自分に会いに来てくれたかと思ったら別件でテンションが急降下する彼(エンジェル)







お邪魔します、とホテルの扉を開ければ、ロビーにいるエンジェルとばちりと目が合って。

「名前! おい、来てくれるなら最初から言ってくれよ〜! ほら、こっち座れって」

きらりと金の八重歯を輝かせて笑う彼は、バーカウンターから素早く酒を取り出すと、 ソファーに座るよう促してくれる。

「あー……ごめん、今日はゆっくり飲む時間ないかも」
「えっ?なんで?」
「実はこれから出かける用があって」
「……用?」
「うん。チャーリーとヴァギーと一緒にショッピングに行く約束したんだ。ここに来たのはそれが理由なの。待たせたら悪いかなと思って余裕もって来たんだけど、 ちょっと早すぎちゃったみたいだね」

彼女たちがいないことを確認してそう言えば、「……なーんだ。そういうことだったのか」と分かりやすく落胆する彼。

「名前ってば、俺というものがありながらすぐ他の人とも仲良くなっちゃうんだもんなぁ。昔はずっと俺だけだったのに。あーあ、みんなに名前のこと紹介するんじゃなかったなー」
「……、エンジェル……」

ぶすりとした表情でそっぽを向いてしまう彼に思わず歩み寄ろうとすると、彼はそれを制するようにこちらに手のひらを向ける。

「待って、やっぱり今のナシ。……ごめん、なんか重い感じになっちゃって」
「いや、そんなこと」
「いいんだ、分かってる。 ……名前がみんなと仲良くなるのは嬉しいんだけどさ、ほんのちょっとだけ複雑っていうか……そんな感じなだけ。別に名前を縛る気はないんだ。けど俺は、……いや、やっぱなんでもない」

そう言ってしおしおと小さくなり、蹲ってしまう彼とは裏腹に、こちらの胸はぽかぽかとあたたまっていく。おもむろに彼の前に立ち、その頬に手を添えれば、彼は不安げな瞳でこちらを見上げてきて。

「……ねぇ、エンジェル。確かに私はエンジェルのお友達のこともすごく好きになったけど、私の一番の親友はずっとエンジェルだけだよ。それは絶対に揺らがない。たとえ、この先にどんなにいい友人が出来たとしても」
「……!」
「どう?私もなかなか重いでしょ?」

そう言ってくすりと笑いかければ、

「……名前って、いつも俺の欲しい言葉をくれるよな。ほんと、敵わないよ」

と笑顔を見せてくれる彼。

「それってつまり?」
「最高ってことだよ、俺のかわい子ちゃん!」
「わっ、」

がばりとこちらに抱きついて来る彼に驚きつつも、ふふ、と笑みが溢れ出す。

「……俺も同じ気持ちだよ。ずっとずっと、名前がナンバーワン!」

もふもふとした彼の胸に包まれながら、そんな嬉しい言葉が聞こえて、こちらも彼の背に手を伸ばす。

まさか地獄に落ちてから、こんなに素敵な出会いに恵まれるだなんて、思いもしなかった。そう幸せを噛み締めながら、そのままチャーリーとヴァギーが来るまで、彼とロビーで抱き合っていた。

「……一番の親友、か。俺としてはもう少し先に進めたら嬉しいんだけどね」
「……あれ? ごめん、今なんて言ったか聞こえなかったかも」
「や、こっちの話だから大丈夫」





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