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02

わたし達が合流した時、リナリーたちは絵に描いたようなピンチに陥っていた。
クロス部隊のメンバーらしい、わたしの知らない、黒髪の男性たちがノアに殺される寸前で、何とかわたし達が間に合った。
そのまま艶っぽい青年の姿をしたノアに切りかかるユウの背から離れて、わたしは周りの援護にまわる。ユウとノアが勢いよく刃を交えている衝撃に周囲の、恐らくは戦えないであろう、人たちが巻き込まれないように壁を作って、吹き飛ばされたり飛んできた石に巻き込まれないようにする。
水の壁でどうにか皆を守りながらあたりを見回して、知らない人たちとブックマンさんがボロボロになりながらも何とか生きているのを見て、息をついた。
その時、リナリーの体が褐色肌の青年の腕から紙くずのように呆気なく投げ出された。
「リナリーっ!」
わたしは悲鳴に近い声をあげながら走りだす。
イノセンスを握る右手に力を込めて、無防備な彼女の体を何とか受け止めることに成功した。大量の水で受け止めたせいでリナリーの体はびしょびしょに濡れてしまったけれど、彼女には傷一つない。
「まにあって、よかった……」
「ナノ……うん、生きてるよ」
力なく手を握り返してくれるリナリーを抱きしめてる。すっかり短くなってしまったリナリーの黒髪が痛ましくて、目の前のノアが恐ろしくて、涙が滲んだ。
ユウをまるで子どもを相手にするように軽くいなすようなノアが、怖くてたまらなかった。
だが、恐怖に震えるばかりではいられない。兎にも角にも、わたしは戦えない人たちを守らなくてはいけない。
リナリーを抱きしめながらイノセンスを握る指に力を入れたが、マリが糸を張り巡らせて動きを止めたアクマを、ユウが一刀両断したのを見て何とかひとつ、息をつくことができた。やっぱり、あの二人の連携は完璧だ。
「ナノ、久しぶりさねー」
「そうね。ラビも久しぶり」
ボロボロになってたくさん怪我をしているのに気楽な調子のラビに、少しはにかんだ。
次にユウに声をかけたラビに対して、いつも通りファーストネームで呼ぶなとユウが怒りだし、張り詰めた空気は少し緩まったのかと思った瞬間、
「チョコザイナ」
そんなふざけたセリフと共に落ちてきた「何か」に、わたしたちは呆気なく押し潰された。
咄嗟にイノセンスで防御したけれど、この一瞬で周囲にいる皆を守りきる程の防御壁は作れない。
何とかわたしの近くにいた面々……ユウとリナリー、そしてラビを抱え込むことは出来たけれど、それも何処かで壁がやぶれていたかもしれない。
本当に守らねばならないはずのエクソシストじゃない人たちの方にまで、意識が回らなかった。
衝撃が収まってなんとか顔を上げると、わたしと手を繋いでいた筈のリナリーが居なくなってしまっている。
焦って周りを見渡すと、上から呼びかけられるような奇妙な感覚がした。「ナノ、」と優しく呼びかける高い声は、リナリーのものだ。
見あげればわたしのすぐ隣に、大きな結晶のような、何かがそびえ立っている。
「リナリー!?」
リナリーの鈴の音のような声はその結晶から発せられている。何がどうなって、彼女はこんな姿になったというのだ。一体、リナリーに何があったと言うんだろう。わたしはきらきらと光るその結晶を、呆然とした面持ちで見つめる。
「ナノ、後ろを見ろ!」
突然、マリの焦った声がした。
殆ど同時に、わたしは反応も出来ずに物凄い勢いで投げ飛ばされた。衝撃でボキボキ、音がした。骨の折れる音だろうか。
吹っ飛ばされたわたしと入れ替わるように、泣きぼくろの妙に艶っぽい、先程のノアが立っていた。そのまま彼はユウに襲い掛かった。どうやらわたしは、あのノアに後ろから投げ倒されたようだった。
「貰うよ、彼女」
ノアが、ユウに囁くように言うのが少しだけ聞こえた。ノアは他にも何かを言っていたようだが、それ以上わたしの耳には届かなかった。
彼女とは、リナリーのことで間違いないだろう。「貰う」とはどういうことなのだろう。ノアがリナリーを攫う理由があるというのだろうか。リナリーは、どうなってしまうんだろう。
不穏すぎるノアの言葉を恐ろしく思ったけれど、それ以上に、身体中が痛かった。これくらいの怪我は慣れっこだったはずだというのに、痛みに体は慣れない。
わたしが俯せに倒れたまま動けずにいると、今度はぱっと太陽の光が差し込むような、明るい光が空から差し込んできた。のろのろと光の方へ顔だけ動かすと、光の合間からは姿の見えなかったアレンくんの姿がちらりと見えた。
ティエドール元帥の造ったであろう大樹も、暗く曇った空をも割るようにして白い光とともに現れた彼が、千年伯爵に斬りかかり、そしてその一太刀は見事伯爵の体に命中した。
ただ、わたしのポンコツな頭はそれ以上を理解出来なかったらしい。
叩きつけられた衝撃もあってか意識がふらりと暗くなって、気絶してしまったようだった。
気が付いた時には、ユウとアレンくんが何やら激しい言い合い? それとも斬り合い? をしている所だった。
仰向けに寝転がったまま周りの様子をちらりと伺うと、どうやら、何処かの橋の下のようだ。
わたしの隣ではリナリーが少し荒い寝息をたてて眠っている。見慣れない人の多いクロス部隊の人たちはみんなぼろぼろで、リナリーもその例にもれず怪我を負っているようだ。
「ナノ、立てるかー?」
「もーちょい、待って欲しいかも」
ラビに寝そべったまま返事をする。しゅうしゅうと煙をあげながら、わたしの体は修復作業の真っ最中だ。まぁ多分、あと一分もすれば立てるようになるだろう。十分もすれば全快だ。