「えええええええええ!?!?」

ガタガタッ!と一気に立ち上がる。
椅子を引きずり倒した音は店内によく聞こえた。
しかも本人は腹の底から思いっきり声を出したからか、周りにいる客の中には驚いてカップを落とした者までいた。
カフェ ドゥ マゴ で先のような大声をあげたのは、東方仗助だった。


「仗助、どうした、座れ」


話の途中で急に立ち上がった仗助に対しても承太郎はあくまで冷静で、数分前に頼んだコーヒーに口をつけている。

「え、いや、ハイ」

口をぽっかり開いたままの仗助は、まだ自分の頭の中の整理がつかないまま元にしていたように席へ着く。
恐る恐る自分の目の前に座る人物を見ると、仗助と目を合わせた彼女はいつものようにへにゃっと笑っているだけだ。


「仗助くん、承太郎の知り合いだったなら言ってくれたら良かったのに」

まるで知らなかった、と面白そうに言う彼女には、何も、薄っぺらな冗談さえも言えない。


この人はなまえさん。
俺の大好きな人。めちゃくちゃ優しくて、すっげー可愛くて、いつも笑顔で。付き合うならこんな人だって確信してた。
俺がもう少し、もう少しだけ大人になったら絶対に告白しようと思ってたのに。なのになんで。


「は、あは、そ、ッスね」


今は渇いた笑いしか出てこない。
あんなに俺を幸せにしてくれたなまえさんの笑顔が、今はただただ痛い。
痛い。胸の奥がズンズンする。


「私も承太郎と同じホテルに泊まってるから、良かったら遊びに来てね」


最後にはこんなことまで言われてしまって、俺は完全敗北。
ノックアウトした。





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