04

多大なる借金はいくらまで膨れ上がっているのかは不明であるし、秋本人もなんだったら知らないでいたいくらいであった。
それがいくらか不明だが半額にしてくれるというのなら、アメフト部だろうがなんだろうが入部するしかないだろう。まぁサボれば良いだけだし、と秋はダチョウ並みの少ない脳みそでそんな計画を企てていた。
そして部活初日の放課後。

「糞ビンボー!テメー!サボってんじゃねーぞ!」
「ぎゃー!バレたー!!」

ヒル魔からの凄まじいパワハラで腹痛なのでお休みします。栗田にそう連絡して帰路に着こうとしていた秋が、校門前で待ち構えていた機関銃両手に抱えたヒル魔に追いかけ回される姿が目撃されていた。
半端な時期に転校して来た白ギャルがヒル魔妖一に追い掛け回されている。その光景は瞬く間に泥門高校生徒内で噂になったのだった。


▪︎


泥門デビルバッツに新加入したお騒がせ1年マネージャーの初仕事は、スポーツドリンクを大量に作ることだった。
泥門デビルバッツの現在の選手は9名である。しかし現在秋が作っているスポーツドリンクは9名では消費しきれない量である。一体何故か。

「賊学カメレオンズゥ?」
「そう!ヒル魔くんにお願いされて助っ人で来てくれてるの!」
「絶対"オネガイ"じゃないと思いますけどね」

秋が吐き捨てる様にボヤいた発言であるが、まもりの苦笑いがその通りである事を物語っていた。
泥門デビルバッツのハァハァ三兄弟こと十文字、黒木、戸叶という、過去秋の許すまじフォルダ入りした部員の強化訓練でヒル魔が下僕たちに練習の手伝いをしろと指示を出したのである。
その賊学の人数は約30名程。初日からこんな大人数のスポーツドリンクを作り、無くなったらボトルを回収し更に作る。なんでこんな事をしなくてはいけないのだ、と秋は不貞腐れていた。
まもりの方はと言うと、ハァハァ三兄弟の強化訓練ではなく通常部活メンバーの補助を行っている為手伝えず、この作業は秋1人で行っていた。

「糞ビンボー!遅ぇ!さっさと補充!」
「わかってますよー!だ!」

しかもこの地獄の強化訓練、ヒル魔監修である。
文句をタラタラ口から溢しながらもせっせと馬車馬の如く働く秋に、遠巻きからまもり達が頑張れの眼差しを送っていた。

「服が勿体無ぁ…」

ハァハァ三兄弟の3名が、ひたすらに立ち向かってくる賊学の男達をぶん投げ続ける、そんな荒々しい強化訓練では怪我人が絶えない。そして服から千切れた布の切れ端が地面に散乱している。
倒れた男たちを引き摺って賊学カメレオンズのマネージャーに引き渡し、荒っぽい治療をさせて蘇生させる。そして再びぶん投げられて倒れた男たちを引き摺ってマネージャーに引き渡し、交代で休んでいるメンバーが飲みまくるスポーツドリンクが無くなれば補充して、と秋はヒル魔監修の中働きまくったのだった。


▪︎


「秋ちゃん、大丈夫…?」

波乱の部活初日が終了したが、賊学カメレオンズ共が落として行った千切れた布を元気なく拾い集めている秋へまもりが恐る恐る声を掛けた。
振り返った彼女の瞳は死んでいた。

「…慣れてますから……」
「中学の頃から、あんな感じなの…?」
「ええそれはもうはい」
「本当にもう…ごめんね、後半しか手伝えなくて…」
「いやいやぁ、後半だけでも助かりましたよ。まぁメグさんもいましたしね」

露峰メグ、賊学カメレオンズのマネージャーである。
ヒル魔はアンタのこと女だと認識してんのかい?メグの一言にはグッサリ来たが、彼女には大変配慮して頂いた為メグに対しての好感度は高めで脳に刻み込まれたのだった。
まぁ、ヒル魔にとって下僕に性別は関係ないのだろう。

「ゴミ回収も終わったし、部室戻ろっか」

千切れた布が沢山入ったゴミ袋の封を縛ると気遣う様にまもりが微笑んで言ったので、秋は彼女の女神スマイルに思わず顔が綻んだ。はい、と返事をしたのも束の間、急に眉間に皺を寄せた。

「く…!駄目だ!今ヒル魔先輩の顔を見たら殺ってしまいそうになる…!あとハァハァ三兄弟にも恨みがある…!!」
「え!ヒル魔くんは兎も角、あの3人にも?」
「はい。あれは忘れもしない、あたしが初めてまもり先輩に出会った日…」

ヒル魔に抗議しに来たアメフト部の部室で寝落ちした後、ハァハァ三兄弟に突き飛ばされて放置された出来事を伝えるとまもりはなんとも言えない表情を作った。
十文字たちが部室前で退部だと告げて出て行った日の少し前の話なのだろう、とまもりは考える。憤怒する秋の両肩をポンポン叩くと、まもりはその怒りを鎮める様に明るめなトーンで言った。

「怒っちゃう気持ちもわかるけど、秋ちゃんも泥門デビルバッツの仲間になったんだから、仲良くしよ!」
「ゆ、許すまじフォルダに入れたんです!」
「私がちゃんと許せるフォルダに入れられる様にしたげるから!」

ね?と後押しすると、まもりはゴミ箱を片手に渋る秋の背中を押して部室へ向かった。
泥門デビルバッツの母と呼ばれる姉崎まもり、1年マネージャー加賀秋の教育をはじめました。


top