたのだった。


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