ワードパレット/順応・無理矢理・どうせ
貴女に恋焦がれるだけの日々に順応していくのが嫌だった。
永遠にも近い地獄での時。当たり前のように変わらない、縮まらない、貴女との距離。もう、うんざりだった。……そしてついに、思い至ってしまった。どうせ叶わない恋ならば、いっそ───無理矢理奪ってしまえばいい、と。
「っ」
触れる。貴女の、小さくて整った唇が。虚をつかれたように、少し日を見開く貴女の、なんと愛おしいことか。こんな簡単に奪わせていいの? というほんの僅かな驚きと、全身に満ち溢れる多幸感。……けれどこれは、一抹の気持ちよさを得るための、私の許されない罪。このひとときの幸福を対価にして、このあと私は一体なにを失うのだろう。
信用? 立場? 魂? それとも、すべて?
「……で?」
離れた貴女の唇から開口一番に零れたのは、言葉にもならないそんな一語。どんな罵詈雑言も受け入れる覚悟だったから、どう反応すべきか惑ってしまった。どこか呆れたようでいて、不満げにも見える彼女を、ただ見つめることしかできない。
「アンタまさか、ここまでしておいてコレで終わりのつもり? 冗談よしなさいよ。他にアタシに言うことないわけ?」
「……勝手にこんなことして、ごめんなさい」
ハァ、とため息をつき、「本当有り得ないわね」と呟く彼女に、思わず視線を下に向ける。すると、ふと彼女がこちら手首を握ってきて。ぐい、と力を入れられると、驚く間もなく彼女との距離が近くなる。そして耳元に唇を寄せた彼女が口を開くと。
「……好きよ、ダーリン」
吐息と共に紡がれる言葉。いつもよりワントーン低いその声色に、思わず息が止まる。彼女はそのまま耳来に軽く唇を落とすと、思考が停止する私を置き去りにし、こちらに顔を合わせてきて。
「これが手本。お分かり? 次からはアンタもこうすんのよ。でないと二度と口聞いてやんないんだから」
そう、いつものように得意げな笑みを見せる彼女の姿に、視界が揺らめく。……ああ、本当に。貴女って本当にすごいひと。こんなきもちよさを与えて、一体私をどうしたいの? そんなあなたこそ、ある意味私より罪深いのかもしれない。
返事は? と催促する彼女に、涙を滲ませつつ笑顔で応えれば、「しょうがない子ね」と呆れつつも笑って抱き締めてくれて。全身に伝わってくるあたたかさに、彼女との関係が確かに変化していくのを感じた。