自分に会いに来てくれたかと思ったら別件でテンションが急降下する彼(ルシファー)







チャーリーが実家から持ってきたいものがあるとのことで、気が乗らなそうな彼女の代わりに頼まれ物を取ってくることになって。そういえば最近あの人に会えてなかったからいいタイミングだったな、なんて少し胸を弾ませながら足を進めていくと、やがて大きな邸宅が見えてくる。足を踏み入れるさなか、門番はちらりとこちらを見たが、顔を知られているのか無言で道を空けてくれた。

「……お邪魔します」

小声で呟きながら玄関を潜ると、ドン!、上の方から大きな音が鳴り響いたかと思えば、次には目の前に彼が現れた。

「名前! よく来てくれたな!!」

こちらの手を両手で握りぶんぶんと振る彼に、一瞬胸が跳ねてしまう。努めて平静を装いながら、

「ふふ、お久しぶりですルシファーさん。今日はチャーリーの代理で、物を取りに来たんです」

と伝えると、彼の動きがぴたりと止まる。そして、…………なぜか壁の端で体育座りを始めた。

「……そうだよな。君が私になんかに会いに来ないよな……ああ、分かっていたとも……」

あっ、今日鬱の日だった……! と、今更気づいてももう遅い。よくよく見てみれば彼の目の下には、くっきりとクマがのびていて。

「誰も私を気にかけない……」
「わ、私はいつも気にかけてますよ……!」
「存在価値などない……取るに足らない存在なんだ……」「私にとっては唯一無二で、いないと困る存在です!」
「どうせ誰も私を愛さない……」
「私があなたを愛します!!」

……。

あれ、今なんて言った? 勢いでなにかとんでもないことを口走ったような気がし、急いで自身の言ったことを反芻しようとしていると、

「……ふっ、ははは!」

彼が声を出して笑い始めて。

「ははっ、……ああ、いや、すまない。実は、そこまで落ち込んでいたわけじゃなかったんだ。まぁ、全く落ち込んでいないと言えば嘘になるんだがね」

彼はにこりと笑顔を向けたまま立ち上がり、こちらに歩み寄る。

「そうだな……どちらかと言うと、私は少し拗ねているのかもしれない。待ち侘びていた相手がいざ訪ねてくれたと思ったら、別件だったことにな。地獄の王ともあろう者が恥ずかしい話だろう?」

とくり、 と胸が鳴る。彼の、こういうことをさらりと言ってのけるところが、ずるくて、少し残酷で……でも、どうしようもなく惹かれてしまう。

「……いえ、そんなことないです。むしろ、そんな風に思ってくれて嬉しいですよ。あと、本当のことを言ってしまうと……確かに用自体はチャーリーの頼まれ物なんですけど、私がそれを引き受けたのは、ルシファーさんとお話できるかなって期待したからなんですよね」

我ながら少し攻めた発言をして、体が熱くなる。

「……そうか。なら次はぜひとも私に会いに、そのためだけにここへ来てくれないか? その時には、私が君に美味しいパンケーキをご馳走しよう」

にこり、微笑む彼のその表情は、まるで娘に向けるそれのよう。……まぁ、そうだよね。最初からそれほど期待はしていなかったため、ほんの少しだけ肩を落としつつも、「……はい、分かりました。近い内に絶対来ますね」と笑い返す。

「ああ、楽しみにしているよ。……“さきほどの発言” についても、詳しく聞きたいところだからな?」

さきほど。意味深なその言い方に一瞬首を捻るけれど、ふと頭に浮かんだのは『私があなたを愛します!』と叫ぶ自身の声で。

「……!!」
「引き留めてしまって悪かったな。頼まれた物があるんだろう? 早く済ませてくるといい。……ただし、次回の逢瀬では十分な時間を確保しておいてくれるとありがたい」

では、またな。

彼はそう言いウィンクをすると、きらりと魔法で去っていって。一方こちらは、真っ赤な顔で一人立ちつくし、彼の言う “次回の逢瀬” が楽しみなようなそうでないような、 複雑な感情に苛まれることとなった。





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