「えええええええええええ!?!」

「そんな訳でよォ.....億泰、俺は完全に失恋だぜ」

「し、失恋んん!?」

虹村億泰は頭を抱えた。
放課後、いきなり家にやって来た仗助を迎え入れ、(ゲーム対戦の申し出かと思ったら)とんだ話を持ち出されたのだ。しかもそれがいきなり失恋のところから始まり、
前々から仗助に好きな人がいて、恋をしていることすら聞いた覚えのない億泰はそれは反応に困っていた。


「じゃ、じゃあ.....つまり、仗助ェ、承太郎さんはお前の甥だから....」

「なまえさんは俺の甥の嫁っつーことだよ」


仗助がハァッと溜息をつく。
もうダメだわ...と天井を向いた仗助の横顔を隣で見ている億泰は拳をぎゅっと握った。なんだかどうしてもやるせない。

「な、っ!なんなんだよォ!甥の嫁じゃあマズイのかよお!」

「ばっ、バカかテメェ!人様の奥さんってだけでマズイんだよ!不倫だぜ不倫!」

「そ、そうなのかァ.....不倫....不倫は、マズイよな.....俺も兄貴と昔ちょっとだけ見た昼間にやってるドラマで見たことあるぜぇ。不倫っつぅのは、なんかドロドロするんだよなあ....多分」

考え込んでも答えは見つからない。
行け!と言っても退け!と言っても、何が変わるのか見当もつかない。

「(俺がバカだからかなぁ....)」

頭から必死に知恵をひねり出しながら顔には汗をかいている億泰を前にして、仗助はもうこれ以上考えても仕方ないと頭の隅では思いながらも、

どうしようもなく痛くて苦しいこの胸をどうしたらいいか悩んでいた。

「.........まあ、しばらくなまえさんを見なきゃぁ忘れるだろーから、あんまし心配しなくてもいいぜ。億泰。」

「で、でもォ.....仗助....」

億泰は困った顔で仗助を見つめた。
しゃあねぇよ、と仗助がへらりと笑ってみせる。


「あっ!康一でも呼ぶかぁ?」

「いやっ、康一には言わなくていいや」

胸の前で両方の手のひらを億泰に向けて静かに苦笑いを浮かべた。
じゃあ、せめて持ってけ!と億泰に渡されたのは袋詰めされた煎餅だった。

「おっサンキューなっ」




ALICE+