生前の恋人のことを引き摺っているあなたに対する彼の反応(ルシファー)







ひょんなことから仲良くなった彼。最初に出会ったときはまさか地獄で一番偉い人だなんて思ってもおらず、正体を知ったときには気圧されてしまったけれど、

「君さえ良ければ、これまでと同じように接してほしい」

という言葉を受けて、変わらず友人のままでいたりする。

彼はとにかく聞き上手で、どんな話題でも興味を持って聞いてくれて。だから、そんな彼につい甘えてしまい、日常の何気ない出来事から愚痴までなんでも話してしまう。

もちろん弁えてはいるから、「私ばっかり話しててごめんなさい」「こんな話面白くないですよね……」と訊ねはするものの、返ってくるのは、「私が君の話を聞いていたいんだ。 気にしないでくれ」「君の話は何だって聞きたい」という言葉。こちらを見つめる、柔らかな表情。思わず勘違いしてしまいそうになる “それ” をなるべく意識しないようにと、いつからか彼には生前の恋人の話をたくさんするようになる。いかにあの人がかっこよかったか、優しかったか、尽くしてくれたか。様々なエピソードを出し、当時の恋心を呼び覚ましては、 目の前の彼に抱きつつある感情に蓋をする。

そんな日々を送る中、ある日いつものように「それでその時の彼が、」と昔話に花を咲かせていると、「……なぁ、名前」と突如彼が話を遮って。

「君は、私を試しているのか?」

そう口にする彼の表情が酷く冷めているから、背筋が凍る。しかし生憎、彼の言葉の意味は理解できず。困惑したまま彼を見れば、

「……君のそういう鈍いところは可愛らしくもあるが、一方でどうしようもなく憎らしくもあるな」

感情の読めない瞳がこちらを貫くと、思わずそれに気圧され尻もちをつき、後退る。

「私がこの部屋に身内以外の者を招いているのを一度でも見たことがあるか?」
「あ、の……」

一歩退けば、

「ないだろう。何せそれを許しているのは君だけだからだ」

また一歩、詰め寄られて。

「そんな相手に、毎日毎日他の男の話をされる私の気持ちを、考えたことはあるか? 私は確かに “君の話” が聞きたいとは言ったが、“君の男の話”が聞きたいとは言っていないはずだ」

そうしてついに背がベッドに辿りつき、逃げ場を失うと、彼のステッキがこちらの顎に添えられて。

「教えてくれ、名前。君は一体どういうつもりなんだ? 私をなんでも話せるただの友人として見ているから、そうしているのか? ……もしそうなのだとしたら、私はこれから君に対する態度を変える必要がある」

冷めたようでいて焦がすような熱い眸に、 心臓が早鐘を打つ。それは恐怖故か、はたまた期待故か。

「……どう、変わるんですか?」

ごくりと唾を飲み込んでそう言うと、

「……いいだろう、直々に教え込もうか」

と彼は言い。一瞬の浮遊感、彼の魔法により浮かせられた後、どさりと身体がベッドに沈み込む。

「だが、もう元には戻せないぞ。私たちの関係は」

それでもいいのか、と。確かめるその声には、僅かに不安が滲んでいる気がして。それを払拭するように彼の頬に手を添え、ゆっくりと頷けば、ゆらり、彼との影が重なり合い。かつて友人だった彼と、永遠の別れを迎えることとなった……。






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