06

「SET!HUT!」

泥門から攻撃スタート。まずはヒル魔の指示通りパスで行くことになっていた。
開始早々、パスを投げるヒル魔の為に栗田たちが一歩下がった事に気付いた熱海と南風原がルールをあまり把握していないであろう助っ人の為に声を張り上げた。

「ライン下がった!」
「パスだー!!」

それを聞いた夕陽ガッツ助っ人の34番と16番の選手がバッとフィールドを駆けるモン太を振り返った。

「パス!?」
「泥門のパスと言えば…!」

亜津井監督に"試合で活躍した者には数学の単位をやる"と約束されていた2名は、単位ー!!なんて叫びながらスポーツマンシップ皆無でモン太に飛び付いた。
ムキャ〜〜!!と悲鳴を上げながらモン太は倒されてしまう。

「一人、忘れてやいないかい?」

しかし何やらキザな物言いの男が1名。
アメフトのパスにはモン太が得意な広い空中戦の他に、ガタイを活かした密集地帯へのショートパスというものがある。

「アハーハー!!」

ヒル魔がタイミングを見計らい放ったボールは、ミスターバカ・瀧夏彦の腕の中に綺麗に収まった。


▪︎


パスターゲットが1名増えただけでここまで攻撃力が変わるとは、と秋は驚いていた。
泥門デビルバッツは着々と点を稼ぎ、現在20対0と優位に立っている。
そして瀧がボールをキャッチして更にタッチダウン。新しい武器であるタイトエンドをこれでもかという程使った作戦は成功のようだ。
タッチダウンを見事に決めた瀧を見ると、鈴音は興奮を抑えられないらしくどぶろくの首を両手で鷲掴みにしながら歓喜した。

「やーー!!やった兄さん!見てホラ!珍しく!ホント珍しくだけどホント大活躍!!」
「あ"ぁ"あ"ぁ"そうね…」
「鈴音ー!どぶろく先生死んじゃう死んじゃう!」

首を絞められた上に左右に揺さぶられるどぶろくコーチは、口から泡を吹き出して今にも三途の川を渡ってしまいそうだった。
しかし興奮しているのは鈴音だけではなかった。観客席からは瀧を称賛しつつ貶す声が響いた。

「いいぞー!瀧!」
「バカだけど!」
「カッコイー!瀧くん!」
「ほとばしるほどバカだけど!!」
「ありがとうみんな!!サインは試合後までちょっと待ってくれよな!」

観客から褒められたのがあまりにも嬉しかったらしい。バカだけど、という部分は耳に入っていないらしい瀧は心底嬉しそうに表情を明るくし、懐から白紙の色紙を大量に取り出しながら観客席へ向けてそう大声で叫んだ。
何故か色紙をいつも持ち歩いている事が気になったセナがその件について独りごちると、鈴音は気不味そうな顔をした。

「おーし、パスパスパスと来て、ここで力押しのランだ!てめーら絵で作戦カード覚えてんな?」

ヒル魔が取り出した作戦カードはパワーオフタックル。
アイシールド21が走りで稼ぐ為にタイトエンドの瀧が敵の壁をこじあける物だ。
あまりよく分かっていなさそうな顔をする瀧に、見せ場だよ!と栗田が分かりやすく声掛けをした。そして簡潔にヒル魔が作戦の説明をすると、顎に手を当てワザとらしく言った。

「難しい仕事だ。これが余裕で出来る天才なんざいるのかね…?」

瀧の脳内は"難しい仕事"そして"余裕でできる天才"という今し方ヒル魔から発せられたワードで埋め尽くされていた。
彼の脳内は非常に単純に出来ており、自身を神に愛されている天才だと過信している。
それをしっかりと熟知しているからこその先のヒル魔の発言なのである。
案の定瀧は方脚を上にピンと伸ばし、ご機嫌に返事をした。

「アハーハー!任せてください!!」
「ある意味、一番扱いやすいなコイツ」
「バカですからね」

そんな様子を見ていたどぶろくが呆れた様に呟いたので、秋は相槌を打った。


▪︎


「HUT!!」

攻撃開始と共にヒル魔はアイシールド21にボールを手渡し、右手を上に上げ投げるフリをしてみせた。

「パスじゃない!アイシールドのランだ!」
「え?え!?」
「よく見ろ!ボール持ってない!」

アメフト経験の無い助っ人はしっかりと騙されてヒル魔へ突撃しようとしていたが、正部員として唯一レギュラー入りメンバーとなった52番井藤がそう指摘した。
そしてアイシールド21の道をこじ開ける役である瀧は目を血走らせながら敵をブロックしていた。

