彼との初対面でのやり取りで、
「随分と可愛らしいkittyだな?今夜の予定は?俺ならお前を一日で立派なビッチに育て上げてやれるぜ?」
と言われたことに対して、
「すみませんけど私、生前の恋人のことがまだ忘れられないので、そういうのはちょっと……」
と答えたら、なぜか大爆笑されて。
「お前地獄にいながら昔の男に操立ててるのかよ!最高にイカれてやがるな!」
などなど散々なことを言いながら目尻に涙を溜めて笑う彼の姿は、未だ記憶に新しい。今思えば彼のアレは半分冗談のようなものであり、彼にとっては挨拶とも言える発言だったのだろうが、彼の性格を知らなかったそのときは真面目に答えてしまったのだ。
そしてその結果、「決めた。いつか絶対お前を俺の下で啼かせてやる」 と言われ、その日から彼に会う度に口説きのような揶揄いを受けるようになる。
「会いたかったぜ kitty♡ 一日ぶりの再会に俺と熱い夜を過ごすのはどうだ?」
「偶然だな、kitty?これも何かの縁だ、流れで一発ヤっちまおうぜ♡」
そんな具合に一生分の誘い文句を受けるけれど、最後には魔法の言葉 “生前の恋人” を出せばめちゃくちゃに笑い出すため、そこまで面倒なことになった試しはなかった。
……のだが、悪魔にも当然 “飽き” はくるもので。ある日を境に、生前の恋人の話を持ち出しても笑わなくなってしまった彼。しかも、笑うどころかむしろ口を噤んでしまうようになる。いい加減飽きたからイラついているのだろうか?しかし、彼の反応は変わったとはいえ、誘いをかわすことができる事には代わりないため、依然として彼の口説き文句から逃れる切り札として使っていく。
「私は生前の恋人を、」 その日も早速この手を使おうとしていると、バン!といきなり銃声が響き、動かしていた口が止まる。音の鳴った方を見れば、壁に向かい銃を向ける彼の姿があって。
「はァ……な〜んか面白くねぇんだよな……」
「……あっ、た、確かに、いつも同じこと言われてたらくどいですよね!すみません、不快にさせてしまって……」
「あー……そうなんだけど、そうじゃないんだよな。もっとこう……メラっときて、イラつくって感じ?」
それって同じ意味では……? という疑問は心に留めておくとして。未だに納得がいかないのか、「前は笑えたよな……?」 と首を捻る彼に、「……私がなかなか思い通りにいかないから、とかじゃないんですか?」 と言ってみれば、「ああ……なんかソレ近いかもな」とみるみるうちに表情が明るくなっていく。
……あれ、自分で言っておいてなんだけど、これって良くない流れなのでは? そう思い至るも、時は戻ってくれない。
「……ってことは、解決策はもう一つだけだよな?」
舌なめずりをし、妖しく細められた彼の瞳に固唾を飲む。再びあの切り札を使おうものならどうなるかは、先ほどの発砲の件から考えれば明らかで。
「余計なこと全部忘れちまうくらい良くしてやるよ。楽しみだな、honey?」
彼のベッドに沈む身体に、毒のような甘い囁きに、ぞわりと粟立ったこの感覚は、果たして本当に嫌悪感なのか。そもそもの話、口では未練だなんだと言っていたが、果たしてそれは今でもそうなのか。そんな疑問のまま、互いに互いの答えを探り合うように、熱い交わりが始まっていった……。