
01
ノアとレベル四の襲撃を受けて黒の教団本部はは別の場所へと移ることになった、らしい。新しい本部はノアの方舟を利用した転移システムを使って場所を秘匿するとかなんとか。詳しい場所の説明はうけていない。また、本部がノアやアクマに襲われることのないように万全に体制を整えるのだとか。新しい本部、何処に行くんだろう。地下だろうか。地下だったら、嫌だなぁ。
まぁ何はともあれ。
「引越しかぁ」
ぼんやりとため息をついた。
他の怪我は再生しきってくれたけれど、両腕だけは他の怪我が治っても再生してくれなかった。本当ならば落ちてしまった腕を繋げることでもっと早く再生してくれたんだけど、あの時の炎でわたしの腕はすっかり燃えてしまっていたのだ。
なかなか再生しない両腕についに再生能力が尽きたのだろうか首を捻っていたけれど、コムイさんが言うところによると時間の問題とのことだ。ただでさえ充分に機能を発揮できていない呪符の力をここの所、立て続けに使ったせいではないからと言うのである。それを聞いて成程とは思ったものの、自分の体のあまりのポンコツさに頭が痛くなってしまった。
今までも腕や足がもげたりまた生えてきたりしたことは幾度もあったけれど、さすがにこんなにも長い期間両腕がない、というのははじめてだ。
こうなってしまうと一人で何もできない無力感ばかりが募っていくけれど、今はみんな、任務に行かずに怪我の療養をしているので、こういってしまっては良くないかもしれないが、わたしの気持ちは幾らか軽い。任務に行くみんなを見送ったりしなくてもいいのだから。
中央庁の人がたくさん出入りしているという今の状況も緊張ばかりを生むし、やっと仲良くなれるかと思ったアレンくんは方舟の制御ができるとかで教団内で疑われているし。近頃は気が重くなる話ばかりだ。アレンくんにはリンクさんという中央庁の監視役がついただけのようだけど、実際のところはどうなのだろう。
稽古をしていたはずがドスドスと目の前で殴り合いの喧嘩を始めてしまったユウとアレンくん二人を見ながら、はぁーと長い長いため息をつく。
みんな怪我人なんだからゆっくりすればいいのに。わたしはもうほとんどの傷が塞がっていて、腕が無いだけだから良いものの、他のみんなはまだまだ怪我人だ。ユウだって、近頃はめっきり治りが遅くなったからまだその枠の中にいる。
「ナノ、」
呼ばれて後ろを振り向くと、こちらはすっかり元気になったリナリーが居た。
「リナリー」
彼女の足のイノセンスはよく分からないものになっていた。ほっそりとした足首には鮮やかな赤いアンクレットがかかっていて、それが「黒い靴」が変容した姿なのだ。
彼女のイノセンスには今までにないようなことがおきているらしく科学班はこちらを優先して調査中。あの一件で本部に慣れている人員が減ってしまってますます睡眠時間が減って、ヘロヘロにやつれてしまっている。
科学班のみんなには申し訳ないけれど、わたしは「黒い靴」のこの変化が、少し嬉しい。このおかげでリナリーがいつでも、好きな靴を履けるようになったからだ。
「ナノ、もう出歩いていいの?」
「うん、傷は治ってるわ。腕が、無いだけで」
「そう、」
リナリーは悲しそうに視線を下ろした。わたしの腕のことを気にしているのだろうし、またこの襲撃で死んでしまった人たちのことを思い出してもいるのだろう。リナリーはこの本部の誰もを家族のように大切にしているから、きっとわたしには想像もできないほどショックは大きいはずだ。
「……アレンくんもユウも、二人とも元気だよね」
「え?」
「ほら、まだあんなに怪我してるのに。もう鍛錬なんてして」
「……そうね、」
「わたしだったら考えられない」
「私だってそう、かも」
周りで見ていた皆もわたしたちの言葉に頷く。
少しだけ、その顔ぶれは変わった。
この間の件でいっぱい死んで、いろんな支部からいっぱい人が入ってきたからだ。
わたしは泣かなかった。
ユウも、わたしも、生きていたからかもしれない。
結局わたしは性格が悪い、嫌な人間なのだ。
今のわたしは、ユウがいてくれれば、それで何の問題もないのだ。ユウが生きていてくれれば、それだけでわたしも、生きていられる。
リナリーは自分の「世界」を教団にいる仲間たちだと言うけれど、わたしの「世界」はもっと狭くて、小さい。
「リナリーは本当に優しいわ」
「どうして?」
「どうしても。ね、元気だして。リナリーが笑わないと、教団の中が暗いままなの」
「なあに、それ。変なナノ」
くすりと小さくリナリーは笑って、本当よ、とわたしは何度も繰り返した。