ピピピ、と傍らの時計が鳴った。
温かな布団から腕を出せば、刺すような冷気に触れて思わず鳥肌が立ってしまった。それでも鳴り続ける時計を手探りで探せば、ほどなくしてそれは見つかった。叩くように時計のボタンを押せば音は鳴り止み、再び静かな時間が訪れる。
二度寝しようかな。ぼんやりとした思考の中で私は再び布団の中にもぐりこんだ。確か目覚ましをセットしたのは朝の八時だったはずだ。仕事が休みである今日は早く起きる必要がない。そう考えて再び夢の世界に飛び立とうとした時だった。突然布団を剥がされ、そのせいで襲って来たあまりの寒さに私は思わずうめき声を漏らした。誰が布団を剥がしたかなんて、この家にはあともう一人しか住んでいないのだから簡単にわかる。
「ほら、起きろなまえ」
「っ寒いってば、赤司…」
「目覚ましが鳴っていただろう。二度寝するんじゃない」
仕方なしに目を開ければそこにいたのは案の定赤司で、彼は私から取ったのであろう布団を抱え込んでいた。急に冷えて心臓が止まっちゃったらどうしてくれるの、と文句を言えば、赤司はそんな簡単に止まるような柔な心臓なのか、と鼻で笑った。確かに簡単には死なないだろうけれど死んだら困るくらい言ってよ。続け様にそう言えば赤司は何も答える気が無いようで静かに布団を畳んでいた。そんな彼の様子に少し苛ついて言葉を探すけれど、赤司に言い返せるような言葉が見つからないまま数秒がたつ。赤司は悔しそうな私の表情を見て再び笑って、リビングへと戻って行った。まるで新品のように綺麗に畳まれた布団が少しばかり憎らしい。
「悔しいなあ…」
「さっさと着替えろ。朝食にするぞ」
「はーい」
どうやら今日の朝ご飯は赤司が作ってくれたらしい。私は名残惜しく思う布団からのそのそと起きだして、着替える服を考え始めた。今日は珍しく二人の休みが重なったからどこかに出かけたりするだろうか。何となくそう考えて、私は部屋着ではなくしっかりとした外出用の服を手に取り着替え始める。
着替え終わって髪をとかしていたら、名前が呼ばれた。はーい、と答えてブラシを適当なところへ置き、リビングへと向かう。リビングには湯気が立っている美味しそうな和食があって、丁度赤司が箸を並べているところだった。
「ありがとね、赤司。とっても美味しそう」
「じゃあ明日はなまえが作ってくれ」
「赤司ほど美味しそうな物は作れないよ」
「じゃあ夕食で良い」
「夕食で良い、とか言って絶対湯豆腐をリクエストする気でしょう」
「それでいいじゃないか」
赤司は毎日必ず湯豆腐を食べたがる。昨日も一昨日も湯豆腐をリクエストされて私は酷くうんざりしたものだ。ただ、あの赤司が子供っぽい我儘を言うのが唯一それだけと言えるので、仕方なしに毎日承諾してしまう。私が赤司に甘いことをわかってやっているのだろうから、目の前の男は相当性質が悪い。
いただきます、と声をそろえて食事を始める。素朴な朝食は今日も美味しくて思わず笑みがこぼれた。
「今日はどうするの?」
「どうしようか。―――――どこかに出かけるか?」
「出かけるの?」
「なまえもそのつもりでその服に着替えたんだろう?」
そう言ってふっと笑んだ赤司には、どうやら私の考えは見透かされていたらしい。どこが良いと聞いてきた彼にどこでもいいよと返せば、赤司は悩んだようだった。
しばらく無言のまま食事を進めて、そろそろ食事が終わりかけてきた頃。再び赤司が口を開いた。
「じゃあ、今日は皆のところに行ってくるか」
「いいかもね」
赤司の言う皆、とはキセキの世代のことである。学校を卒業し、それぞれ別々の職業に就いた彼らとは常々連絡を取り合っているが、直接会えることは少ない。だからこそこちらから会いに行こうということなのだろう。久しぶりに会える皆のことを想像したら少し可笑しくなって、思わず笑ってしまった。
「じゃあ準備するね」
「ああ。そこまで急がなくても良い」
「はーい」
自分が食べた食器などを台所に片付けて、私は自分の部屋に向かう。
久しぶりに会った彼らはどんな様子なのだろうか。少なくとも、中学時代には想像できなかった自分たちの今の状況を知ったら、驚くに違いない。
一緒に暮らしてるんですか?
彼らの中で唯一落ちついていそうな黒子の声が、容易に想像できた。
【相互記念に魔法様から!】