出会いがないのでマッチングアプリを始めてみた(アラスター)







アラスターのことが気になってはいるものの、彼が色恋に興味なさげな様子であることは何となく察していて。脈もないだろうし、彼のことを忘れる意味も込めてマッチングアプリをインストールしてみることに。プロフィール写真を見ながら良さげな人を探していると、

「……誰ですか? その胡散臭い男は」

と背後から彼の声がしてくるから驚く。彼のことだから嫌悪感を抱くような気がして言いづらいけれど、彼相手に隠し事は不可能。強制的に口を割らされる前に、「……マッチングアプリ、だよ」と零せば、「……まっちんぐ……? 一体なんですそれは?」とまさかのおじスターさんが登場。めちゃくちゃ気は進まないものの、「えっと、アプリを通じて気になる相手を探せるツールかな。……パートナーを見つける目的で」と簡単にマッチングアプリの説明をすれば、みるみる内に表情が固くなっていく彼。そして一言。

「なぜそのような低俗なことを?」

ぐさり。他でもない彼からその言葉を言われるのはかなり刺さる。とはいえ恋人が欲しいけど気になってるアラスターは脈なしだから≠ネんて本音は言えるはずもなく。

「……だって、出会いがないから」

ぼそりとそう呟けば、彼はきょとんとした顔をして。

「出会い? 何を言っているんです、私がいるじゃないですか」

躊躇いなくそんなことを言った彼に息を飲むけれど、きっと彼の言う出会い≠ヘ、私の思っている意味とは違うのだろうなと思い直す。

「うーん、そうじゃなくて……恋人が欲しいって意味」
「……」

なんだかいたたまれない気持ちになり彼から視線を逸らすと、「……そうですか。ならやはり、出会いは必要ありませんね」と彼の声。

「え、それってどういう……」
「分かりませんか?私とコイビトになればいい、と言っているんです」

……。

「……えっ!?」

予想外の展開に、頬が急激に熱くなる。思わず彼の顔を凝視するけれど、その顔は少なくともからかっている、という風ではなくて。

「待って! アラスター、 無理しなくていいよ!?」
「無理? 別に無理などしていませんが」
「え、だって……分かってる?恋人になるってことは、例えば私と手繋いだりとかするよ……?」
「全く問題ありません」
「あとは……き、キスしたりとか……」
「今すぐして差し上げましょうか?」
「……それ以上のこととか……」
「貴女が望むのなら、応えますよ」

まさか彼がそんな風に考えているだなんて思いもしなくて。脳がキャパオーバーを迎え、逆にこれ以上の供給を拒みたくなってしまう。

「……簡単に言うけど、そういうのってお互いにしたいと思ってすることだと思うし……“出来る” と “したい” は違うでしょ? そもそもアラスターって、私のこと好きなの……?」

若干めんどくさいことを聞いている自覚がありつつも、後々揉めるのも嫌なので、はっきりそう尋ねてみると。するり、彼がこちらの手を取り、両手で優しく包み込んできて。

「……いいですか、my dear。確かに私は貴女の考える通り、所謂 “一般的な” 恋人同士の触れ合いを欲しているわけではありません。ですが、貴女の欲を私が満たしたいと思う気持ちはありますし、その相手は他でもない私で在りたい。そんな風に思うのは貴女だけですよ。……これだけでは不満ですか?」

“好き” でも “愛してる” でもないその言葉。けれど、彼という人がそれを言ってくれたという事実は、こちらを喜ばせるには十分すぎる価値があって。

「……ううん。不満じゃないよ、ありがとう。……改めて、私の恋人になってくれる? アラスター」

高鳴る心臓を感じながらそう言えば彼は、

「もちろんですよ、my darling」

と応え、握ってくれていたこちらの手の上に柔いキスを落としてくれた。

……晴れて恋人になったその後、恋人同士の触れ合いは望んでないとかなんとか言ってた彼自身が常時こちらにべったりになったのは、また別の話。






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