急にヴォックスに呼びつけられ来てみたものの、肝心の彼と連絡がつかない上に、めぼしい場所はどこも見当たらなくて。通りかかった社員に行方を尋ねてみると、「申し訳ございませんが、私も把握しておらず……ですがこの時間でしたらもしかしたら、 ヴァレンティノ様のところにいるかもしれません」とのことだったので、急遽彼のところへ向かうことに。
「おいおい名前じゃないか!そろそろ俺が恋しくなってきたってところか?まったく待ちくたびれたぜ、baby♡」
……というように、お目当ての本人がいなかった代わりに、彼に熱烈に歓迎されてしまって。彼の性格上、ここで “ヴォックスさんに呼ばれて来て……” なんて言おうものなら大癇癪が起きるだろうし、普通に殺されかねない。珍しく機嫌がいいだけでも僥倖なのだ、 ここは彼に合わせよう。瞬時にそう判断すると、
「……そう、なんです。連絡は取ってましたが、最近会ってないなって思って」
不審に思われないよう努めてにこりと笑顔を浮かべる。
「……ああ、本当にな。立ち話もなんだ、こっち座ってゆっくり話そうぜ?」
にこり。同じく笑みを返す彼にホッと安堵しつつ、促されるまま彼の座るソファーの横に腰を下ろそうとする。が、それは突如彼に腕を引き寄せられたことによりかなうことはなく。代わって今の体勢は、彼に押し倒される形となって。
「ヴァレン、ティノ……?」
「……なぁ。お前、いつからそんな演技派になったんだ?」
「……え?」
「俺に会いに来たってヤツ、嘘だろ?」
冷ややかな声色。確信を持ったその口調に冷や汗が流れる。
「……そんなこと」
「この期に及んで惚ける気か?無駄だよ。こんな仕事してんだ、大根役者の演技は腐るほど見てきてる。俺以外の用でここに来たってんなら……ああ、Voxyか」
……終わった。人生……はもう終わっているけれど、なんか、もう色々と。彼にはこういう変なところで鋭いきらいがあることを、すっかり忘れてしまっていた。
「……ごめんなさい、その通りです」
もはやこちらにできるのは、潔く彼に真実を告げ、あとは煮るなり焼くなり好きにされるだけ。すべてを諦め、まな板に乗った魚の気持ちで目を瞑っていると、「……分かった」と彼の声。
「つまり、お前をヴォックスより俺に夢中にさせりゃいいってことだろ?」
「……え?」
妙に冷静かつ思いもよらない彼の言葉に、思わず目を開く。そこには、楽しそうにニヤリと笑う彼がいて。
「ヴォックスから寝取るとか興奮しちまうな……おい、名前。今日から徹底的に俺に堕としてやるから覚悟してろよ? あいつにも出来ないようなすごいヤツ、たっぷり教えてやるからな、sweetie♡」
……その後どうなったかは、もはや言うまでもないが、そもそものヴォックスの用件が “ヴァルが最近君に会えずストレスが溜まっているから、相手をしてやってくれ” だったため、結局のところ行き着く先は同じだったのかもしれないと、後から静かに悟ることとなった……。