02

来週に控えた巨深ポセイドン戦。
当日試合するアリノフィールドが人工芝らしく、人工芝用のスパイクを持っていない泥門の面々はキミドリスポーツにやって来ていた。

「なんでキミドリスポーツ指定したんだろ」

民族大移動とまではいかないが、まもりや秋、鈴音まで入れた泥門メンバーで態々キミドリスポーツに足を運んだのには理由があった。
ヒル魔の指示があったからである。
放課後の練習を早めに終わらせるとヒル魔はキミドリスポーツで人工芝用スパイクを買え、と伝言を残すと忽然と姿を消した。
選手たちが各々自分の足のサイズに合うスパイクを取り出し試し履きをしている中、秋は店内を見渡しながらそんな小さな疑問を口に出した。

「売ってないッスかねー!上げ底スパイク!!」
「いやいやいや…」
「そんなもん買いに来たんじゃないでしょ!」

巨深対策だ!と先の練習中から様子のおかしさを露呈していたモン太の意味不明発言に鈴音がすぐさまツッコミを入れた。
ドカッと靴の入った箱で脳天を叩かれたモン太に、竹馬の次は上げ底スパイクかと思わずケラケラ笑った秋。
練習中に自身の身長の3倍はある高さの竹馬を唐突に操り、その結果転んでグラウンドにへばり付いた数時間前のモン太には腹を抱えて笑ったものである。

「おい秋、まーた笑ってんじゃねーぞ」
「ちょっと見てみたい気もするからさー!上げ底でキャッチMAX!」

ケラケラ笑う秋にジトリとした目線を向け、何処か不満そうにモン太が文句を垂れるので彼女は彼の特技を弄り出した。
ムキーッ!となるモン太をセナがまぁまぁと宥め終える頃には、秋の興味は別の物に移っていた。

「栗田先輩足デッカ!」

それは栗田の足の大きさであった。
身長195cmであり、その体重は145kg。そんな巨漢を支える足のサイズもしっかり発達している様で、秋の言葉を聞いたセナやモン太も興味津々で栗田の元へ近寄った。
栗田が試し履きしているスパイクのサイズはなんと40cmであった。

「40cm!!!」
「おおおお!さすが!!」

すごいすごい!と栗田を褒めちぎるセナやモン太。そこに大吉が参戦していないことに秋は一早く気付いた。
いつもならば尊敬して止まない師匠である栗田が活躍すれば、その功績がアメフトだろうが腕っぷしの強さだろうが大吉は率先して彼を称賛するのだ。
しかし秋が視線をチラリと向けた先にいた大吉は、どうも浮かない表情を浮かべていた。

「大吉、靴決まった?」

次の対戦相手が巨深ポセイドンと決まってからここ数日、大吉の様子がおかしい事に秋は気付いていた。
大吉の身長は150cmとアメフト選手としては小柄であるので、長身揃いの巨深に気後れしているのだろう。と、彼女は考えている。
栗田の元から離れ、あからさまに顔色を曇らす大吉に近付くと秋は明るく彼に声を掛けた。

「あ、あたしも24cm!オソロじゃん大吉ー!」
「…フ、フゴッ!」

大吉が試し履きをしていた靴へ視線を向けると、なんと彼の足と自身の足が同じサイズだった為秋のテンションは妙な上昇を見せた。
いえーい!と軽いノリでグータッチを求めた秋。その出された右拳に大吉は自身の拳をぶつけたが、彼の表情の裏には何かありそうだなと秋は感じたのだった。

「もっと大きいのもありますよ。今日大量入荷したから」

栗田の足のサイズを認識すると店の店主がそんな提案をし、バックヤードにいるであろうバイト君を呼んだ。

「奥からスパイクの箱持って来て!ヨーイチくーん!」

よく言えば優しそうな、悪く言えば気が弱そうな店主が口にしたバイト君の名前に泥門デビルバッツの面々は少々引っ掛かった。

「ヨーイチ?」
「どこかで聞いたような…?」

とんでもなく悪魔顔のキャプテンもそんな名前だった様な…、とこの場にいないヒル魔の顔が皆の脳裏にぼんやりと浮かんだところでバックヤードから渦中のバイト君がスパイクの箱をいくつか抱えて飛び出して来た。

