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01

この任務の終わりは一体、どこにあるのだろう。
こうこうと風の吹き荒ぶ、小さな島国に立ち尽くしながらそんなふうに思った。
デイシャは死んでしまった。彼の死を悼む間もなく、ティエドール元帥の任務の関係で、わたしたちは日本に赴いていた。
元帥を付け狙うアクマの攻撃を切り抜けながら、たった四人きりで海を抜けた先に日本はあった。四人きりでどうやって海を越えたのかと言えば、「水を操る」というわたしのイノセンスが、珍しく役に立ってくれたのだ。海の上を歩くことだって、波を操って普通よりもずっと早い速度で船を動かすことだってできるのである。以前よりも長い間発動していられるようになったのは、きっと臨界点を超えたおかげなのだと思う。
しかし、ここに来るまでの間に伝え聞いた、スーマンのことがどうにも尾を引いていて、わたしは相変わらず任務に集中することが出来ていなかった。
アクマに頭を垂れて命乞いをしたスーマンは、エクソシストやファインダーの居場所をアクマに流して、その結果こちら側には大量の死者が出た。きっと、バルセロナでわたしたちが襲われたのも、それが原因だったのだろう。
スーマンが裏切らなれけば、デイシャは死ななかったかもしれない。
そう思ったけれど、わたしはあんなに悲しかったデイシャの死を、スーマンのせいには出来なかった。
咎落ちと呼ばれるその状態を、わたしは実際に目にしたことはない。もしかしたらあの研究所でも起こっていたことなのかもしれないし、わたしやユウが繰り返してきたシンクロ実験の痛くて苦しい状態が、咎落ちの一端なのかもしれない。
神を、イノセンスを裏切ったエクソシストの末路。
それはあまりに、悲しすぎる。わたしには彼の気持ちが、少しだけわかってしまう。家族のもとに帰りたいと望むことが、どうして、罪になってしまうのだろう。
名前をつけられない暗い感情がずぶずぶと泥のようにわたしを捉えて、そのせいで、馬鹿なわたしは任務のことを考えられない。
ティエドール元帥はわたしたちにも彼が受け持つ任務のことや、日本へ向かう理由なんかを話してくれた筈だけれど、とにかくわたしが認識していることは日本は今アクマに侵された土地で、安全な場所は殆ど存在していない、ということだけだ。
日本に着くなりわたし達の元にクロス元帥の改造したアクマだという妙に綺麗な女性に変化するアクマが現れて、彼女? に案内されるがままにエド、という場所に来たけれど、エドが日本のどの辺にあるのかもわたしは知らない。もしかしたら、アルマだったら知っていたかも知れない。アルマは仲間たちに様々な話をする為に、よく、本を読んでいたから。

「やなこと、考えちゃった」

アルマのことはあまり思い出さないようにしていたのに。わたしはやっぱり、とびきりの馬鹿だ。

「おいナノ、行くぞ」
「今行くわ」

ユウが呼んでいる。
この日本は人口の九割近くをアクマが占めているらしい。油断をしていられるような暇はないというわけで、ユウがわたしの手を握ってくれることは無い。いつまでも甘えてばかりではいけないとわかっているのに、気持ちが沈みきっているからか酷く、心細かった。
俯いて、足を進める。コムイさんたちが送ってくれた新しい団服は以前のものよりも軽いはずだのに、わたしの足取りは重い。

「ナノちゃん、ちょっと急いでも良いかな」
「ごめんなさい、元帥。大丈夫です」

申し訳なさそうな元帥の言葉に、にっこりと笑ってみせた。やっぱりわたしが、足を引っ張ってしまっているのだろう。口元は引きつっていたが、とにかく今、急がねばならない状態なのに変わりは無い。
わたしの弱さがユウばかりでなく元帥やマリにまでいらぬ気遣いをさせている事実が悔しい。
とにかく夢中で、足を動かすスピードを早めることだけを考えることにした。
余計なことばかり考えているから体が動かないんだ。いざという時に何も出来ずに、また、後悔するのはもう嫌だというのに。

「オイラが案内するのは此処までだぜ」

名前も知らない改造アクマがそう言って、わたし達は少し、開けた場所に出た。

「……あれ、」

エドの街並みの真ん中、閑静な日本家屋に不釣り合いすぎる、とてもとても大きな黒い、影のようなものが見えた。

「マリ、君の耳で何が聞こえる?」

元帥が、マリに問う。
わたしの馬鹿な耳では大きな爆発音のようなものが響いているということくらいしか分からないが、きっとマリには全部が聞こえているだろう。
もしかしたら、いや、もしかしなくても。あの大きな影の中には、別働隊として任務に駆り出されているリナリーやラビ、それに、アレンくんなんかが居るんだろう。
案の定マリが聞いた音の中に、彼女達の音も含まれていた。

「……リナリー達、大丈夫かな」

小さく吐き出した言葉は、妙に響いて聞こえた。
行ってあげなさい、と元帥が言って、殆ど同時に腕を引っ掴まれた。

「行くぞ、ナノ」
「うん」

ユウの背にしがみついて、前を向いた。
どうにか、足を引っ張らない程度には戦いたい。一人前のエクソシストにはなれなくても、せめて、それくらいは。