君の音がする理由



「おい億泰、すげー綺麗じゃあねえか?」
「何がだよォ」

億泰が頭に?マークを浮かべているのに仗助は静かに顎を上へとあげてみせる。
校舎の壁に沿うように目線をそのまま引っ張りあげると、仗助の言わんとしていることが分かった。上の階から、音楽が漏れている。

「なんの歌だァ、ありゃ」
「俺がそんなお洒落な歌なんて分かるかよぉ!不良だぜぇ?」
「おー...そーだな」

素直に頷く。
仗助はいこーぜ、と肩を叩き億泰を連れ立った。

「急がねぇとよォ、承太郎さん待たせちまう」

サクリサクリと秋の葉の音を踏んで、二人は校舎の裏側へ消えていく。
落葉樹が並ぶ小道の隅に風が吹き込み、ゆらゆらと葉を揺らしていた。


「何の話をしてた?」

なまえは自分の膝下へすり寄ってきた黒猫を抱き上げた。ハバナブラウンの猫はにゃあ、とひとつ鳴いてみせる。

「あの二人は私の歌が聞こえてたの?」

『うん、スタンド使いみたい』

「スタンド使い....」

頭がずきりと痛む。私がスタンド使いになったのは最近だった。いや、本当はもっと前からスタンド使いだったのだ。私は生まれる前からスタンドというものを知っていた、気がする。
前世の記憶があるのだ。
昼は太陽が輝き、夜は星の煌めく砂漠の世界を、仲間と共に旅をした記憶がある。私にとって大切な、大切な記憶。

『空条承太郎....』

「え、」

『あの二人が今から承太郎に会いに行く。行かなくていいの?』

私のスタンドが薄いグリーンの目でこちらを見つめてくる。

「あ、会えない」

ふい、と顔を背ける。
空条承太郎。彼がこの杜王町にいることには気がついていた。かつての仲間。親友。ううん、それ以上。
私は承太郎のことが好きだった。
彼を守って死んだ。
今更、承太郎に合わせる顔なんて持ち合わせていない。

「きっと気持ち悪がられるだけだよ...。死んだ人間がまた、違う人間になって生きてるなんて、」

『承太郎はなまえを覚えてるよ。』

「そんなの、ありえない」

私は首を横に振った。
私には新しい人生がある。
もちろん、承太郎にも。
なまえは、悲しそうに鳴いた黒猫を撫でた。





お風呂上がりに飲むのは炭酸水と決めている。
これは今も昔も変わらない。
なまえは濡れた髪をタオルで拭き取り、そのままキッチンの冷蔵庫へ向かった。よく冷えたペットボトルを取り出すのが心地いい。

「それを飲むのは変わらねぇな」

「........え、」

ピキリと全身が固まる。

「やれやれ、仗助のやつから聞いてきたが...どうやら当たりだったようだ」

「!」

振り返ると、そこには会いたくて堪らなかった人がいた。承太郎。一体どうして。

「だ、だ、れ、です、か」

震える指先を背中に隠しながら、私はそう言った。
心臓がバクバクと鳴り止まない。知らないふりをして、このまま逃げてしまおう。
私はスタンドを出して、姿をくらまそうとした。
けど、

「そうはさせるかよ」

コンマ何秒という速さで承太郎のスタープラチナが私のスタンドをがっしりと捕まえる。

「ぐっ!」

苦しくて、うまく息が出来ない。私を見下ろす承太郎の目は、本気だった。

「この俺が世界中を探し回ってやっと見つけたって時に、逃げようとしてんじゃねえ。なあ、この顔に見覚えがあるだろう。」

「っは、っく、じょ、た、ろ」

「正解だぜ」

承太郎の唇が動く。私の瞳からじわりと涙が浮かんだ。もう無抵抗だとわかったのかスタンドが仕舞われる。

私は、その場にふらふらと膝を落とした。

「......なん、でっ、」

なんで承太郎が、。どうしてまた、出会ってしまったの。目頭が熱くなる。もう、承太郎のことは忘れてしまいたかったのに、どうして。

「俺は幸せだぜ、もう一度だけ好きな女に会えた」

ふるふると首を振る私の手首を掴んだまま、承太郎は私の唇にキスをした。

「っ、」

「なまえ、大丈夫だ」

抱き締められ、そのまま大きな手で撫でられるとついに私は声をあげて泣いた。

「じょう、たろぉ、っ、好き、っずっと、前から、」

「ああ、....知ってる」

こんなに優しくされたら堪らない。まるで壊れ物を扱うように、承太郎は私の頬を撫でた。
もう一度、唇が重なる。

「ふ、っ、んん、」

今度は熱くて、長いキス。
互いを確かめ合うように、私も承太郎の舌と自分の舌を絡めた。

好き。

この気持ちはもう隠せない。
なまえは吐息にはらんだ誘惑に、どろどろと落ちていく。
承太郎が服を脱がせ、なまえの白い胸に手を触れた。

「心臓、....動いてるな」

そう囁きながら耳を近づけた承太郎の切ない顔を見て、なまえは「うん、」と涙ぐみながら返事をした。


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