
11
それから、ただ淡々と事は進んだ。
デイシャのまっさらで綺麗な遺体は、すぐに本部に輸送されて、わたしたちのもとには何も残らなかった。
わたしは臨界点を超えてしまったようだけれど、本部の人たちからは特に何も言われなかった。イノセンスの方も、花のような形に変わった筈だのに落ち着いてから見てみればいつもの通り、硝子のグラスのままだ。臨界点を超えたら元帥候補になる、とか何とかそういう決まりがあるはずだけど、わたしは基本出来損ないだからそれが適用されなかったのかもしれない。だとしたら、ありがたい話だ。
臨界点を超えたようだと告げると、ユウは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。「あまり目立つようなことすんなよ」と吐き捨てるように言われた言葉は多分、わたしを心配してくれているからなのだろう。
ティエドール元帥も見つかって、わたしがデイシャのことを報告すると、本部には帰らないと、新しいエクソシストを探さなくてはと、仰った。
デイシャの故郷を絵に描いて彼を悼む元帥を見ながら、わたしは少しだけ、安堵している自分が居ることに気がついた。本当にわたしは最低だ。今少しだけ、ユウが死ななくて良かったと胸を撫で下ろしているわたしがいる。
もしこれがユウだったら。きっと、わたしはいくらでも死んだ。体の再生が止まるまで。いくらでも。だってそうしたら、ユウもアルマもいない。こんなところで、生きていたってどうしようもない。
……嫌な想像はやめよう。もう、余計なことは考えないようにしよう。
結局全部、仮定の、イフの話。ユウは生きていて、デイシャは死んでしまった。それが全部。
だからもう、余計なことを考えるのはやめよう。
「ナノ、行くぞ」
「うん。分かってる」
ユウがわたしの手を引いてくれている。
いつの間にかティエドール元帥とマリは少し前を歩いていて、わたしよりも大きくて、歩幅もずっと大きいはずのユウが、わたしにあわせてゆっくりと歩いてくれている。
繋がれた右手からじんわりと伝わってくる熱がきっとわたしにとっての命綱だ。ぎゅう、とユウの手を握り返して、こぼれそうになった涙を左手で思いきりぬぐった。