「康一!テメェ!何言ったんだよッ!」
「ひ、ひぃぃぃ!」

教室の扉が乱暴に開かれる。
周りを圧倒させるような勢いで、仗助は一気に詰め寄った。
壁に追いやられた康一が悲鳴をあげながらびくびくと顔をあげる。

「今朝、なまえさんが俺ん家に来て置いてったッ!」

その手にあったのはCDだった。それも1枚や2枚じゃない。何枚もある。独特のロゴが目に入り、康一は苦しそうに息を吸った。

「ぼ、ぼくはただ聞かれただけだよッ!仗助くんの好きなもの、聞かれただけなんだァァ!」

ドンっ!と仗助の胸を払いのけ、広い場所で自分の言い分を述べる。仗助はその眉間に皺を寄せた。

「は、はぁ?俺の好きなものってなんだよ、康一....」

分からない。仗助は瞬きを何度か繰り返した。康一がハァッと息を吐きながら言った。

「なまえさんは、仗助くんが怒ってるのを自分のせいだと思ってるんだよ!だから必死に仗助くんと仲直りがしたくて、それで色んな人に仗助くんのこと聞いてたんだよ...!」

「、ま、マジか......」

まさかそんな。自分のことをそこまで気にしているというのだろうか、なまえさんは。
仗助は驚いて、そして気まずそうに康一から目を逸らした。悪ぃ、と一言だけ告げて、仗助は教室を出て行く。

「っねえ!もう!仗助くんも好きなら好きで、....気持ち伝えたら?」

廊下を歩き出すと、康一の声が背中の方から追うように響いてくる。
こんな風に言ってくれるやつがいる。
だけど、だけどよ。

「っ、それが、出来たらッ......」


苦労はしねーんスよ。





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「ちょっと、仗助!アンタ、学校は?」

昔からよくタイミングの悪いところで出会う。部屋へ直行しようとしたのに肩を掴まれた。やべーな面倒くせぇ....。今はめちゃくちゃ会いたくなかったぜ。
しかし、会っちまったもんは仕方ない。
仗助はくる、と身を半回転させた。

「.........なぁ、お袋」

「なによ、具合でも悪いの?顔色悪いわよ」

「.........お袋はさ、俺を産んで後悔とかしてないんだよな.....なんて、」

「ッ、はぁ!?なにいきなり!!バッカじゃないの!!」

「い、ッ痛ェェッ!」

お袋に本気でひっぱたかれ、マジで死にそうになった。
まあ自分で馬鹿なこと聞いてんのはわかってたけどよ。
....ほんとに馬鹿馬鹿しいこと聞いちまったよな。
だって俺、こんなにお袋に苦労かけて、死んだじいちゃんにも可愛がってもらって、毎日ゲームやって、飯食って、勉強もほんのちこっとやれば布団で寝れる。

フツーに幸せなのによォ。

やっぱもっと幸せになりたいなんて、思ったらバチが当たるっスかねぇ。
親子揃って不倫なんてシャレになんねーっスってマジで。



「あたしはただ本気で人を愛したのよ」

お袋はいつだってこう言う。
酒が入った時は俺に泣きついてくるからカンベンして欲しい。
でも決まって毎回、お袋は俺に向かって泣きながら言う。


「仗助は、私の宝物なの」


こんな時に俺は決まって黙り込む。
心臓がチクチクする、けどなぜか、同時にくすぐったいような気持ちになるからだ。


「.........はぁ」

しばらく説教たれられた後、部屋に戻ってから俺はなまえさんに電話をかけた。
この俺の部屋の片隅にある、プリンスのCDの処遇について
俺はなまえさんによく確認しておかなきゃならないと思った。









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