生前の恋人のことを引き摺っているあなたに対する彼の反応(アラスター)








天国に来てからというもの、現世に残してきた恋人のことを思い出しては涙が溢れてしまっていて。もちろん仕事には極力それを出さないようにしているが、いざやることが無くなるとどうしても思い出してしまい、皆の見ていないところで独りめそめそとする日々。

「……オイ、今日も泣いてんのかよ。この未練タラタラの泣き虫ビッチが」

しかし、いつの日か、誰にも見つかったことのないこの場所に彼が現れて。居場所がバレてからはこうしてたまに顔を出してくるようになり、不思議な繋がりができるようになる。

「ハァ……いつまでもいつまでも辛気臭いったらありゃしねぇ」
「……」
「どうだ? もういっそのこと、チンコマスターであるこの私がお前を抱いて全部塗り替えてやろうか? 私ならお前に天国を見せてやれるぞ?……つってもここは天国だけどな!はははは!」
「……いくらアダム様と言えども、さすがにそれはないです」

どう考えても慰めには取れないその言葉に膝を抱えて俯けば頭を抱え、再びため息をつく彼。次にはこちらの横に座り込み、 どこか呆れたような表情を浮かべながら口を開く。

「……お前、私に何人の部下がいるか知ってるか?」
「……知りません」
「だよな!私も正直わからん!!……だが、とにかくめちゃくちゃいっぱいいるのは確かだろ? でもそんな中、お前は
新参にも関わらず私に顔を覚えられていて、超〜〜絶忙しい私にわざわざ声をかけてもらえている。この有難みを分かってるのか?」
「……身に余ることであると理解はしていますが、私は望んでいません」
「ハァァ……」

また大きくため息をつき、黙り込む彼。暫くすると、「……気が向いたらまた来るわ。あんま長居すんじゃねーぞ」と残し、その日は別れて。

数日後。いつもの場所で彼が「窃盗、詐欺、姦淫、殺人未遂」なんて出会い頭に言うから驚いてしまう。

「見た目に反して随分なご趣味だな? で、 こんなゴミ屑野郎のどこに惚れたんだよ」

彼のその言い方から、生前の恋人の罪状を述べたのだと察すると、思わず、どうして……、と言葉が漏れる。

「お前が毎回名前呟いてるもんだから覚えちまったんだよ。そんで、ちょいと調べてみたらこれだ」
「……ってことは、彼は今……」
「まぁ当然地獄にいるわな」

あの人がもう死んでる上に罪人だったなんて。ならきっと、もう二度と会うことはないだろう。そう思い至った瞬間、様々な感情が交錯し、堰を切ったように涙が溢れてきてしまって。

ついには大声を上げ泣いてしまうも、ふわり、大きな白い羽根が身体を包み込んでくれたおかげで、周囲に気づかれることはなかった。

「……ボス、そろそろ “あの時間” です」

彼の側近であるリュートがそう呼び掛けにくるまで、それは続いていた。


────そして、さらに数日後。

「よう、 泣き虫ビッチ。お前本当にココ好きだな」

日課として毎日訪れる場所に、彼が現れて。

「こんにちは、アダム様。好き……というよりか、日常の一部になっていて」
「……今日は、泣いてないんだな?」
「……あの事はもうどうか忘れてください。理由もないのに泣いてたなんて、恥ずかしい話でしょう?」
「……」
「本当、どうしてあんなに泣いてたのか……不思議です。ここに来る理由、実はそれを思い出すのも兼ねてたりするんですよ」

そう口にすれば、なぜか彼は僅かに俯いて。

「……悪く思うなよ。これが、私なりの “救済” だったんだ」
「……え?」
「……いや、なんでもねぇわ」

彼はそう言うと、美しい羽根をはためかせながら、軽く宙に浮く。

「ここは天国だ!楽しいことだけ考えてりゃいい!ここに来たお前にはその資格があるんだからな。もしその楽しみ方がわからないなら、私が直々に教えてやらんでもないぞ!」
「……」
「……あー、だから、つまりその……もういい加減、そんなシケた面すんなって話だ」

照れ隠しからか、ぽりぽりと頬を掻く彼に、なんだか胸が暖かくなってくる。

「……ふふ、はい」と自然に微笑めば、彼は一瞬驚いたような表情を浮かべた後、「……ふっ、やっと笑ったな。さすがは私だ!」 と自慢げな顔をするから、更に声を出して笑ってしまう。

すると、突として頭上にぽん、と柔く彼の手が触れて。

「……その顔が一番似合ってるぞ、お前には」

優しい声色とともに降り注ぐのは、慈愛の籠った眼差し。人類の祖先であるにもかかわらず、どこか少年のような純粋さを思わせるそれに、仮面を被っているはずの彼の素顔が見え隠れしているような気がして。

とくり。小さく鳴ったその音が、新たな感情のはじまりを告げた。





backtop