01
「アッキー、ずーっと携帯弄ってるよね」
打倒巨深ポセイドン!ということでいつもの放課後練習中の泥門。しかしいつも通りでない様子な者が1名いた。
その人物とは1年マネージャーの秋である。
学校を終えて泥門アメフト部の練習に顔を出した鈴音は、いつも騒がしい秋がベンチに腰掛け静かに携帯を弄っている事にすぐ気が付いた。
「遊んでる訳じゃなさそうだけど、アッキー何してるの?」
グラウンドに着いて早々、相変わらずサボってるのかと秋に声を掛けたのだが、彼女の表情で何やら遊んでいる訳では無さそうと判断し、まもりにコソコソと声を掛けた鈴音。
尋ねられたまもりは困った様な顔をして秋へ視線を向けた。
「水町くんから巨深の情報取る様にヒル魔くんに指示されてるみたいでね…」
NASAエイリアンズ戦前にも似た様な状態の秋を見ていた鈴音はすぐに理解した。
日々を適当に過ごしている秋であるが、彼女は意外と情に厚いところがあるのだ。
王城マネージャーの若菜とのわだかまりが秋の中でようやく解消されたというのに、今度は情報の為に水町に潜り込まないといけなくなってしまったという訳である。
▪︎
当初はあんなに悩ましげな表情を浮かべていた秋であったが、水町とのメールのやり取りは意外と盛り上がっていた。
ノリが軽い者同士気が合った為、今ではメル友になっているらしい。
メールが届いた通知音が聞こえると秋はすぐさまスクールバッグから携帯を取り出し、メールを読み終えるとポチポチと文字を打ち始めた。
「加賀、前見て歩けよな」
液晶画面に釘付けで帰路に着く秋に視線を向け、呆れた様に注意した黒木。
ホーマーから情報を得る際に携帯に齧り付きになっていた時も、秋は歩きながらメールを読んだりしていたせいで電柱にぶつかったり転んだりしていた事が多々あったからだろう。
へいへーい、なんて適当な返事をしたそんな彼女へ視線を向けていた十文字が、ふと疑問を投げかける。
「水町からなんか情報取れたのか?」
ピクリ。あからさまに表情が変わった秋。彼女は少々の黙りを決め込んだ後、満を辞してゆっくりと液晶画面を十文字たちに向けた。
3名がそちらに視線を向けると、水町からのメールが表示されていた。
「…練習終わったから今からプールで泳ぐらしい」
「雑談だろコレ」
「……そんだけメールしてアイツが体力バカな事しかわかってねぇのかよ」
黒木や十文字のごもっともな指摘に戸叶がカッカッカッといつもの様に笑ったので、秋は気不味そうな表情を浮かべた。
気不味さのせいで顔ごと他所に向けてしまった彼女に十文字が更に問い掛ける。
「ポセイドンの隠し玉とか聞き出せてねぇのか?」
「いや、流石の水町でもそーいうのは言わないよ。ってか正直ここまで仲良くなったら情報聞き出し難い…」
「王城マネの二の舞だな」
戸叶の言葉にグサリと来たのか、秋はウッ!と声を漏らして自身の胸を左手で抑えた。
こういった敵の懐に潜り込んで情報を獲得する偵察を秋が苦手なことを知っている癖に、ヒル魔は手を緩める事なく無理難題を押し付けてくる。
しかしここまで情報を掴めていないとなるとそのヒル魔に何を言われるかわかったもんじゃない。
「いや、でも!水町も口軽いタイプだし、直接会って話せば情報聞き出せるかもだから!」
メールだと埒が開かないのは秋もわかってはいたのだ。
巨深高校の近辺でも彷徨いて直接水町に接触し、おしゃべりの間に何か情報を口走らせればヒル魔に怒られることも無いかもしれない!と秋は少し前から考えていた。
のだが、今発した彼女の言葉の違和感に三兄弟は同時に引っ掛かった。
水町"も"口が軽いタイプであるが、秋"も"比較的口が軽いタイプなのである。
「ハ?」
「はぁ?」
「ハァァア?!お前ェ直接会ったらこっちの情報流すだろ!」
「だ、大丈夫だってば!いくらあたしでもヒル魔先輩に殺されるのわかってて情報流すワケないじゃん!」
自身も口が軽いタイプである事はしっかり自覚がある秋。
しかし巨深ポセイドンの情報があまりにも掴めておらず、いつヒル魔に怒声を浴びせられるかわからない現状である。正直もうこれっきゃねぇ!という思考である。
そんな秋の言葉を聞くと三兄弟はそれぞれ顔を見合わせた。そうしてコソコソと3名で何かを話した末、三兄弟を代表して十文字が口を開いた。
「…一旦水町とのメール全部見せてみろ」
それから近辺の公園に屯し、あーでもないこーでもないと巨深ポセイドンの内情を探りつつも友人のラインを超えない文章を4名で考える事になった。
▪︎
「今度は4人で??」
その翌日、携帯に齧り付く秋に三兄弟が加わっていた事で鈴音がまたしても不思議そうな顔をした。
放課後の練習終わり、部室の片隅で椅子に座って携帯を握り締める秋。そしてその背後から三兄弟が彼女の携帯画面を覗き込んでワチャワチャ話しているのだ。
黒木だけならばいつもの棒人間をチャリンコで走らせるゲームでもしてるのかと思えたが、そこに十文字と戸叶までもがいるのだ。尚更不思議である。
鈴音が首を傾げてその様子を伺っていると、そこに着替え終えたセナが近寄った。
「なんか…マネージャー業なんだって」
「マネージャー業?じゃあなんでみんなでやってるの?」
「秋が水町と仲良くなり過ぎて情報探るのに罪悪感が芽生えたから、あの3人が手伝ってるらしいぜ」
なんじゃそりゃ、と鈴音は思った。
しかし朝練終わり、授業の合間に秋のクラスに態々三兄弟が足を運び彼女の携帯画面を中心にあーだこーだと揉めているのを見たモン太。
彼が何してんだ?と理由を尋ねその話を聞いた時も同じ感想を抱いた。なんだったらそれをモン太から聞いたセナの感想も同じ様な物であった。
あまりいい文章が思い付かず限界突発したのだろう秋が突然、あーもう!!と声を上げたことで3名の視線は4名に向いた。
「やっぱ直接会った方が楽だって!」
「会ったら絶対ェ情報溢すだろ!」
昨日から変わらぬ秋の提案を黒木が即座に拒否した。
口は比較的軽い自覚はあるが、水町よりかはマシだろうという彼女なりに過信はある。しかし確実に溢さない!とは言い切れないところもある様である。
「溢…さない!!」
「自信ないなコレは」
「お前は信用できない。いいから早く文章考えるぞ」
「やだもー!直接会うー!!」
「だー!会うなっつってんだろ!!」
「さっさといい分考えるぞ」
「俺のは不採用か」
戸叶が考えた文章は不採用だったらしい。
大変そうだなぁ、とこの一連の流れを側から見ていたセナやモン太であったが、鈴音だけは意味深にその様子を伺っていた。
何かを察知しピンピンと揺れる鈴音のアホ毛に気付く者は、残念ながらその場にはいなかったのだった。