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10

泣いて、泣いて、無様に蹲っているわたしのところには、幸運なことにアクマはそれからなんにも来なかった。
デイシャの遺体は綺麗だった。苦しんだ後もない。ただ、少しの驚きだけを固くなった表情が伝えているばかりだ。逆さに釣られたその格好が少し滑稽にも見えて、だから余計に痛ましく見える。
とても見ていられるようじゃなかった。見ていると、とにかく涙が溢れてくる。それでも、目が開いたままになっているのが痛々しくて、かわいそうで、瞼だけは閉じてあげた。
何で、どうしてこんなことに。デイシャはだって、わたしなんかよりもずっとずっと、強かったのに。やんわりとした光がわたしのところに届いてきて、夜明けを告げている。
あぁ、ユウが指定した時間には間に合わなかったなぁ。
せめてここから、通信が届くといいんだけど。
少し休めば動けるようになるだろうと思っていたけれど、どうにもまだまだ、体は治りきっていないようで動けそうにない。
ああ、これだからできそこないの第二使徒は駄目なんだ。せっかく怪我が治るのに。そういう呪符が、わたしにだって埋め込まれているというのに。どういう訳かうまく馴染まないそれは、わたしの体をいたずらに弱くするだけだ。
いっそわたしの体が普通の人間と同じだったなら、もうとっくに、わたしは死んでいただろうに。
ゴーレムを引っ張り出して、ユウに繋いでもらう。はじめにデイシャがいた場所からは、ずいぶん南に来ているし、アクマの姿はもう見えない。通信が、通じるはずだ。
「……ユウ、ごめん。動けなくなっちゃった」
通信が通じているかもわからないゴーレムに向かってそれだけつぶやくと、後はもうどうしようもなく涙が溢れてきた。
これだから、戦争ってものは嫌なんだ。だって、ほら。どこに行っても、犠牲がつきまとう。
ファインダーさんたちの死に関しては、あんなにも薄情でいられたけれど、同じ師を持つものとして、彼とはそれなりに仲良くしていた仲だから、だからこそ辛い。それに、わたしがもっと急いでいれば、デイシャを助けられたかもしれないのにと思うと、自分の至らなさがたまらなく歯痒い。
こんなとき、わたしはやっぱり、自分だって消えてしまえばいいのにと思う。消えてしまえば、何も考えなくてすむ。ただ安らかに、眠っていられる。
けれど、わたしはその道を選べない。
笑っちゃうようなおかしな理由で、それを選ぶわけにはいかず、「彼女」の声に従わなくてはいけないという、ちっぽけな使命感を手放せない。どれだけ死んでしまいたくても、消えてしまいたくても、わたしは、生きるしかない。
「……ナノ」
ユウの声が、真上から降ってくる。わたしの通信は無事、彼に届いていたようだ。
「ユウ、マリ……迎えに来てくれてありがとう。ごめんね、デイシャ、間に合わなかったの」
ユウがいると、せき止めていた何かが急に崩壊して、それまでだってそうじゃなかったかもしれないけれどとにかく、わたしは、一人のエクソシストじゃなくて、一人のか弱い小娘になる。
止まりかけていた涙がまた押し寄せてきて、わたしはとにかく泣いた。
泣きすぎて、吐いてしまいそうなくらい。とにかく、気が済むまで泣いた。そうして泣いているうちに、わたしの中の後悔も哀しみも、溶けてくれれば良いのにと思う。
「デイシャが、死んじゃったの……わたしが来た時にはもう、こうだったの。……間に合わなかったの」
ぽつぽつと呟いたわたしの言葉は、思っていたよりもずっとずっと大きく響いた。
もしかしたら、間に合っていたかもしれないのに。もしかしたら、デイシャはまだ、生きていたかもしれないのに。
そう思えば思うほど、胸が痛くて辛かった。ユウもマリもなにも言わなかったけれど、きっと彼等もデイシャが死んで、悲しんでいる筈だった。
ぱたぱたと、デイシャのゴーレムが羽ばたく音が響いていた。
血を吐きながらわたしは幾度も幾度も、謝り続けた。デイシャが死んでしまったことが、わたしのせいのように思えて仕方なかったのだ。