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本当ならスタンドを使って、
君の心の中を覗いてしまおうと思ったんだ。なんのことはない、簡単なはずだった。

なまえの考えていることや、感じていることを、ぼくは知りたかった。
いやそれだけじゃない。なまえが仗助のことをどう思ってるのか、ぼくのことをどう思ってるのか、ぼくはそれを知って、さらに先に進もうとした。

漫画の道だった。

バカだなァ、ほらみろよ。ぼくにはやっぱり漫画しかないんだよ。
いい漫画のネタになったなァ。
そうやってもう一人の自分がぼくを慰めてくれる気がしたんだ。
そうすればぼくは、たったひとりでもいいから、幸せになれたのに。
それなのにどうしてなまえというやつは、ぼくをこんなに苦しませるのだろう。
いっそ居なくなってくれたら楽だ。ぼくの頭の中から、彼女のページを破り取ってしまえたらどんなに楽だろう。

けど、.....なまえも苦しんでいる。
ぼくのような男でも、なまえを苦しませられるのか、と思って驚いた。
その苦しみを深く深く知りたくて、ぼくはなまえを家に招き入れた。

「なにをいまさら遠慮することがあるんだ、座れよ」

先程のことがあったからか、泣き止んでからもしおらしいなまえをソファーに座らせ、キッチンへ向かう。

「あの、露伴先生、私」
「ん」

ぼくは冷蔵庫から取り出した皿に乗ったイチゴのショートケーキを、なまえの目の前へ置いた。

「....?」
「ぼくがクレープを食べたことを恨んでるんじゃないかと思ってな。怖くて君に買ってやったんだよ」
「そ、そんな食い意地はってません!」

なまえは咄嗟に反論した。
腫れぼったい目をぱちり、と開いたまま、ぼくとケーキを何度か交互に見る。

「でも.........じゃあ、いただきます」

最後にぼくの方を見て、軽く頭を下げたなまえは
そのままおとなしくフォークを手にとった。

「........この間は急に君をほっ放ってすまなかった。具合が悪かったんだ。」
「そ、そうだったんですか」

ウソをついた。

「.....ぼくは別に、君がこの家に来ることを迷惑だなんて思ってないさ。」
「え、」

なまえの顔がバッ、とあがる。
露伴はなまえと目を合わせるように顔を動かした。

「い、いいんですか?これからも、仕事場に....その、通っても、?」
「構わない」

頷く露伴。
なまえは明らかにホッとした顔をした。よかった....そう呟いたなまえの息遣いが露伴にもよく聞こえる。
彼女の呼吸で止まっていた心臓が動き出したように、露伴は自分の体に血液が流れるのを意識した。

妙なところで生を実感した。



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