「了解店長!!」
「「「えええええ!?何してんのこの人!!!」」」

バックヤードから出て来たバイト君はなんと、泥門デビルバッツのキャプテンであるヒル魔妖一であった。
ご機嫌にフロアに登場したヒル魔の姿に驚くメンバーの中、秋は何故彼がスパイクを買うのにキミドリスポーツを指定したのか納得した。いつから始めたのか知らないが、ここが彼のバイト先だったからだ。

「なんだ、テメーらに言ってなかったか?今日からここで店員のバイト始めたんだよ。今日で辞めるけどな」
「えええ!そうなの!?」

どうやら1日限定のバイトらしい。
キミドリスポーツの店主も折角雇ったバイトが今日で退職予定だと今知らされたらしく、非常に可哀想である。
イラッシャイマセ〜、と機関銃をセナやモン太に突き付けながらデビル営業スマイルを浮かべるヒル魔に、エンジェルまもりがお客に銃突き付ける店員がどこにいるの!と苦言を呈した。
そんな様子はいつもの事なのであまり気にしていない栗田が、不思議そうにヒル魔に問い掛けた。

「でもヒル魔…なんでまたバイトなんか…?」
「あ!それ確かに!ヒル魔先輩、金なら死ぬ程持ってるじゃないですか!」

栗田の疑問には秋も至極賛同した。
ヒル魔は一体何処から所得しているのか、秋相手に莫大な借金を許す程の大金持ちである。しかしその金はきちんと足の付いた物なのかは不明であるが。
態々こんな地域の小さなスポーツショップで日雇いバイトをするメリットなどヒル魔には無いだろう。
が、彼がキミドリスポーツに1日限定でバイトとして入ったメリットはすぐにわかった。

「店長、巨深高校も人工芝用スパイク買ってっから届けて来ていいスか?」

栗田や秋からの質問には答えず、ヒル魔はそう店主に問い掛けた。
彼がキミドリスポーツでバイトとして入った目的はその言葉で明確になった。
巨深ポセイドンが人工芝用スパイクをキミドリスポーツで注文しているという情報を独自のツールから入手し、バイトとして巨深高校に侵入する為だったのだ。

「バイトで荷物届けた時、偶然にも巨深の練習をチラッと見れちまうのは、こりゃスパイとは言わんわなぁ」

よもや巨深高校まで秋にスパイクを届けさせようとしているのか!と彼女は一瞬焦ったが、意外にもヒル魔がスパイ予備軍に任命したのは別の人物だった。

「おーー!そうだ!ツラの割れてねえテメーが行ってこい!!」
「いいいい!?」

それは主務であるセナであった。
ヒル魔にビシィッと指を指されたセナは、一瞬でその表情を青くさせた。
偵察やスパイは中学の頃から秋が任されて来た、言わば専門業務のひとつである。
しかも今回は荷物を届ける際にチラッと見るというスパイ業務。
カメラアイの秋ではなく、偵察初心者のセナに任せて大丈夫なのだろうかと彼女は疑問を抱いた。

「でも、セナ偵察ほとんどやってないですよ。大丈夫なんですか?」

シンプルな疑問半分。そしてセナには巨深ポセイドン戦前に、苦手であろう主務業務よか本職であるアイシールド21としての練習に身を投じて欲しいという気持ち半分。
そんな気持ちでヒル魔へ疑問を投げ掛けた秋であったが、そんな彼女に一瞥もくれずにキャプテンは刺々しい独り言をその口から放った。

「どっかのツラ割れてるバカがいつまで経っても有力な情報持って来ねぇからなぁ」
「ファイトだ!セナ!」

水町から情報を抜き取れていないという落ち度を突かれた秋は一切合切を掌返し、セナの偵察業務を応援する事にした。

「秋の尻拭いだな!セナ!」
「うっさいモン太!」

今日の練習から巨深対策を秋に再三馬鹿にされたモン太がすかさず茶化して来たので、彼女は咄嗟に反撃に出た。

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