「余裕ー!!!」

明らかに余裕では無さそうだが、彼はこういう性格なので仕方がない。
方やアイシールド21は、なんとか隙間を通り抜け、そのまま10ヤード前進を成功させた。

『泥門デビルバッツ。網乃戦の大勝はラッキーパンチじゃなかった!』

解説の島袋記者が興奮気味にそう口にした言葉は、しっかりと会場中に響き渡った。
その後もご機嫌な瀧がタッチダウンを決め、倒されながらもナルシストを発揮させた。
現在42対0。圧倒的なリードをキープしているが、泥門デビルバッツの快進撃は止まらない。

「あ〜〜〜もうダメだ。また上からネチネチ言われるぞこれ…」

夕陽ガッツの亜津井監督が得点ボードへ顔を向け険しい顔でそうぼやいていると、丁度そこにボールを持っていた中川と、彼にタックルしたアイシールド21が二名揃ってベンチに突っ込んで行ってしまった。
亜津井の腰掛けていたベンチは衝撃により倒れ、座っていた彼もそのままひっくり返って倒れてしまった。

「ス、ス…スイマセ…!!」

逆シャチホコの様になって倒れる亜津井に、アイシールド21は急ながら謝罪を口にした。が、その謝罪は途中で途切れてしまった。
彼を見詰める熱い眼差しに気付いたからだ。

「………」
「………」

それは夕陽ガッツ主将の熱海だった。
熱海とアイシールド21は静かに見つめ合った。
夕陽ガッツで3年間、文字通り本気で取り組んだアメフト。しかし結果は伴わず、更には今回のレギュラー落ちで自分自身の実力不足は再三理解していた。
だが、熱海は闘ってみたいと思ったのだ。自分たちの3年間が、どこまで泥門デビルバッツに通用するのか。

「…あ。痛ててて」

すると、今し方アイシールド21と共にベンチに突っ込んだ中川が尻餅をついたまま自身の右腕を反対の手で押さえ始めた。

「腕折れたかなこれ!誰か代わってくんねーかな!」

中川のその言葉の意味を瞬時に理解し、その他の助っ人メンバーたちも口々に盲腸だの持病のコレラだの不調を訴え始めた。
その結果勝利を諦めた亜津井は投げやりになり、もう勝手にしろと熱海ら夕陽ガッツの正部員たちが試合に出る事を許可したのだった。

「俺と…赤星、南、深瀬の4人は今年で最後だ!気合い入れて行くぞ!」
「「「オゥ!!」」」

ヘルメットを装着し、部員たちに指示を出し始めた熱海、そして気合いを入れる夕陽ガッツの選手たちへ視線を向けるとヒル魔はケケケと笑った。

「連中の勝率が、0%から1%に戻りやがった!」


▪︎


夕陽ガッツが正部員にメンバーチェンジしてからというもの、一度タッチダウンしたものの連続で前進を許してしまっていた。

「夕陽ディフェンスは5ショート2ディープ!!バンプに気を付けろ糞ザル!古典的なカバー2だ!!」

対助っ人メンバーの時には一切見せなかったヒル魔のブチギレが姿を見せていた。
やはりアメフトを3年やり込んだ熱海のテクニック、知識は最近始めたばかりの者たちでは対応出来ない物の様だ。
ヒル魔が何を言ってるかほとんどわからない、とモン太やセナは苦笑するしかなかった。

『タッチダーゥン!!』

今までタッチダウンを許していなかった泥門デビルバッツだったが、ここでついに夕陽ガッツに得点を許してしまった。
現在48対6。残り時間は僅か。泥門デビルバッツの勝利は誰が見ても歴然であった。
しかしその後の泥門の攻撃、アイシールド21は立ちはだかった熱海を抜き去るのに一切手を抜かなかった。

『試合終了ーー!!全国高校アメフト選手権トーナメント、泥門デビルバッツ3回戦進出!!』

力の差があろうが、泥門と似た様な境遇だろうが闘うのなら夕陽ガッツを全力で倒す。
これが相手チームへの最大のリスペクトだ、とセナは試合前に誓っていたからだ。
56対6。泥門デビルバッツは勝利した。


20260722

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